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裁量労働制拡大に向け再始動-裁量労働制実態調査検討会1年2ヵ月ぶり開催-

突然「裁量労働制実態調査に関する専門家検討会」開催案内が厚労省公式サイトに

厚生労働省の第7回「裁量労働制実態調査に関する専門家検討会」が明日(2021年6月25日)16:00~18:00、AP虎ノ門で開催。議題は「裁量労働制実態調査について」。

前回(第6回)「裁量労働制実態調査に関する専門家検討会」は昨年(2020年)4月6日に開催していたので1年2ヵ月を経てからの開催となる。また前回検討会の議題も「裁量労働制実態調査について」。

第6回「裁量労働制実態調査に関する専門家検討会」については配布資料と議事録が公開されている。議事録には労働条件政策課課長補佐が「今後の日程等につきましては、調整の上、追って御連絡差し上げたいと思います」と書かれているが、(略)禍の中、調整がつかなかったのだろうか、または裁量労働制実態調査を急ぐ必要がないと判断したのだろう。

そして1年2ヵ月ぶりに「裁量労働制実態調査に関する専門家検討会」開催案内が厚生労働省公式サイトに載ったのが、今週火曜日(6月22日)。まさに突然の専門家検討会の再開。また開催が金曜日(6月25)というから、余程、急いでいるらしい。

つまり、裁量労働制実態調査を急ぐということは裁量労働制対象拡大に向け、再び厚生厚生労働省が次の国会に法案提出するために動き出したということ。なぜ急ぐのか、多分、経団連が要望しているからだろう。

裁量労働制の対象拡大を経団連が要望

「改訂 Society 5.0の実現に向けた規制・制度改革に関する提言-2020年度経団連規制改革要望-」を昨年(2020年)10月13日に経団連(一般社団法人 日本経済団体連合会)が公表したが、その「Ⅲ.2020年度規制改革要望」「2.テレワーク時代の労働・生活環境の整備」に「企画業務型裁量労働制の対象業務の見直し」などが要望として記載されている。

No. 44. 企画業務型裁量労働制の対象業務の見直し
<要望内容・要望理由>
労働基準法は、企画業務型裁量労働制の対象を「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であって、当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務」と定めている。

しかしながら、経済のグローバル化や産業構造の変化が急速に進み、企業における業務が高度化・複合化する今日において、業務実態と乖離しており、円滑な制度の導入、運用を困難なものとしている。

そこで、「働き方改革関連法案」の審議段階で削除された「課題解決型提案営業」と「裁量的にPDCAを回す業務」を早期に対象に追加すべきである。

<根拠法令等>
労働基準法第38条の4

働き方改革関連法案から裁量労働制拡大を削除した安倍総理(当時)

2020年10月の経団連要望には「『働き方改革関連法案』の審議段階で削除された『課題解決型提案営業』と『裁量的にPDCAを回す業務』を早期に対象に追加すべき」とある。

だが、この「課題解決型提案営業」「裁量的にPDCAを回す業務」を付け加えて裁量労働制対象拡大しようとする案は2018年2月28日に安倍晋三首相(当時)は「働き方改革関連法案」から削除して一度は断念している。

安倍晋三首相は(2018年2月)28日、裁量労働を巡る厚生労働省の調査結果に異常値が多発している問題を受け、今国会に提出を予定する働き方改革関連法案から、裁量労働制の対象拡大に関わる部分を削除する方針を決めた。裁量労働制部分については今国会での実現を断念した。異常データ問題への批判が拡大し、与党からも慎重な対応を求める声が高まったため、裁量労働を含む一括法案のままでは国会審議に耐えられないと判断した。

首相は28日深夜、首相官邸で加藤勝信厚労相と会談し、働き方改革関連法案から裁量労働制に関する部分を削除するよう指示。首相は会談後、「裁量労働制に関わるデータについて、国民の皆様が疑念を抱く結果になっている。裁量労働制は全面削除するよう指示した」と記者団に表明した。(「働き方法案 安倍首相、裁量労働制の対象拡大 今国会断念」、毎日新聞デジタル版、2018年3月1日配信)

上西充子教授による告発ツイート(2018年2月)

