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労働基準関係法制研究会 報告書
厚生労働省の有識者会議「労働基準関係法制研究会」は、同じく厚生労働省の有識者会議「新しい時代の働き方に関する研究会」につづいて開設された厚生労働省の有識者会議になり、労働基準法などの中長期的な見直しを議論して「新しい時代の働き方に関する研究会」同様に報告書の作成をめざしています。
新しい時代の働き方に関する研究会 報告書
厚生労働省は有識者会議「新しい時代の働き方に関する研究会」を開設して報告書に向けた議論をつづけてきましたが、厚生労働省は2023年10月20日に「新しい時代の働き方に関する研究会報告書」を公表しました。
新しい時代の働き方に関する研究会(厚生労働省サイト)
新しい時代の働き方に関する研究会報告書 経過
第13回「新しい時代の働き方に関する研究会」が、2023年8月31日に開催されましたが、議題は「報告書に向けた議論」でした。
そして、この日の研究会資料1は「報告書(骨子案)」とタイトルがつけられていました。
新しい時代の働き方に関する研究会 報告書(骨子案)
第1 本研究会の契機となった経済社会の変化
1.企業を取り巻く環境の変化
<省略>
2.働く人の意識の変化、希望の個別・多様化
<省略>
3.組織と個人の関係性
<省略>
4.本研究会でのヒアリング結果
<省略>
第2 新しい時代に対応するための視点
1. 「守る」と「支える」の視点
<省略>
2. 働く人の求める多様性尊重の視点
<省略>
第3 新しい時代に即した労働基準法制の方向性(守り方・支え方)
1.変化する環境下でも変わらない考え方
<省略>
2.働く人の健康確保
<省略>
3.働く人の選択・希望の反映が可能な制度へ
(1)変化に合わせた現行制度の見直し
<省略>
(2)個が希望する働き方・キャリア形成に対応した労働基準法制
<省略>
4.シンプルでわかりやすく実効的な制度
<省略>
5.労働基準監督行政のアップデート
(1)労働基準監督行政の課題
<省略>
(2)効果的・効率的な監督指導体制の構築
<省略>
(3)労働市場の機能を通じた企業の自助努力(第2の「守り」)
<省略>
第4 企業や働く人に期待すること
〇我が国の持続的な成長・働く人の幸せな職業人生の実現
→ 働く人が自由で豊かな発想やそれぞれの創造性・専門性をもって働き、キャリアを形成することを可能とする環境を整備することが求められる。
→ 法制度面のみならず、企業・働く人双方の行動も重要
1. 企業に期待すること
(1)ビジネスと人権の視点
〇企業による経済活動のネットワーク化や国際化が進む中においては、企業内における働く人の人権尊重や健康確保を行うことはもちろんのこと、企業グループ全体で、サプライチェーンの中で働く人の人権尊重や健康確保を図っていくという視点(いわゆる「ビジネスと人権」の視点)を持って、企業活動を行っていくことが重要である。
(2)人的資本投資への取り組み
〇企業には変化に対して主体的・能動的に行動できる人材が必要
→ 人材を「人的資本」と捉え、企業はそれへの投資(「人的資本投資」)を増やすべき。(日本の企業による人的資本投資は諸外国に比べて少ないといった指摘もある)
【人的資本投資の例】
労働条件の改善・能力向上機会の確保・主体的なキャリア形成への支援
→ 人的資本投資により、人材の価値を最大限に高め引き出すことで、企業価値の向上とともに、健康状態の改善、個人の幸福感の向上、チームワークの向上をもたらすことが期待される。
〇働く人は就業形態や属性にかかわらず、価値創造の担い手であり、企業はこうした属性にかかわらず人的資本投資に取組むことが必要
(3)働き方・キャリア形成への労使の価値観の共有
〇働く人:自らキャリア形成できる者とそうでない者が存在
→ 企業による一定のサポートが必要
〇企業がパーパスを明確にし、社内に浸透させた上で、エンゲージメントを高める、さらには社内外の人的つながりを構築するための人事施策を取り入れることは、キャリア形成の促進についても有効
〇パーパスだけでなく、企業が自らのビジネスの将来像や、それに適した人材像を可視化し、働く人と共有していく(双方向のコミュニケーションを図る)ことで、働く人が自らのキャリアを形成していく上で、企業の求める方向性と合致した能力を高めていく選択が容易になる。
→ 企業は必要な専門的能力の高い人材を、中長期的に確保しやすくなり働く人はより効果的・効率的に自らの価値を高めていくことが期待
2.働く人に期待すること
(1)積極的な自己啓発・自己管理
〇働く人が働き方を自ら選択すること
→ 働く人が、自らの心身の健康の保持増進にも努めることが重要
→ 働く人が、労働基準法制を正しく理解・活用できることが重要
→ 働く人が企業、社会、国等による教育や周知啓発等を通して自ら法制度について知ることが必要
〇多様な働き方・場所→企業・上司による直接管理が小さい働き方が拡大
→ 従来以上に、自己管理能力(セルフマネジメント力)を高めることが必要(業務遂行・健康管理の双方の観点から)
〇自らの望む働き方や、将来行う・行いたい仕事に求められる能力を開発することに、自主的・積極的に取り組むこと
(2)企業の目的・事業への積極的なエンゲージメント
〇企業のパーパスや、ビジネスの将来像、それに適した人材像などについて、働く人の側からの積極的な情報収集・価値観共有
→ 働く人がより効果的・効率的に自らの価値を高め、その企業内で中長期的に価値の高いキャリア形成を行うことが可能
(1)(2)のような取り組みを通して、働く人一人一人が心身の状態を良好に保ち、創造的なアイデアを生み出し、仕事のパフォーマンスを上げ、職業 人生を充実させることができる。
新しい時代の働き方に関する研究会 報告書(骨子案)(PDF)
新しい時代の働き方に関する研究会 報告書の議論と公表
第14回「新しい時代の働き方に関する研究会」2023年9月29日に開催され、資料は「資料1 新しい時代の働き方に関する研究会 報告書(案)」と「参考資料1 新しい時代の働き方に関する研究会 報告書骨子案に対する御意見」「参考資料2 新しい時代の働き方に関する研究会 報告書 参考資料」。
資料1 新しい時代の働き方に関する研究会 報告書(案)(PDF)
参考資料1 新しい時代の働き方に関する研究会 報告書骨子案に対する御意見(PDF)
参考資料2 新しい時代の働き方に関する研究会 報告書 参考資料(PDF)
そして2023年10月13日に第15回「新しい時代の働き方に関する研究会」(議題は「とりまとめ」)が開催されましたが、報告書に関する議論の詳細は議事録をお読みください。
