給与デジタル払い制度案骨子を厚労省が提示
本日(2021年4月19日)、厚生労働省の労働政策審議会・労働条件分科会(第168回)が開催されたが、議題は「1 資金移動業者の口座への賃金支払について」および「2 フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドラインの策定について(報告事項)」。議題1の「資金移動業者の口座への賃金支払」とは、いわゆる給与デジタル払いのこと。
給与デジタル払いを行う場合の制度設計案(骨子)
本日開催された労働政策審議会・労働条件分科会の資料「資金移動業者の口座への賃金支払について課題の整理(3)」の9ページには「資金移動業者の口座へ賃金支払(給与デジタル払い)を行う場合の制度設計案(骨子)」が記載。
資金移動業者の口座へ賃金支払を行う場合の制度設計案(骨子)
(1) 使用者は、労働者の同意を得た場合には、賃金の支払について次の方法によることができるものとする。
*銀行口座への振込、一定の要件を満たす証券総合口座への払込は、引き続き可能。
*資金移動業者の口座への賃金支払について、使用者が労働者に強制しないことが前提。
(2) 次の1~5の全ての要件を満たすものとして、厚生労働大臣が指定する資金移動業者の口座への資金移動
(指定の要件)
1 破産等により資金移動業者の債務の履行が困難となったときに、労働者に対して負担する債務を速やかに労働者に保証する仕組みを有していること。
2 労働者に対して負担する債務について、当該労働者の意に反する不正な為替取引その他の当該労働者の責めに帰すことができない理由により当該労働者に損失が生じたときに、当該損失を補償する仕組みを有していること。
3 現金自動支払機(ATM)を利用すること等により口座への資金移動に係る額(1円単位)の受取ができ、かつ、少なくとも毎月1回は手数料を負担することなく受取ができること。また、口座への資金移動が1円単位でできること。
4 賃金の支払に関する業務の実施状況及び財務状況を適時に厚生労働大臣に報告できる体制を有すること。
5 1~4のほか、賃金の支払に関する業務を適正かつ確実に行うことができる技術的能力を有し、かつ、十分な社会的信用を有すること。
(3) 厚生労働大臣の指定を受けようとする資金移動業者は、1~5の要件を満たすことを示す申請書を厚生労働大臣に提出しなければならない。厚生労働大臣は、指定を受けた資金移動業者(指定資金移動業者)が1~5の要件を満たさなくなった場合には、指定を取り消すことができる。
資金移動業者の口座への賃金支払について課題の整理(3)(PDF)
支払日にATMで現金化 給与デジタル払いで制度案-厚労省
時事ドットコムニュースは「スマートフォンの決済アプリに給与が直接入金される『デジタル払い』の解禁に向け、厚生労働省は19日、労働政策審議会(厚労相の諮問機関)の分科会に制度設計案の骨子を示した。骨子によると、デジタル払いで受け取った給与は、支払い当日に現金自動預払機(ATM)などで1円単位で現金化できるようにする。アプリ運営会社が経営破綻した場合は、保証機関などが支払いを肩代わりし、数日以内に受け取れるようにする」(2021年4月19日12時22分)と報じた。
政府は今年度の早い段階での省令改正を目指しており、今回の骨子提示で議論を加速させたい考えだ。
労働基準法は給与について、労働者に現金で全額を直接支払うよう定め、省令で金融機関の口座への振り込みも認めている。政府はスマホ決済を手掛ける「PayPay(ペイペイ)」など「資金移動業者」のうち、一定の条件を満たす企業のアプリを振込先として認める方針だ。
支払日にATMで現金化 給与デジタル払いで制度案-厚労省(時事ドットコムニュース)
「1円単位で現金化を」厚労省、デジタル給与払いに条件
朝日新聞デジタルは「『〇〇ペイ』といった電子マネー口座に会社が給与を直接振り込むことを認めるかをめぐり、厚生労働省は19日、『デジタル払い』を担う事業者に求める条件案を、労使の委員らでつくる審議会に示した。金融庁と厚労省による『2階建て』の規制で安全性を確保する狙いだが、監督能力を心配する声もあがった」(2021年4月19日 20時30分配信)と報じた。