毎日新聞記事には「異常データ問題への批判が拡大」とあるが、この異常データ問題は2018年2月1日に法政大学の上西充子教授は発信した次のツイートから発覚した。

昨日の質疑で、データ出所が平成二十五年労働時間等総合実態調査であることが明らかにされたようですね。けれどこのデータから何かを語るのは、非常に問題がありです。子細工といってもいい(『「働き方改革」の嘘ー誰が得をして、誰が苦しむのか』より)

この告発ツイートについては久原穏氏(東京新聞・中日新聞論説委員)が書かれた『「働き方改革」の嘘ー誰が得をして、誰が苦しむのか』(集英社新書)「プロローグ 裁量労働制をめぐる欺瞞」に詳しく述べられている。

裁量労働制実態調査専門家検討会の動きを注視すべき

突然の「裁量労働制実態調査に関する専門家検討会」再開。知らない人も思うが、注視すべき厚生労働省の有識者会議の一つであることは間違いない。

裁量労働制実態調査に関する専門家検討会(厚生労働省公式サイト)

追記:裁量労働制実態調査結果を厚生労働省が公表

昨日(2021年6月25日)、厚生労働省「裁量労働制実態調査に関する専門家検討会」(第7回)が開催され、その配布資料が厚生労働省公式サイトにて公開され、「裁量労働制実態調査結果」が公表された。

第7回「裁量労働制実態調査に関する専門家検討会」資料(厚生労働省公式サイト)

追記:裁量労働制実態調査の結果概要

公表された「裁量労働制実態調査結果概要」には、裁量労働制実態調査「結果の概要」が記載されている。

結果の概要
1 適用事業場調査
(1) 裁量労働制の対象業務別労働者割合
適用労働者がいる適用事業場における常用労働者(短時間労働者を除く。以下同じ。)に対する適用労働者の割合は、適用労働者の合計では 24.6%、うち専門型裁量労働制の適用労働者は 20.9%、企画型裁量労働制の適用労働者は 3.8%である。
適用労働者がいる適用事業場における適用労働者の合計に対する専門型裁量労働制の適用労働者の割合は 84.8%、企画型裁量労働制の適用労働者の割合は 15.2%である。
適用労働者の合計に対する対象業務別の専門型裁量労働制の適用労働者割合は、「情報処理システムの分析・設計の業務」(24.8%)が最も高く、次いで、「新商品・新技術の研究開発又は人文科学・自然科学に関する研究業務」(20.4%)、「大学における教授研究の業務(主として研究に従事するもの)」(15.1%)である。

(2) 裁量労働制の対象業務別事業場割合
適用労働者がいる適用事業場における、専門型裁量労働制の適用労働者がいる事業場の割合は 87.3%、企画型裁量労働制の適用労働者がいる事業場の割合は 22.9%である。
適用労働者がいる適用事業場における対象業務別の専門型裁量労働制の適用労働者がいる事業場割合は、「情報処理システムの分析・設計の業務」(29.0%)が最も高く、次いで、「新商品・新技術の研究開発又は人文科学・自然科学に関する研究業務」(20.7%)、「デザイナーの業務」(17.0%)である。

(3) 1日の所定労働時間階級別事業場割合、1日の平均所定労働時間数
適用労働者がいる適用事業場における1日の所定労働時間階級別事業場割合は、「8時間」(47.1%)、「7時間30分超7時間45分以下」(19.4%)などとなっている。
また、1日の平均所定労働時間数は、適用労働者がいる適用事業場では7時間43分、専門型裁量労働制の適用労働者がいる適用事業場では7時間 45 分、企画型裁量労働制の適用労働者がいる適用事業場では7時間36分である。

(4) 1週間の所定労働時間階級別事業場割合、1週間の平均所定労働時間数適用労働者がいる適用事業場における1週間の所定労働時間階級別事業場割合は、「40時間」(47.7%)、「38時間超39時間以下」(19.2%)などとなっている。
また、1週間の平均所定労働時間数は、適用労働者がいる適用事業場では38時間39分、専門型裁量労働制の適用労働者がいる適用事業場では38時間51分、企画型裁量労働制の適用労働者がいる適用事業場では37時間55分である。

(5) 労働時間の状況の把握方法別事業場割合
専門型裁量労働制の適用労働者がいる適用事業場における労働時間の状況の把握方法別事業場割合は、「タイムカード・IC カード」(44.3%)が最も高く、次いで、「自己申告」(35.2%)である。
企画型裁量労働制の適用労働者がいる適用事業場における労働時間の状況の把握方法別事業場割合は、「PC のログイン・ログアウト」(36.3%)が最も高く、次いで、「タイムカード・IC カード」(29.5%)である。