第15回 新しい時代の働き方に関する研究会 議事録(厚生労働省サイト)
そして2023年10月20日に厚生労働省は「新しい時代の働き方に関する研究会」の報告書を公表しています。
「新しい時代の働き方に関する研究会」の報告書を公表します(厚生労働省サイト)
報告書の「労働基準法制における基本的概念が実情に合っているかの確認」(報告書20頁)には、 労働基準法は「事業または事務所に使用され、賃金の支払いを受ける労働者を対象とし」「労働者が働く場である事業場を単位として規制を適用することで、労働者を保護する法的効果を発揮してきた」が、「一方で、変化する経済社会の中で、フリーランスなどの個人事業主の中には、業務に関する指示や働き方が労働者として働く人と類似している者もみられること、リモートワークが急速に広がるとともに、オフィスによらない事業を行う事業者が出現してきていることなどから、事業場単位で捉えきれない労働者が増加していることなどを考慮すると、『労働者』『事業』『事業場』等の労働基準法制における基本的概念についても、経済社会の変化に応じて在り方を考えていくことが必要である」と記載されています。
新しい時代の働き方に関する研究会 報告書(PDF)
労働基準関係法制研究会とは
厚生労働省「労働基準関係法制研究会」は、「新しい時代の働き方に関する研究会」につづいて開設された厚生労働省(労働基準局)有識者会議になります。
「労働基準関係法制研究会」の目的は「今後の労働基準関係法制について包括的かつ中長期的な検討を行うとともに、働き方改革関連法附則第12条に基づく労働基準法等の見直しについて、具体的な検討を行うこと」とされています。
また「労働基準関係法制研究会」の検討事項は「『新しい時代の働き方に関する研究会』報告書を踏まえた、今後の労働基準関係法制の法的論点の整理」と「働き方改革関連法の施行状況を踏まえた、労働基準法等」とされています。
労働基準関係法制研究会の経過
・厚生労働省「労働基準関係法制研究会」の議題は毎回「労働基準関係法制」とありますが、2024年1月23日に開催された第1回研究会ではメンバー(構成員)全員が労働基準関係法制全般について個人としての意見を述べています。
・2月21日に開催された第2回研究会では「労働時間制度」について議論されました。
・2月28日に開催された第3回研究会では「労働基準法における『事業』及び『労働者』」について議論されました。
・3月18日に開催された第4回研究会は「労使コミュニケーション」について議論されました。
・3月26日に開催された第5回研究会では、これまで議論された「労働時間制度」「労働基準法における『事業』及び『労働者』」「労使コミュニケーション」についての論点を整理しながら、さらに掘り下げて議論を一巡したようです。
・4月23日に開催された第6回研究会では第5回研究会でのメンバー(構成員)意見を踏まえて議論を深めて論点を再整理したようです。
・5月10日に開催された第7回研究会は「労使団体ヒアリング」として経団連と連合からヒアリングが実施されましたが、経団連と連合はそれぞれ労働基準関係法制に関する提言をしています。
・6月27日に開催された第8回研究会では議題は「ヒアリング」「労働基準関係法制について」となっていましたが、「ヒアリング」では全国社会保険労務士連合会と一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会からヒアリングが実施されました。そして「労働基準関係法制について」では労働基準法における「労働者」について事務局(厚生労働省)が資料として提出した「案」が議論されたようです。
・7月19日に開催された第9回研究会では「労働基準法における『事業』」と「労使コミュニケーション」について議論されました。
・7月30日に開催された第10回研究会では「労働時間」「休憩」「休日」「年次有給休暇」について議論されました。
・8月20日に開催された第11回研究会では(前回に引き続き)議題は「労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇について」とされ「労働時間」「休憩」「休日」「年次有給休暇」について議論されました。
・9月11日に開催された第13回研究会では(前回・前々回に引き続き)議題は「労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇について」とされ「労働時間」「休憩」「休日」「年次有給休暇」について議論されました。
(第13回研究会)資料1 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇について(PDF)
労働基準関係法制研究会のメンバー
厚生労働省「労働基準関係法制研究会」のメンバー(構成員)は、荒木尚志・東京大学大学院法学政治学研究科教授(座長)、安藤至大・日本大学経済学部教授、石﨑由希子・横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授、神吉知郁子・東京大学大学院法学政治学研究科教授、黒田玲子・東京大学環境安全本部准教授、島田裕子・京都大学大学院法学研究科教授、首藤若菜・立教大学経済学部教授、水島郁子・大阪大学理事(兼)副学長、水町勇一郎・早稲田大学法学学術院教授(元 東京大学社会科学研究所比較現代法部門教授)、山川隆一・明治大学法学部教授 (50音順)。
アドバンスニュース記事(「法定休や勤務間インターバル、副業・兼業の割増賃金などをテーマに議論続行 労基法巡る有識者研究会」2024年8月20日配信)によると第11回研究会で「EU各国では使用者が異なる場合にそもそも労働時間を通算しない。通算する国でも健康確保のための通算であり、割増賃金について通算していない」と発言した荒木座長(荒木尚志・東京大学大学院法学政治学研究科教授)は厚生労働大臣の諮問機関・労働政策審議会の労働基準法等の改正などを審議する「労働条件分科会」の座長もされています。
労働基準関係法制研究会は今後「報告書」をまとめることになると思いますが、報告書に書かれるであろう労働基準法の見直しに向けての意見は労働政策審議会・労働条件分科会で正式に議論されることになりますが、労働基準関係法制研究会と労働条件分科会の座長が同一人物だということは厚生労働省や政府の副業・兼業の場合の割増賃金の通算規定の見直しを急ぎたいとの強い意志を感じます。
