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労働基準関係法制研究会 報告書

厚生労働省の有識者会議「労働基準関係法制研究会」は、同じく厚生労働省の有識者会議「新しい時代の働き方に関する研究会」につづいて開設された厚生労働省の有識者会議になり、労働基準法などの中長期的な見直しを議論して「新しい時代の働き方に関する研究会」同様に報告書の作成をめざしています。


新しい時代の働き方に関する研究会 報告書

厚生労働省は有識者会議「新しい時代の働き方に関する研究会」を開設して報告書に向けた議論をつづけてきましたが、厚生労働省は2023年10月20日に「新しい時代の働き方に関する研究会報告書」を公表しました。

新しい時代の働き方に関する研究会(厚生労働省サイト)

新しい時代の働き方に関する研究会報告書 経過
第13回「新しい時代の働き方に関する研究会」が、2023年8月31日に開催されましたが、議題は「報告書に向けた議論」でした。

そして、この日の研究会資料1は「報告書(骨子案)」とタイトルがつけられていました。

新しい時代の働き方に関する研究会 報告書(骨子案)

第1 本研究会の契機となった経済社会の変化
1.企業を取り巻く環境の変化
<省略>
2.働く人の意識の変化、希望の個別・多様化
<省略>
3.組織と個人の関係性
<省略>
4.本研究会でのヒアリング結果
<省略>

第2 新しい時代に対応するための視点
1. 「守る」と「支える」の視点
<省略>
2. 働く人の求める多様性尊重の視点
<省略>

第3 新しい時代に即した労働基準法制の方向性(守り方・支え方)
1.変化する環境下でも変わらない考え方
<省略>
2.働く人の健康確保
<省略>
3.働く人の選択・希望の反映が可能な制度へ
(1)変化に合わせた現行制度の見直し
<省略>
(2)個が希望する働き方・キャリア形成に対応した労働基準法制
<省略>
4.シンプルでわかりやすく実効的な制度
<省略>
5.労働基準監督行政のアップデート
(1)労働基準監督行政の課題
<省略>
(2)効果的・効率的な監督指導体制の構築
<省略>
(3)労働市場の機能を通じた企業の自助努力(第2の「守り」)
<省略>

第4 企業や働く人に期待すること
〇我が国の持続的な成長・働く人の幸せな職業人生の実現
→ 働く人が自由で豊かな発想やそれぞれの創造性・専門性をもって働き、キャリアを形成することを可能とする環境を整備することが求められる。
→ 法制度面のみならず、企業・働く人双方の行動も重要

1. 企業に期待すること
(1)ビジネスと人権の視点
〇企業による経済活動のネットワーク化や国際化が進む中においては、企業内における働く人の人権尊重や健康確保を行うことはもちろんのこと、企業グループ全体で、サプライチェーンの中で働く人の人権尊重や健康確保を図っていくという視点(いわゆる「ビジネスと人権」の視点)を持って、企業活動を行っていくことが重要である。

(2)人的資本投資への取り組み
〇企業には変化に対して主体的・能動的に行動できる人材が必要
→ 人材を「人的資本」と捉え、企業はそれへの投資(「人的資本投資」)を増やすべき。(日本の企業による人的資本投資は諸外国に比べて少ないといった指摘もある)

【人的資本投資の例】
労働条件の改善・能力向上機会の確保・主体的なキャリア形成への支援
→ 人的資本投資により、人材の価値を最大限に高め引き出すことで、企業価値の向上とともに、健康状態の改善、個人の幸福感の向上、チームワークの向上をもたらすことが期待される。

〇働く人は就業形態や属性にかかわらず、価値創造の担い手であり、企業はこうした属性にかかわらず人的資本投資に取組むことが必要

(3)働き方・キャリア形成への労使の価値観の共有
〇働く人:自らキャリア形成できる者とそうでない者が存在
→ 企業による一定のサポートが必要
〇企業がパーパスを明確にし、社内に浸透させた上で、エンゲージメントを高める、さらには社内外の人的つながりを構築するための人事施策を取り入れることは、キャリア形成の促進についても有効
〇パーパスだけでなく、企業が自らのビジネスの将来像や、それに適した人材像を可視化し、働く人と共有していく(双方向のコミュニケーションを図る)ことで、働く人が自らのキャリアを形成していく上で、企業の求める方向性と合致した能力を高めていく選択が容易になる。
→ 企業は必要な専門的能力の高い人材を、中長期的に確保しやすくなり働く人はより効果的・効率的に自らの価値を高めていくことが期待