(6) 1日のみなし労働時間階級別事業場割合、1日の平均みなし労働時間数適用労働者がいる適用事業場における1日のみなし労働時間階級別事業場割合は、事業場別の日数平均 1)では、「7時間45分超8時間以下」(22.8%)、「8時間45分超9時間以下」(17.4%)、「7時間30分超7時間45分以下」(12.9%)などとなっている。
適用労働者がいる適用事業場における1日の平均みなし労働時間数は、適用労働者がいる適用事業場においては、事業場別の日数平均を用いた単純平均 では8時間30分、労働日数加重平均では8時間14分である。
専門型裁量労働制の適用労働者がいる適用事業場においては、事業場別の日数平均を用いた単純平均では8時間33分、労働日数加重平均では8時間16分である。
企画型裁量労働制の適用労働者がいる適用事業場においては、単純平均では8時間17分、労働日数加重平均では8時間9分である。

(7) 1か月の労働時間の状況の1日当たり平均の階級別事業場割合、1日の労働時間の状況の平均
適用労働者がいる適用事業場の1か月の労働時間の状況の1日当たり平均の階級別事業場割合は、事業場別の日数平均では、「8時間45分超9時間以下」(11.1%)、「8時間30分超8時間45分以下」(11.0%)、「9時間超9時間15分以下」(10.1%)などとなっている。
適用労働者がいる適用事業場における1日の労働時間の状況の平均について、適用労働者がいる事業場においては、事業場別の日数平均を用いた単純平均では8時間45分、労働日数加重平均では8時間44分である。また、1か月の労働時間の状況の平均(1人当たり)及び1か月の労働日数の平均(1人当たり)については、それぞれ171時間36分、19.64 日である。
専門型裁量労働制の適用労働者がいる適用事業場においては、事業場別の日数平均を用いた単純平均では8時間43分、労働日数加重平均では8時間41分である。また、1か月の労働時間の状況の平均(1人当たり)4)及び1か月の労働日数の平均(1人当たり)については、それぞれ170 時間34 分、19.63 日である。
企画型裁量労働制の適用労働者がいる適用事業場においては、単純平均 では8時間53分、労働日数加重平均では9時間0分である。また、1か月の労働時間の状況の平均(1人当たり)及び1か月の労働日数の平均(1人当たり)については、それぞれ176時間50分、19.64 日である。

(8) 裁量労働制の導入理由、評価別事業場割合
専門型裁量労働制の適用労働者がいる適用事業場における裁量労働制の導入理由別事業場割合は、「労働者の柔軟な働き方を後押しするため」(75.5%)が最も高く、次いで、「効率的に仕事を進めるよう労働者の意識改革を図るため」(50.8%)である。
企画型裁量労働制の適用労働者がいる適用事業場における裁量労働制の導入理由別事業場割合は、「労働者の柔軟な働き方を後押しするため」(67.7%)が最も高く、次いで、「効率的に仕事を進めるよう労働者の意識改革を図るため」(65.2%)である。
専門型裁量労働制の適用労働者がいる適用事業場における裁量労働制の導入理由に対する評価として「効果があった」と回答があった事業場の割合を導入理由別にみると、「労働者の柔軟な働き方を後押しするため」(85.6%)、「業績に基づく評価制度の実効性を高めるため」(80.9%)などとなっている。
企画型裁量労働制の適用労働者がいる適用事業場における裁量労働制の導入理由に対する評価として「効果があった」と回答があった事業場の割合を導入理由別にみると、「労働者の要望に応えるため」(93.8%)、「業績に基づく評価制度の実効性を高めるため」(93.2%)などとなっている。

(9) 裁量労働制の適用要件別事業場割合
専門型裁量労働制の適用労働者がいる適用事業場における裁量労働制の適用要件別事業場割合は、「職種(事務職、営業職、専門職など)」(75.1%)が最も高く、次いで、「労働者本人の同意」(46.3%)である。
企画型裁量労働制の適用労働者がいる適用事業場における裁量労働制の適用要件別事業場割合は、「労働者本人の同意」(97.2%)が最も高く、次いで、「一定の人事等級以上(職能クラスなど)」(68.0%)である。<以下略>(資料1「裁量労働制実態調査結果概要」抜粋)