なお、最新の労働政策審議会・労働条件分科会委員名簿をみると安藤至大・日本大学経済学部教授も労働基準関係法制研究会メンバー(構成員)とともに労働政策審議会・労働条件分科会委員もされるようです。
労働政策審議会・労働条件分科会委員名簿(PDF)
労働基準関係法制研究会 報告書
厚生労働省(労働基準局)有識者会議「労働基準関係法制研究会」の第13回研究会まで「労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇」などの個別の論点を議論してきましたが、第14回研究会からは労働基準関係法制研究会 報告書を取りまとめるための議論が行われます。
労働基準関係法制研究会(報告書)議論のたたき台
厚生労働省(労働基準局)有識者会議「労働基準関係法制研究会」の第14回研究会が(2024年)11月12日に開催されたが、議題は「労働基準関係法制について」。
また、第14回研究会の資料は「労働基準関係法制研究会(議論のたたき台)」となっていますが、実質的には「労働基準関係法制研究会」報告書作成に向けた骨子案と言えると思います。
労働基準関係法制研究会(議論のたたき台)(PDFファイル)
「労働基準関係法制研究会(議論のたたき台)」抜粋
・労働基準法における「労働者」について
労働基準法における「労働者」については「労働基準法制の保護対象者である『労働者』について、1985年の労働者性の判断基準が作られてから約40年が経過し、労働者と非労働者の境界が曖昧になりつつあると考えられる」、また「労働者性の判断基準について、判断要素と法的効果の両面から検討を加えることが必要と考えられる」と記載されています。
・労働基準法における「事業」について
労働基準法における「事業」については「『事業』の概念をどのように捉えるか検討が必要と考えられる」と書かれています。
・ 「過半数代表者」の機能強化について
「過半数代表者」の機能強化については「過半数代表者が、事業場で適正に選出されないケースがあること」、また「過半数代表者の役割を果たすことの労働者の負担や、全ての労働者が労使コミュニケーションについての知識・経験を持つわけではないことから、積極的な立候補が得られないことが多いこと」などといった「様々な課題があり、改善が必要と考えられる」と書かれています。
・テレワーク時に利用可能なみなし労働時間制度
テレワーク時に利用可能なみなし労働時間制度については「テレワークの際は、仕事と家庭が近接しており、厳格な労働時間管理はプライベートに踏み込みかねないこと等を踏まえ、テレワークに対応したみなし労働時間制度が考えられる」、また「一方で、みなし労働時間制度については長時間労働のリスクも指摘されており、テレワークにおける労働時間の実態や、労使のニーズ等を把握した上で、中長期的な検討が必要と考えられる」と記載されています。
・勤務間インターバル制度
勤務間インターバル制度については「研究会では、勤務間インターバル時間を11時間とすることを原則としつつ、適用除外や、インターバルをとれなかった日の代替措置などの柔軟な対応を、法令や労使合意によって広く認めるという考え方や、勤務間インターバル時間は11時間よりも短い時間としつつ、柔軟な対応についてはより絞ったものとするという考え方、規制の適用に経過措置を設け、前面的な施行までに一定の期間を設けるという考え方などが示されており、より多くの企業が導入しやすい形で制度を開始し、段階的に実効性を高めていく形が望ましいと考えられる」、また「義務化の度合い等についても、労働基準法による強行的な義務とするという考え方や、労働時間等設定改善法等による措置義務や配慮義務とするという考え方、現行の抽象的な努力義務規定を具体化するという考え方などが示されており、様々な手段を考慮した検討が必要と考えられる」と書かれています。
・つながらない権利
つながらない権利については「勤務時間外にどのような連絡までが許容でき、どのようなものは『つながらない権利』として拒否できるのか、総合的な社内ルールについて、労使の話合いを促進していくための方策を検討することが必要と考えられる」と記載されています。
・副業・兼業の場合の割増賃金
副業・兼業の場合の割増賃金については「労働者の健康確保のための労働時間の通算は維持しつつ、割増賃金の支払いについては通算を要しないよう、制度改正に取り組むべきと考えられる」と書かれています。(「労働基準関係法制研究会(議論のたたき台)」より抜粋)
なお日テレNEWSは「厚労省は、有識者からの意見を聞いた上で、年度内に研究会の報告書をとりまとめ、今後、法改正に向けた議論を進めるとしています」と報じています。
“14日以上の連続勤務禁止を検討すべき”有識者研究会で厚労省が案(日テレNEWS)
労働基準法などの見直しに向けたポイント(日本経済新聞)
第14回「労働基準関係法制研究会」での議論については、日本経済新聞(デジタル版)、朝日新聞デジタル、日テレNEWS、アドバンスニュースが報道していますが、朝日新聞デジタルとアドバンスニュースは有料記事のため全文を読むことはできません。
テレワークにもフレックス制 多様化する働き方、労働法の見直し続々(朝日新聞デジタル)
副業・兼業、労働時間通算による「割増賃金規定」の見直し盛り込む 労基法巡る有識者研究会、報告書策定で詰めの議論(アドバンスニュース)
日本経済新聞は第14回研究会に関する記事全文を読むことが可能ですが、「労働基準法などの見直しに向けたポイント」として6項目のポイントごとに整理して労働基準関係法制研究会メンバー(構成員)意見を紹介しています(正式な議事録を厚生労働省は公開していませんのでメンバーの正確な意見ではありません)。
例えば勤務間インターバル制度について「横浜国立大学の石崎由希子教授は『将来的に(強制力のある)労基法での規制を検討するといった方向性を打ち出すことができれば望ましい』と主張した。東大の黒田玲子准教授も『インターバルの時間数は11時間が、一定の科学的根拠を持っている』と語った。一方で『より実現可能な形からステップを踏むべきではないか』(日大の安藤教授)との声もある」と。
副業の割増賃金、労働時間通算ルール見直し 厚労省検討(日本経済新聞)
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労働基準関係法制研究会 報告書(案)1
第15回 労働基準関係法制研究会の開催
労働基準法などの見直しを議論している厚生労働省・有識者会議「労働基準関係法制研究会」の第15回研究会が本日(2024年12月10日)開催されましたが、議題は「労働基準関係法制について」ですが、資料は「労働基準関係法制研究会 報告書(案)」となっています。