2.働く人に期待すること
(1)積極的な自己啓発・自己管理
〇働く人が働き方を自ら選択すること
→ 働く人が、自らの心身の健康の保持増進にも努めることが重要
→ 働く人が、労働基準法制を正しく理解・活用できることが重要
→ 働く人が企業、社会、国等による教育や周知啓発等を通して自ら法制度について知ることが必要
〇多様な働き方・場所→企業・上司による直接管理が小さい働き方が拡大
→ 従来以上に、自己管理能力(セルフマネジメント力)を高めることが必要(業務遂行・健康管理の双方の観点から)
〇自らの望む働き方や、将来行う・行いたい仕事に求められる能力を開発することに、自主的・積極的に取り組むこと

(2)企業の目的・事業への積極的なエンゲージメント
〇企業のパーパスや、ビジネスの将来像、それに適した人材像などについて、働く人の側からの積極的な情報収集・価値観共有
→ 働く人がより効果的・効率的に自らの価値を高め、その企業内で中長期的に価値の高いキャリア形成を行うことが可能

(1)(2)のような取り組みを通して、働く人一人一人が心身の状態を良好に保ち、創造的なアイデアを生み出し、仕事のパフォーマンスを上げ、職業 人生を充実させることができる。

厚生労働省・第13回「新しい時代の働き方に関する研究会」資料1

新しい時代の働き方に関する研究会 報告書(骨子案)(PDF)

新しい時代の働き方に関する研究会 報告書の議論と公表
第14回「新しい時代の働き方に関する研究会」2023年9月29日に開催され、資料は「資料1 新しい時代の働き方に関する研究会 報告書(案)」と「参考資料1 新しい時代の働き方に関する研究会 報告書骨子案に対する御意見」「参考資料2 新しい時代の働き方に関する研究会 報告書 参考資料」。

資料1 新しい時代の働き方に関する研究会 報告書(案)(PDF)

参考資料1 新しい時代の働き方に関する研究会 報告書骨子案に対する御意見(PDF)

参考資料2 新しい時代の働き方に関する研究会 報告書 参考資料(PDF)

そして2023年10月13日に第15回「新しい時代の働き方に関する研究会」(議題は「とりまとめ」)が開催されましたが、報告書に関する議論の詳細は議事録をお読みください。

第15回 新しい時代の働き方に関する研究会 議事録(厚生労働省サイト)

そして2023年10月20日に厚生労働省は「新しい時代の働き方に関する研究会」の報告書を公表しています。

「新しい時代の働き方に関する研究会」の報告書を公表します(厚生労働省サイト)

報告書の「労働基準法制における基本的概念が実情に合っているかの確認」(報告書20頁)には、 労働基準法は「事業または事務所に使用され、賃金の支払いを受ける労働者を対象とし」「労働者が働く場である事業場を単位として規制を適用することで、労働者を保護する法的効果を発揮してきた」が、「一方で、変化する経済社会の中で、フリーランスなどの個人事業主の中には、業務に関する指示や働き方が労働者として働く人と類似している者もみられること、リモートワークが急速に広がるとともに、オフィスによらない事業を行う事業者が出現してきていることなどから、事業場単位で捉えきれない労働者が増加していることなどを考慮すると、『労働者』『事業』『事業場』等の労働基準法制における基本的概念についても、経済社会の変化に応じて在り方を考えていくことが必要である」と記載されています。

新しい時代の働き方に関する研究会 報告書(PDF)

労働基準関係法制研究会とは

厚生労働省「労働基準関係法制研究会」は、「新しい時代の働き方に関する研究会」につづいて開設された厚生労働省(労働基準局)有識者会議になります。

「労働基準関係法制研究会」の目的は「今後の労働基準関係法制について包括的かつ中長期的な検討を行うとともに、働き方改革関連法附則第12条に基づく労働基準法等の見直しについて、具体的な検討を行うこと」とされています。