追記:裁量労働制実態調査結果に関する報道

昨日(2021年6月25日)、「裁量労働制実態調査結果」を厚生労働省が公表したが、共同通信は「1日の平均労働時間は適用されない労働者より約20分長く、週平均でも2時間以上上回った。制度が必ずしも長時間労働の抑制につながっていない現状が浮き彫りになった」と報じた。

NHK NEWS WEBは「裁量労働制で働く人の労働時間はそうでない人と比べて長く、長時間労働の割合も多いことが、厚生労働省が初めて行った実態調査で分かりました。厚生労働省は来月(2021年7月)、有識者の検討会を設置し、裁量労働制の適用業務を拡大すべきかなどの検討を始める方針」と報じた。

上西充子・法政大学教授は自身のツイッターアカウントで「異常データを多数含む調査結果が法案提出の前提となる労政審に提出されていたため、裁量労働制の実態把握からやりなおす必要があるということになり、改めて調査をやりなおし、その結果が今日発表されたということ。そしてやはり、裁量労働制の方が労働時間は長かった」とツイート。

また上西教授は「で、なぜ調査をやり直したかと言えば、2018年に働き方改革関連法案から裁量労働制の拡大が削除された直後から、経済界は再度拡大のための法改正を、と求めていたからなわけです。つまりデータが出て、また議論がはじまる」と、つづけてツイートしている。

再び、2018年以来になる裁量労働制適用拡大に向けた労働基準法改正の「議論がはじまる」ということだが、厚生労働省が新たな検討会(有識者会議)を来月(7月)に設置する方針、とNHKが報じるように新たな検討会で議論されることになる。

厚生労働省は、裁量労働制について初めて実態調査を行い、おととし10月時点の状況について、1万4000余りの事業所とおよそ8万8000人の労働者から回答を得ました。

それによりますと、1日平均の労働時間は、裁量労働制で働く人は9時間、そうではない人は8時間39分で、裁量労働制で働く人がおよそ20分長くなりました。

また、1週間の労働時間が60時間を超えた人の割合は、裁量労働制で働く人は9.3%、そうではない人は5.4%で、裁量労働制で働く人は長時間労働の割合も多くなっています。

午後10時から午前5時までの深夜時間帯の仕事について「よくある」「ときどきある」と回答したのは、裁量労働制で働く人は34.3%、そうでない人は17.8%となりました。

労働時間の把握方法は、裁量労働制で働く人は、
▼「自己申告」が32.5%、
▼「タイムカード・ICカード」が32.2%、
そうでない人は、
▼「タイムカード・ICカード」が44.6%、
▼「自己申告」が26.4%でした。

裁量労働制で働く人に仕事の内容や量などの裁量を聞いたところ、「企画型」の場合「上司に相談のうえ、自分が決めている」が45.4%と最も多く、次いで「上司が自分に相談し決めている」が25.3%となった一方「自分に相談なく上司が決めている」が6.8%でした。

また、裁量労働制で働く人に制度について意見を聞いたところ、
▼「今のままでよい」が34.1%、
▼「特に意見はない」が28.4%、
▼「制度を見直すべき」が28%となりました。

一方、導入した事業所に理由を聞いたところ「柔軟な働き方を後押しするため」や「効率的に仕事を進めるよう意識改革を図るため」などの意見が多くなりました。

裁量労働制の対象労働者の範囲を見直すべきだと答えた事業所では「対象範囲が狭い」という意見が多くなりましたが、働く人からは「対象範囲が不明確」「対象範囲が広い」などの声が相次いでいます。

裁量労働制をめぐっては、3年前に成立した働き方改革関連法で当初、適用業務の拡大が盛り込まれましたが、厚生労働省の調査に多くの不備が見つかり、法案から削除されました。

厚生労働省は来月、有識者の検討会を設置し、裁量労働制の適用業務を拡大すべきかなどの検討を始める方針です。(NHK NEWS WEB「裁量労働制で働く人 長時間労働の割合多い 厚労省が初調査」抜粋、2021年6月25日配信)

追記:厚生労働省サイト裁量労働制実態調査リンク

裁量労働制実態調査詳細については次の厚生労働省公式サイトのページに。

裁量労働制実態調査(厚生労働省公式サイト)

裁量労働制実態調査 結果の概況(厚生労働省公式サイト