労働基準関係法制研究会 報告書(案)ポイント
テレワーク時のみなし労働時間制について
実労働時間規制のかからない自由度の高い働き方として、みなし労働時間制の活用が考えられる。既存のみなし労働時間制について、事業場外みなし労働時間制はそもそも労働時間の算定が困難であるという要件があり、専門業務型裁量労働制については、業務の性質上その遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため業務遂行の手段、時間配分の決定等に関して具体的な指示をすることが困難なものとして省令及び告示で定められた業務であるという要件があり、企画業務型裁量労働制については、事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であって業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、使用者が業務遂行の手段、時間配分の決定等に関し具体的な指示をしないこととするという要件がある。これらの要件が満たさなければ、テレワークにみなし労働時間制を適用することができない。
一方で、テレワーク時の労働時間の管理について、フレックスタイム制であっても使用者による実労働時間管理が求められる以上、自宅内での就労に対する過度な監視や、一時的な家事や育児への対応等のための中抜け36時間など実労働時間数に関する労使間の紛争が生じ得ることといった課題も考えられる。こうした課題に対応するため、また、仕事と家庭生活が混在し得るテレワークについて実労働時間該当性を問題としないみなし労働時間制がより望ましい働き方と考える労働者が選択できる制度として、一定の健康確保措置を設けた上で、自宅等でのテレワークに限定したみなし労働時間制を設けることが考えられる。この場合、その導入については集団的合意に加えて個別の本人同意を要件とすること、そして、制度の適用後も本人同意の撤回も認めることを要件とすること等が考えられる。
これに対し、自宅等でのテレワークを対象とするみなし労働時間制については、テレワーク中の長時間労働を防止するという観点からは、・ これまで裁量労働制の対象業務を厳密に定めてきたのは、みなし労働時間制の副作用を最小限にしようとしたものであるが、そうした規定を潜脱することになりかねない。
・ 健康管理の観点からは、高度プロフェッショナル制度のように健康管理時間を把握するなど、一定の時間把握は必要になるのではないか。
・ 本人同意の撤回権を設定しても、例えば撤回するとテレワークができなくなるというような制度設計の場合、事実上撤回権を行使できなくなると懸念される。
前述するフレックスタイム制の導入をみなし労働時間制の導入の要件とし、同意を撤回した者に対してはフレックスタイム制を適用することを条件とするなど、実効性を担保する仕組みを設計する必要があるのではないか。
・ みなし労働時間制が適用されると、単月100時間未満、複数月平均80時間以内といった時間外・休日労働時間の上限規制も事実上外れることになり、長時間労働の懸念等が強まってしまう。みなし労働時間制を適用したとしても、労働時間の上限や労働からの解放時間を決めるといった一定の規制を導入する必要があるのではないか。
といった懸念や意見も、本研究会構成員から示されているところである。
自宅等でのテレワークを対象とするみなし労働時間制については、上記の実労働時間管理をする場合の課題を踏まえて、こうした点に関する検討も含め、現実のテレワークにおける一時的な家事や育児への対応等のための中抜け時間が客観的にどういう状況か、企業がどのように労働時間を管理しているのか、みなし労働時間制に対する労働者や使用者のニーズが実際にどの程度あるのかということを把握し、また上記により改善されたフレックスタイム制の下でのテレワークの実情を把握した上で継続的な検討が必要であると考えられる。(労働基準関係法制研究会 報告書 案より抜粋)
勤務間インターバル
働き方改革関連法で導入された時間外・休日労働時間の上限規制は、過重労働を防止する観点から、月を単位として、労使協定によっても超えることのできない上限を設定したものである。一方で、労働者の暮らしと健康を考えると、月を単位とした労働時間管理だけでなく、日々の生活を送る上でのワーク・ライフ・バランスの確保が必要となる。このため、欧州等では、日々の勤務と勤務の間に一定の時間を空けることを義務とする勤務間インターバル制度が設けられている。
我が国では、勤務間インターバル制度は、労働時間等設定改善法第2条において、「健康及び福祉を確保するために必要な終業から始業までの時間の設定」として努力義務が課されており、また労働時間等設定改善指針(平成20年厚生労働省告示第108号)においても一定の記述があるが、概念的な内容にとどまり、勤務間インターバルの時間数や対象者、その他導入に当たっての留意事項等は法令上示されていない。
厚生労働省において、勤務間インターバル制度の導入・運用マニュアルを作成し、時間数や対象者等の設定に当たっての留意点を示しているものの、2023 年(令和5年)1月時点の導入企業割合は 6.0%にとどまっている。他方、制度の導入予定がなく検討もしていない 81.5%の企業のうち、51.9%は「超過勤務の機会が少なく、当該制度を導入する必要性を感じないため」と回答している22点にも留意が必要である。また、既に勤務間インターバルを導入している企業の制度設計や、諸外国の勤務間インターバル制度を見ると、様々な適用除外が設けられた上で制度が運用されている。
このような現状を踏まえ、本研究会としては、抜本的な導入促進と、義務化を視野に入れつつ、法規制の強化について検討する必要があると考える。企業に勤務間インターバル制度の導入を求める場合に、具体的にどのような内容の制度を求めるかについては、例えば、
・ 勤務間インターバル時間として11時間を確保することを原則としつつ、制度の適用除外とする職種等の設定や、実際に 11 時間の勤務間インターバル時間が確保できなかった場合の代替措置等について、多くの企業が導入できるよう、より柔軟な対応を法令や各企業の労使で合意して決めるという考え方
・ 勤務間インターバル時間は11時間よりも短い時間としつつ、柔軟な対応についてはより絞ったものとする考え方
・ 規制の適用に経過措置を設け、全面的な施行までに一定の期間を設ける考え方
等が考えられる。いずれにしても、多くの企業が導入しやすい形で制度を開始するなど、段階的に実効性を高めていく形が望ましいと考えられる。