また「労働基準関係法制研究会」の検討事項は「『新しい時代の働き方に関する研究会』報告書を踏まえた、今後の労働基準関係法制の法的論点の整理」と「働き方改革関連法の施行状況を踏まえた、労働基準法等」とされています。

労働基準関係法制研究会の経過
・厚生労働省「労働基準関係法制研究会」の議題は毎回「労働基準関係法制」とありますが、2024年1月23日に開催された第1回研究会ではメンバー(構成員)全員が労働基準関係法制全般について個人としての意見を述べています。

・2月21日に開催された第2回研究会では「労働時間制度」について議論されました。

・2月28日に開催された第3回研究会では「労働基準法における『事業』及び『労働者』」について議論されました。

・3月18日に開催された第4回研究会は「労使コミュニケーション」について議論されました。

・3月26日に開催された第5回研究会では、これまで議論された「労働時間制度」「労働基準法における『事業』及び『労働者』」「労使コミュニケーション」についての論点を整理しながら、さらに掘り下げて議論を一巡したようです。

・4月23日に開催された第6回研究会では第5回研究会でのメンバー(構成員)意見を踏まえて議論を深めて論点を再整理したようです。

・5月10日に開催された第7回研究会は「労使団体ヒアリング」として経団連と連合からヒアリングが実施されましたが、経団連と連合はそれぞれ労働基準関係法制に関する提言をしています。

・6月27日に開催された第8回研究会では議題は「ヒアリング」「労働基準関係法制について」となっていましたが、「ヒアリング」では全国社会保険労務士連合会と一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会からヒアリングが実施されました。そして「労働基準関係法制について」では労働基準法における「労働者」について事務局(厚生労働省)が資料として提出した「案」が議論されたようです。

・7月19日に開催された第9回研究会では「労働基準法における『事業』」と「労使コミュニケーション」について議論されました。

・7月30日に開催された第10回研究会では「労働時間」「休憩」「休日」「年次有給休暇」について議論されました。

・8月20日に開催された第11回研究会では(前回に引き続き)議題は「労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇について」とされ「労働時間」「休憩」「休日」「年次有給休暇」について議論されました。

・9月11日に開催された第13回研究会では(前回・前々回に引き続き)議題は「労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇について」とされ「労働時間」「休憩」「休日」「年次有給休暇」について議論されました。

(第13回研究会)資料1 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇について(PDF)

労働基準関係法制研究会のメンバー
厚生労働省「労働基準関係法制研究会」のメンバー(構成員)は、荒木尚志・東京大学大学院法学政治学研究科教授(座長)、安藤至大・日本大学経済学部教授、石﨑由希子・横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授、神吉知郁子・東京大学大学院法学政治学研究科教授、黒田玲子・東京大学環境安全本部准教授、島田裕子・京都大学大学院法学研究科教授、首藤若菜・立教大学経済学部教授、水島郁子・大阪大学理事(兼)副学長、水町勇一郎・早稲田大学法学学術院教授(元 東京大学社会科学研究所比較現代法部門教授)、山川隆一・明治大学法学部教授 (50音順)。

アドバンスニュース記事(「法定休や勤務間インターバル、副業・兼業の割増賃金などをテーマに議論続行 労基法巡る有識者研究会」2024年8月20日配信)によると第11回研究会で「EU各国では使用者が異なる場合にそもそも労働時間を通算しない。通算する国でも健康確保のための通算であり、割増賃金について通算していない」と発言した荒木座長(荒木尚志・東京大学大学院法学政治学研究科教授)は厚生労働大臣の諮問機関・労働政策審議会の労働基準法等の改正などを審議する「労働条件分科会」の座長もされています。

労働基準関係法制研究会は今後「報告書」をまとめることになると思いますが、報告書に書かれるであろう労働基準法の見直しに向けての意見は労働政策審議会・労働条件分科会で正式に議論されることになりますが、労働基準関係法制研究会と労働条件分科会の座長が同一人物だということは厚生労働省や政府の副業・兼業の場合の割増賃金の通算規定の見直しを急ぎたいとの強い意志を感じます。