労働基準法では、給与は現金で全額払うのが原則とされ、銀行などの口座に振り込むのは労働者の同意を得た場合の例外とされる。
政府は電子マネー口座も例外に加える方針だが、安全性への懸念も大きい。そのため、給与の振込先にできるのは、資金決済法に基づく金融庁の規制に加え、厚労省が求める条件も満たした資金移動業者に限るアイデアが示された。
厚労省はまず、電子マネー口座への振り込みも働き手の同意が前提とした。そのうえで、(1)破綻(はたん)してもすぐ保証する仕組みがある(2)不正による損失が補償される仕組みがある(3)現金の受け取りや口座への資金移動が、1円単位でできる④業務や財務の状況を適時に厚労相へ報告できる体制がある⑤確実に払える技術力や社会的信用がある、といった条件を求めた。
だが、労働者側の委員から厚労省のチェック能力について「(業者から提出される)書類を形式的に確認するだけでなく、実効性をどう確保するのか」と疑問の声があがった。資金移動業者は利用者の購買履歴を知る可能性もあることから、個人情報の厳しい管理を求める意見も出た。
経営者側の委員も、電子マネー口座の上限額に達して給与が全額振り込めないなどのエラーが起きた場合、労基法に触れる可能性があるため、「使用者側に責任が問われないことを明確に」と注文した。
政府はもともと給与のデジタル払いについて2020年度中の実現を目指していた。だが、電子決済サービス「ドコモ口座」を使った不正引き出し問題が昨秋発覚するなどし、議論が遅れた。厚労省は21年度のできる限り早期に実現をめざすとしたが、正確には見通せていない。(山本恭介)
・給与のデジタル払いを担う事業者に厚労省が求める条件案
(1)破綻してもすぐに保証する仕組みがある
(2)ハッキングなどの不正の損失を補償する仕組みがある
(3)現金自動支払い機などでの現金の受け取りや口座への資金移動が1円単位でできる
(4)業務や財務の状況を適時に厚労相へ報告できる体制がある
(5)確実に払える技術力と社会的信用がある
「1円単位で現金化を」厚労省、デジタル給与払いに条件(朝日新聞デジタル)
資金移動業への連合(日本労働組合総連合会)の懸念
連合(日本労働組合総連合会)は「政府は『成長戦略フォローアップ』(2020年7月17日閣議決定)等において、この通貨払いの原則の例外に、資金移動業者の口座への支払いを追加することについて、早期の制度化を目指しています」が、「資金移動業者については、資金保全、利用者保護、監督・指導の観点から、下記のような懸念があります」とする。
資金移動業における懸念点
1 資金移動業者が破綻した場合、供託による資金保全の義務が課されているとはいえ、払戻までに長期間かかる。
2 供託にはタイムラグがあり、資金保全不足の懸念がある。
3 資金移動業者は許可制ではなく、登録制であり、登録要件さえ満たせば、どのような業者でも資金移動業が可能である。
4 銀行における預金者保護法のような共通の保護規定はなく、不正利用があった場合の保護等については、各資金移動業者により異なり、保護が十分ではない。
5 資金移動業者には銀行のように専業義務は課されておらず、業務範囲は無制限で可能であるが、監督官庁である金融庁が監督指導できるのは資金移動業に限られる。そのため、本体業務が危うくなった際、資金移動業にも大きな影響が及ぶことが懸念される。
6 決済利用に伴う個人情報データの保護・取扱いについての検討が十分行われていない。
7 資金移動業は口座への資金の滞留を前提としておらず、滞留資金または滞留防止に関する検討が十分なされていない。
そして、連合(日本労働組合総連合会)は「従来から、賃金という労働者にとって非常に重要な債権の支払い方法については、その確実な支払いを確保するためにも、労働基準法第24条が定める賃金支払いの原則を堅持し、資金移動業者が開設する口座への賃金支払いは認められない」と主張。