勤務間インターバル時間が確保できなかった場合の代替措置については、健康・福祉確保措置の一環として実施される健康観察や面接指導等といった事後措置を目的としたモニタリングではなく、代償休暇など労働からの解放を確保するものであることが望ましいとの考え方や、代替措置によることが可能な回数について各事業場の労使協議で上限を設定するという考え方が示された。
また、義務化の度合いについても、労働基準法による強行的な義務とするという考え方、労働時間等設定改善法等において勤務間インターバル制度を設けることを義務付ける規定や、勤務間インターバルが確保できるよう事業主に配慮を求める規定を設けるという考え方、これらと併せて労働基準法において勤務間インターバル制度を就業規則の記載事項として位置付け行政指導等の手法により普及促進を図るという考え方、現行の抽象的な努力義務規定を具体化するという考え方等が示されており、様々な手段を考慮した検討が必要と考えられる。(労働基準関係法制研究会 報告書 案より抜粋)
つながらない権利
本来、労働契約上、労働時間ではない時間に、使用者が労働者の生活に介入する権利はない。しかし現実には、突発的な状況への対応や、顧客からの要求等によって、勤務時間外に対応を求められる状況は容易に発生し得る。このような場合に、実際にはなし崩しに対応を余儀なくされている場合もある。私生活と業務との切り分けが曖昧になり、仕事が私生活に介入してしまうことになる。
欧州等では、「つながらない権利」を行使したことや行使しようとしたことに対する不利益取扱いの禁止、使用者が労働者にアクセス可能な時間帯の明確化や制限、「つながらない」状態を確保するための措置の実施(より具体的には労使交渉の義務付け)等を内容とした、「つながらない権利」が提唱されている。例えば、「つながらない権利」を法制化しているフランスの例を見ると、具体的な内容の設定の仕方・範囲は労使で協議して決めており、その内容は企業によって様々であるが、労使交渉で合意に至らない場合には、つながらない権利の行使方法等を定めた憲章を作成することが使用者に義務付けられている。
また、実際に勤務時間外に労働者に連絡をとる必要が生じる際は、労働者と使用者の関係だけでなく、顧客と担当者の関係等も含めた複合的な要因が生じていることが多いと考えられ、当該連絡の内容についても、具体的な仕事が発生して出勤等をしなければならないこともあれば、電話等での対話を行わなければならないもの、メール等が送られてくるだけといったような、様々な段階のものが存在し得る。
こうした点を整理し、勤務時間外に、どのような連絡までが許容でき、どのようなものは拒否することができることとするのか、業務方法や事業展開等を含めた総合的な社内ルールを労使で検討していくことが必要となる。このような話し合いを促進していくための積極的な方策(ガイドラインの策定等)を検討することが必要と考えられる。(労働基準関係法制研究会 報告書 案より抜粋)
また、報告書(案)の「おわりに」には「本研究会(労働基準関係法制研究会)としては、本報告書において早期に取り組むべきとした事項を中心として、今後、公労使三者構成の労働政策審議会において、労働基準関係法制に係る諸課題についての議論が更に深められることを期待するものである。一方で、中長期的に検討を進めるべきとした事項については、 国内外の実態把握や国際的な動向の把握を進めつつ、引き続き学術的な検討を進めることが必要と考えられる」とも記載されています。
労働基準関係法制研究会 報告書(案)(PDF形式)
なお、アドバンスニュースは「年内(2024年内)に開催する会合(研究会)で報告書を取りまとめる見通しだ。年明けの労働政策審議会労働条件分科会に報告書が示され、公労使が労働基準法など関連法制の改正に向けて議論を開始する」と報じています。
年内に報告書策定へ、労基法巡る有識者研究会 年明けから労政審で議論(アドバンスニュース)
ただし、日本経済新聞は「2024年度中に報告書をとりまとめ、労働政策審議会でも議論した上で早ければ26年の法改正を目指す」と報じていますので、年内なのか、年度内なのか、報道がわかれています。
連続勤務日数、13日まで 厚労省研究会が報告書案(日本経済新聞)
労働基準関係法制研究会 報告書(案)2
第16回 労働基準関係法制研究会の開催
労働基準法などの見直しを議論している厚生労働省・有識者会議「労働基準関係法制研究会」の第16回研究会が(2024年)12月24日開催されましたが、議題は「労働基準関係法制について」ですが、資料は「労働基準関係法制研究会 報告書(案)」(修正版)となっています。
労働基準関係法制研究会 報告書(案)修正版ポイント
テレワーク時の みなし労働時間制について
次に、実労働時間規制のかからない自由度の高い働き方として、みなし労働時間制の活用が考えられる。既存の みなし労働時間制については、まず、事業場外みなし労働時間制はそもそも労働時間の算定が困難であるという要件がある。専門業務型裁量労働制については、業務の性質上その遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため業務遂行の手段、時間配分の決定等に関して具体的な指示をすることが困難なものとして省令及び告示で定められた業務であるという要件があり、企画業務型裁量労働制については、事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であって業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、使用者が業務遂行の手段、時間配分の決定等に関し具体的な指示をしないこととするという要件がある。これらの要件が満たさなければ、テレワークに みなし労働時間制を適用することができない。
一方で、テレワーク時の労働時間の管理について、フレックスタイム制であっても使用者による実労働時間管理が求められる以上、そのことを理由として使用者が自宅内での就労に対する過度な監視を正当化したり、一時的な家事や育児への対応等のための中抜け時間など実労働時間数に関する労使間の紛争が生じたりし得るといった懸念もある。
こうしたことから、仕事と家庭生活が混在し得るテレワークについて、実労働時間を問題としない みなし労働時間がより望ましいと考える労働者が選択できる制度として、実効的な健康確保措置を設けた上で、在宅勤務に限定した新たな みなし労働時間制を設けることが考えられる。この場合、その導入については集団的合意に加えて個別の本人同意を要件とすること、そして、制度の適用後も本人同意の撤回も認めることを要件とすること等が考えられる。