なお、最新の労働政策審議会・労働条件分科会委員名簿をみると安藤至大・日本大学経済学部教授も労働基準関係法制研究会メンバー(構成員)とともに労働政策審議会・労働条件分科会委員もされるようです。

労働政策審議会・労働条件分科会委員名簿(PDF)

労働基準関係法制研究会 報告書

厚生労働省(労働基準局)有識者会議「労働基準関係法制研究会」の第13回研究会まで「労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇」などの個別の論点を議論してきましたが、第14回研究会からは労働基準関係法制研究会 報告書を取りまとめるための議論が行われます。

労働基準関係法制研究会(報告書)議論のたたき台

厚生労働省(労働基準局)有識者会議「労働基準関係法制研究会」の第14回研究会が(2024年)11月12日に開催されたが、議題は「労働基準関係法制について」。

また、第14回研究会の資料は「労働基準関係法制研究会(議論のたたき台)」となっていますが、実質的には「労働基準関係法制研究会」報告書作成に向けた骨子案と言えると思います。

労働基準関係法制研究会(議論のたたき台)(PDFファイル)

「労働基準関係法制研究会(議論のたたき台)」ポイント
・ 「過半数代表者」の機能強化について
「過半数代表者」の機能強化については「過半数代表者が、事業場で適正に選出されないケースがあること」、また「過半数代表者の役割を果たすことの労働者の負担や、全ての労働者が労使コミュニケーションについての知識・経験を持つわけではないことから、積極的な立候補が得られないことが多いこと」などといった「様々な課題があり、改善が必要と考えられる」と書かれています。

・テレワーク時に利用可能なみなし労働時間制度
テレワーク時に利用可能なみなし労働時間制度については「テレワークの際は、仕事と家庭が近接しており、厳格な労働時間管理はプライベートに踏み込みかねないこと等を踏まえ、テレワークに対応したみなし労働時間制度が考えられる」、また「一方で、みなし労働時間制度については長時間労働のリスクも指摘されており、テレワークにおける労働時間の実態や、労使のニーズ等を把握した上で、中長期的な検討が必要と考えられる」と記載されています。

・勤務間インターバル制度
勤務間インターバル制度については「研究会では、勤務間インターバル時間を11時間とすることを原則としつつ、適用除外や、インターバルをとれなかった日の代替措置などの柔軟な対応を、法令や労使合意によって広く認めるという考え方や、勤務間インターバル時間は11時間よりも短い時間としつつ、柔軟な対応についてはより絞ったものとするという考え方、規制の適用に経過措置を設け、前面的な施行までに一定の期間を設けるという考え方などが示されており、より多くの企業が導入しやすい形で制度を開始し、段階的に実効性を高めていく形が望ましいと考えられる」、また「義務化の度合い等についても、労働基準法による強行的な義務とするという考え方や、労働時間等設定改善法等による措置義務や配慮義務とするという考え方、現行の抽象的な努力義務規定を具体化するという考え方などが示されており、様々な手段を考慮した検討が必要と考えられる」と書かれています。

・つながらない権利
つながらない権利については「勤務時間外にどのような連絡までが許容でき、どのようなものは『つながらない権利』として拒否できるのか、総合的な社内ルールについて、労使の話合いを促進していくための方策を検討することが必要と考えられる」と記載されています。

・副業・兼業の場合の割増賃金
副業・兼業の場合の割増賃金については「労働者の健康確保のための労働時間の通算は維持しつつ、割増賃金の支払いについては通算を要しないよう、制度改正に取り組むべきと考えられる」と書かれています。(「労働基準関係法制研究会(議論のたたき台)」より抜粋)

なお日テレNEWSは「厚労省は、有識者からの意見を聞いた上で、年度内に研究会の報告書をとりまとめ、今後、法改正に向けた議論を進めるとしています」と報じています。

“14日以上の連続勤務禁止を検討すべき”有識者研究会で厚労省が案(日テレNEWS)

また、労働基準関係法制研究会の開催案内や資料や議事録は次の厚生労働省サイトに掲載されています。

労働基準関係法制研究会(厚生労働省サイト)