これに対し、在宅勤務を対象とする新たな みなし労働時間制について、テレワーク中の長時間労働を防止するという観点からは、
・ これまで裁量労働制の対象業務を厳密に定めてきたのは、みなし労働時間制の副作用を最小限にしようとしたものであるが、そうした規定を潜脱することになりかねない。
・ 健康管理の観点からは、高度プロフェッショナル制度のように健康管理時間を客観的に把握するなど、健康確保のための時間把握は必要になるのではないか。
・ 本人同意の撤回権を設定しても、例えば撤回するとテレワークができなくなるというような制度設計の場合、事実上撤回権を行使できなくなると懸念される。
前述するフレックスタイム制の導入を新たなみなし労働時間制の導入の要件とし、同意を撤回した者に対してはフレックスタイム制を適用することを条件とするなど、実効性を担保する仕組みを設計する必要があるのではないか。
・ 上記のような条件設定の仕組みについては、本人の同意の撤回の自由が実効的に確保できるかの検証も必要ではないか。
・ みなし労働時間制が適用されると、単月100時間未満、複数月平均80時間以内といった時間外・休日労働時間の上限規制も事実上外れることになり、長時間労働の懸念等が強まってしまう。新たな みなし労働時間制を適用したとしても、労働時間の上限や労働からの解放時間を決めるといった一定の規制を導入すること、その場合の労働時間の把握や管理の在り方を具体的に検討することも必要ではないか。
といった懸念や意見も示されているところである。
在宅勤務を対象とする新たな みなし労働時間制については、上記の実労働時間管理をする場合の課題やそれに代わる健康管理時間の把握をめぐる課題等を踏まえて、こうした点に関する検討も含め、在宅勤務における労働時間の長さや時間帯、一時的な家事や育児への対応等のための中抜け時間の状況等の労働時間の実態や、企業がどのように労働時間を管理しているのか、新たな みなし労働時間制に対する労働者や使用者のニーズが実際にどの程度あるのかということを把握し、また上記により改善されたフレックスタイム制の下でのテレワークの実情や労使コミュニケーションの実態を把握した上で、みなし労働時間制の下での実効的な健康確保の在り方も含めて継続的な検討が必要であると考えられる。(労働基準関係法制研究会 報告書 案 修正版より抜粋)
*(修正される前の)前回の報告書(案)には「自宅等でのテレワークを対象とする みなし労働時間制については、上記の実労働時間管理をする場合の課題を踏まえて、こうした点に関する検討も含め、現実のテレワークにおける一時的な家事や育児への対応等のための中抜け時間が客観的にどういう状況か、企業がどのように労働時間を管理しているのか、みなし労働時間制に対する労働者や使用者のニーズが実際にどの程度あるのかということを把握し、また上記により改善されたフレックスタイム制の下でのテレワークの実情を把握した上で継続的な検討が必要であると考えられる」と記載されていました。
勤務間インターバル
働き方改革関連法で導入された時間外・休日労働時間の上限規制は、過重労働を防止する観点から、月を単位として、労使協定によっても超えることのできない上限を設定したものである。一方で、労働者の暮らしと健康を考えると、月を単位とした労働時間管理だけでなく、日々の生活を送る上でのワーク・ライフ・バランスの確保が必要となる。このため、欧州等では、日々の勤務と勤務の間に一定の時間を空けることを義務とする勤務間インターバル制度が設けられている。
我が国では、勤務間インターバル制度は、労働時間等設定改善法第2条において、「健康及び福祉を確保するために必要な終業から始業までの時間の設定」として努力義務が課されており、また労働時間等設定改善指針(平成20年厚生労働省告示第 108 号)においても一定の記述があるが、概念的な内容にとどまり、勤務間インターバルの時間数や対象者、その他導入に当たっての留意事項等は法令上示されていない。
厚生労働省において、勤務間インターバル制度の導入・運用マニュアルを作成し、時間数や対象者等の設定に当たっての留意点を示しているものの、2023年(令和5年)1月時点の導入企業割合は 6.0%にとどまっている。他方、制度の導入予定がなく検討もしていない 81.5%の企業のうち、51.9%は「超過勤務の機会が少なく、当該制度を導入する必要性を感じないため」と回答している24点にも留意が必要である。また、既に勤務間インターバルを導入している企業の制度設計や、諸外国の勤務間インターバル制度を見ると、様々な適用除外が設けられた上で制度が運用されている。
このような現状を踏まえ、本研究会としては、抜本的な導入促進と、義務化を視野に入れつつ、法規制の強化について検討する必要があると考える。企業に勤務間インターバル制度の導入を求める場合に、具体的にどのような内容の制度を求めるかについては、例えば、
・ 勤務間インターバル時間として11時間を確保することを原則としつつ、制度の適用除外とする職種等の設定や、実際に11時間の勤務間インターバル時間が確保できなかった場合の代替措置等について、多くの企業が導入できるよう、より柔軟な対応を法令や各企業の労使で合意して決めるという考え方
・ 勤務間インターバル時間は11時間よりも短い時間としつつ、柔軟な対応についてはより絞ったものとする考え方
・ 規制の適用に経過措置を設け、全面的な施行までに一定の期間を設ける考え方
等が考えられる。いずれにしても、多くの企業が導入しやすい形で制度を開始するなど、段階的に実効性を高めていく形が望ましいと考えられる。
勤務間インターバル時間が確保できなかった場合の代替措置については、健康・福祉確保措置の一環として実施される健康観察や面接指導等といった事後措置を目的としたモニタリングではなく、代償休暇など労働からの解放を確保するものであることが望ましいとの考え方や、代替措置によることが可能な回数について各事業場の労使協議で上限を設定するという考え方が示された。
また、義務化の度合いについても、労働基準法による強行的な義務とするという考え方、労働時間等設定改善法等において勤務間インターバル制度を設けることを義務付ける規定や、勤務間インターバルが確保できるよう事業主に配慮を求める規定を設けるという考え方、これらと併せて労働基準法において勤務間インターバル制度を就業規則の記載事項として位置付け行政指導等の手法により普及促進を図るという考え方、現行の抽象的な努力義務規定を具体化するという考え方等が示されており、様々な手段を考慮した検討が必要と考えられる。(労働基準関係法制研究会 報告書 案 修正版より抜粋)
つながらない権利
本来、労働契約上、労働時間ではない時間に、使用者が労働者の生活に介入する権利はない。しかし現実には、突発的な状況への対応や、顧客からの要求等によって、勤務時間外に対応を余儀なくされ、私生活と業務との切り分けが曖昧になり、仕事が私生活に介入してしまうことになる状況も容易に発生し得る。
欧州等では、「つながらない権利」を行使したことや行使しようとしたことに対する不利益取扱いの禁止、使用者が労働者にアクセス可能な時間帯の明確化や制限、「つながらない」状態を確保するための措置の実施(より具体的には労使交渉の義務付け)等を内容とした、「つながらない権利」が提唱されている。例えば、「つながらない権利」を法制化しているフランスの例を見ると、具体的な内容の設定の仕方・範囲は労使で協議して決めており、その内容は企業によって様々であるが、労使交渉で合意に至らない場合には、つながらない権利の行使方法等を定めた憲章を作成することが使用者に義務付けられている。
また、実際に勤務時間外に労働者に連絡をとる必要が生じる際は、労働者と使用者の関係だけでなく、顧客と担当者の関係等も含めた複合的な要因が生じていることが多いと考えられ、当該連絡の内容についても、具体的な仕事が発生して出勤等をしなければならないこともあれば、電話等での対話を行わなければならないもの、メール等が送られてくるだけといったような、様々な段階のものが存在し得る。
こうした点を整理し、勤務時間外に、どのような連絡までが許容でき、どのようなものは拒否することができることとするのか、業務方法や事業展開等を含めた総合的な社内ルールを労使で検討していくことが必要となる。このような話し合いを促進していくための積極的な方策(ガイドラインの策定等)を検討することが必要と考えられる。(労働基準関係法制研究会 報告書 案 修正版より抜粋)
おわりに
これまで述べてきたとおり、本研究会では、労働基準関係法制にかかわる諸課題について検討し、それぞれを早期に取り組むべき事項、より良い制度に向けて中長期的に検討を進めるべき事項に分け、方向性を示すこととした。
本研究会としては、本報告書において早期に取り組むべきとした事項を中心として、今後、公労使三者構成の労働政策審議会において、労働基準関係法制に係る諸課題についての議論が更に深められることを期待するものである。一方で、中長期的に検討を進めるべきとした事項については、国内外の実態把握や国際的な動向の把握を進めつつ、引き続き学術的な検討を進めることが必要と考えられる。
本研究会は厚生労働省労働基準局長の開催する研究会である。厚生労働省においては、この報告書をもって労働基準関係法制に係る研究を終了するのではなく、本研究会のような労働基準関係法制に係る研究を行う場を引き続き設けていくことを要望する。(労働基準関係法制研究会 報告書 案 修正版より抜粋)
労働基準関係法制研究会 報告書(案)修正版(PDF形式)
なお、日本経済新聞(デジタル版)は「厚生労働省は24日、労働法や労使関係の専門家が集まる『労働基準関係法制研究会』を開き、報告書の最終案を大筋で了承した。連続勤務日数を最長13日間に制限するなど、労働基準法の見直しを提言した。今後は労働政策審議会(厚労相の諮問機関)で議論し、早ければ26年の法改正を目指す」と報じています。
また、日本経済新聞の記事には「労基法は制定から70年以上が経過し、現状にそぐわない規制もある。在宅勤務日に使える新たなフレックスタイム制の導入や、会社員に本業と副業の労働時間を通算して割増賃金を支払う仕組みの廃止を提起した。家庭が直接雇用契約を結ぶ『家事使用人』を労基法の対象に加えることも検討するよう求めた」と書かれています。
連続勤務は最長13日に、労基法改正を提言 厚労省研究会(日本経済新聞)
また、共同通信は「労働基準法改正に向けた厚生労働省の学識経験者らによる研究会が24日開かれ、14日以上の連続勤務の禁止や副業の割増賃金算定方法の見直し、テレワークに関する労働時間管理制度の改善などを盛り込んだ報告書案がおおむね了承された。研究会での意見を踏まえ報告書としてまとめ、その後、労使参加の労働政策審議会で具体的な内容が話し合われる見通し」と報じています。
そして「報告書案では、現行の休日制度が運用によって長期間の連続勤務も可能となることから、労災認定基準などを踏まえ14日以上の連続勤務を禁止する規定を労基法上設けるべきだと指摘」「副業の割増賃金算定では、本業と副業の労働時間を細かく管理して合算する複雑な制度を見直し、割増賃金の算定では合算しないようにする一方、健康確保にはこれまで以上に万全を尽くすといった考え方が示された」「労働と家事・育児の時間が混在しやすいテレワークでは、柔軟な働き方に対応するために通常の勤務日と混在するような場合でも部分的にフレックスタイム制を活用できるよう制度の改善に取り組むべきだとしている」と共同通信の記事には記載されています。
14日連続勤務の禁止案を了承 労基法改正に向けた厚労省研究会(共同通信)
労働基準関係法制研究会 報告書を厚生労働省が公表
今後の労働基準関係法制について包括的かつ中長期的な検討を行うとともに、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(平成30年法律第71号)附則第12条に基づく労働基準法等の見直しについて、具体的な検討を行うことを目的として、「労働基準関係法制研究会」(厚生労働省労働基準局が実施する有識者会議)において検討が行われてきましたが、研究会の報告書がとりまとめ「労働基準関係法制研究会 報告書」として公表しました(2025年1月8日)。
なお、「労働基準関係法制研究会 報告書」には「本研究会としては、本報告書において早期に取り組むべきとした事項を中心として、今後、公労使三者構成の労働政策審議会において、労働基準関係法制に係る諸課題についての議論が更に深められることを期待するものである。一方で、中長期的に検討を進めるべきとした事項については、国内外の実態把握や国際的な動向の把握を進めつつ、引き続き学術的な検討を進めることが必要と考えられる」と記載されていますので、今後も労働政策審議会(厚生労働大臣の諮問機関)労働条件分科会や検討会などで行われる議論を注視すべきと思います。
労働基準関係法制研究会 報告書(PDF形式)
テレワーク時の みなし労働時間制 創設を懸念
第13回 労働基準関係法制研究会
厚生労働省(労働基準局)有識者会議「労働基準関係法制研究会」の第13回研究会は(2024年)9月11日に開催されました。議題は「労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇について」。
資料1 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇について(PDF形式)
この第13回研究会資料「労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇」に「テレワークに特化した形でのみなし制の創設ということが必要ではないか。労働時間を技術的には把握できるが、労働者がそれを望まないときに、みなし制ということを認めるべき」という研究会メンバーの意見が書かれていました。
同時に、その第13回研究会資料には「テレワークによる過重労働の実態が生じているという中で、みなし労働時間制にすると実労働時間規制から外れ、過重労働のリスクが 大きい」「これまで裁量労働制の対象業務を厳密に定めてきた、それは みなし労働時間制の副作用を小さくしようとしてきたということでもあり、 広くテレワークで みなし労働時間制を認めるとなれば、その趣旨を潜脱することになりかねないという懸念はある。テレワークについ ては、実労働時間規制として、フレックスタイムの活用という方向も検討すべきではないか」などといったテレワーク時の「みなし労働時間制」を危惧する反対意見が記載されていました。
第13回研究会議事録にもテレワーク時の「みなし労働時間制」を危惧する反対意見が記載されていますが、まず水町勇一郎教授は「事業場外労働の みなし制を無制限に広げていくのではなくて、現在の実態に合う形できちんと適用とか運用の規制をしていくことのほうがむしろ大切なので、在宅勤務だから、新しく実労働時間管理を外す みなし制を導入するということに対しては強い懸念を感じざるを得ません」と述べています。
また、首藤若菜教授も「在宅テレワークで『みなし労働時間』を適用していったときに、この『つながらない権利』がないような状態のままで、長時間労働が本当に抑制できるのだろうかというところは非常に強い懸念を抱いています」と意見しています。
労働基準関係法制研究会(議論のたたき台)
「労働基準関係法制研究会」の第14回研究会は(2024年)11月12日に開催され、議題は「労働基準関係法制について」。
第14回研究会の資料は「労働基準関係法制研究会(議論のたたき台)」となっていますが、実質的には「労働基準関係法制研究会」報告書作成に向けた骨子案と言えると思います。
労働基準関係法制研究会(議論のたたき台)(PDF形式)
この議論のたたき台に「テレワーク時に利用可能な みなし労働時間制度」と題された項目があり、そこに「テレワークの際は、仕事と家庭が近接しており、厳格な労働時間管理はプライベートに踏み込みかねないこと等を踏まえ、テレワークに対応した みなし労働時間制度が考えられる」、また「一方で、みなし労働時間制度については長時間労働のリスクも指摘されており、テレワークにおける労働時間の実態や、労使のニーズ等を把握した上で、中長期的な検討が必要と考えられる」と記載されています。
労働基準関係法制研究会 報告書(案)
「労働基準関係法制研究会」の第15回研究会が(2024年)12月10日に開催されましたが、議題は「労働基準関係法制について」ですが、資料は「労働基準関係法制研究会 報告書(案)」となっています。
労働基準関係法制研究会 報告書(案)(PDF形式)
「テレワーク時の みなし労働時間制について」との項目には「自宅等でのテレワークを対象とする みなし労働時間制については、上記の実労働時間管理をする場合の課題を踏まえて、こうした点に関する検討も含め、現実のテレワークにおける一時的な家事や育児への対応等のための中抜け時間が客観的にどういう状況か、企業がどのように労働時間を管理しているのか、みなし労働時間制に対する労働者や使用者のニーズが実際にどの程度あるのかということを把握し、また上記により改善されたフレックスタイム制の下でのテレワークの実情を把握した上で継続的な検討が必要であると考えられる」と記載されていました。
労働基準関係法制研究会 報告書(案)修正版
「労働基準関係法制研究会」の第16回研究会が(2024年)12月24日に開催されましたが、議題は「労働基準関係法制について」ですが、資料は「労働基準関係法制研究会 報告書(案)」(修正版)となっています。
労働基準関係法制研究会 報告書(案)修正版(PDF形式)
修正版の報告書(案)の「テレワーク時の みなし労働時間制について」との項目には「在宅勤務を対象とする新たな みなし労働時間制については、上記の実労働時間管理をする場合の課題やそれに代わる健康管理時間の把握をめぐる課題等を踏まえて、こうした点に関する検討も含め、在宅勤務における労働時間の長さや時間帯、一時的な家事や育児への対応等のための中抜け時間の状況等の労働時間の実態や、企業がどのように労働時間を管理しているのか、新たな みなし労働時間制に対する労働者や使用者のニーズが実際にどの程度あるのかということを把握し、また上記により改善されたフレックスタイム制の下でのテレワークの実情や労使コミュニケーションの実態を把握した上で、みなし労働時間制の下での実効的な健康確保の在り方も含めて継続的な検討が必要であると考えられる」と書かれていました。
テレワーク時の「みなし労働時間制」創設への私的コメント
第16回「労働基準関係法制研究会」で厚生労働省が提示した報告書(案)の修正版をさっそく読みましたが、研究会メンバーの水町勇一郎教授や首藤若菜教授が第13回研究会で強い懸念を示されていた「テレワーク時の『みなし労働時間制』創設」が、最大の問題点だと思います。
この修正された報告書(案)にも「これまで裁量労働制の対象業務を厳密に定めてきた、それは みなし労働時間制の副作用を小さくしようとしてきたということでもあり、広くテレワークでみなし労働時間制を認めるとなれば、その趣旨を潜脱することになりかねないという懸念はある」とまとめられていますが、詳しくは第13回研究会の議事録に記載されています。
そのような研究会メンバーの強い懸念にもかかわらず、「労働基準関係法制研究会」報告書に「テレワーク時の『みなし労働時間制』創設」を盛り込もうとする厚生労働省には落胆しました。
労働基準関係法制研究会(厚生労働省サイト)
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