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3branches _アルバム「流体」制作記録

1.「黒電話」

アンティークショップで黒電話のジャンク品を購入したので、その音を
モチーフに作りました。レトロな雰囲気を伝える様な、それでいて新鮮な
響きを持った曲になる様な編集と加工を試みました。
使った音源は、黒電話、水の入ったプラスチックボトル、加圧式噴霧器、
溝蓋 グレーチング、コンクリートブロック、金属ニップル部品、木の杭、
木製の弁当箱、フローリング板、ビール瓶、ブリキ玩具などなど。
「多くの素材を上手くまとめる」事を試みました。
複数の素材によってトラックが混沌としない様に、まずは完結した数秒の
サンプル曲を作り、それを繋げる様にしながら1曲にまとめました。
RADIO SAKAMOTO入選次点作。


2.「紙箱」

紙箱とタイプライターの音を合わせて作りました。
音楽性を補うためにパッドを入れると曲が安定してしまって面白味に欠けてしまうというのがあって、最低限の部分に絞ってパッドを入れました。
そして旋律に当たるものとして、音階が不安定なギィ~という鉄の軋み音を使ったりと、とにかく曲の不安定さを維持する様に心掛けました。
紙箱に注目した理由は、箱状のものだと、蓋の開閉によってカットオフ
フィルターの様な音の変化が楽しめるので。
紙箱の籠もった柔らかい音が気に入りました。


3.「湖水」

曲名の通り「湖のローボートを漕ぐ音」「湖畔の噴水の音」をメインに
置いて、装飾的に「コーヒー豆の音」「石、軽石の音」「金属雑貨の音」
などを組み合わせて行きました。
コーヒー豆や石の音と、水の音とは全く関係の無い意外な音の組み合わせ
ではありますが、合わせる事で一つの特殊な心象風景を作る試みと
なりました。
ただの環境音の様でもあるこの曲ですが、カチッ、カチカチッと鳴る金属音でリズムを作ったり、オルゴールのメロディの断片を入れたり、音楽的要素も塗してあるので、制御された環境音とでも言うか、実際、コーヒー豆の「コツッ」と鳴る音一粒も切って再配置したりもしています。
構成は、コーヒー豆の音から始まり「噴水」→「ローボート」→「噴水+
ローボート」と単純な流れですが、装飾的な音と組み合わせて、どれだけ
意識を引っ張り続けられるかみたいな工夫をすることで単調さを
カバーしています。

石、軽石、陶器、穴開けパンチ、金属調理器具類、ミニオルゴール、コーヒー豆

4.「浴室」

きっかけは「休日の昼間に入浴すると何故心が落ち着くのだろう?」というところから作り出しました。
外の世界は風が強かったり、洗濯機の音などの生活音がせわしなかったり、でも自分の周りには静寂があり、目の前に水(お湯)の音と残響がある。
浴室とは、何となく自分が守られている小さな空間というイメージが
あります。
そのイメージを元に隙間風と洗濯機の音を録音し配置設定したのですが、
ステレオでその状況を再現するのは難しく、またリスニングトラック
としても面白くあって欲しかったので、少し手を加えた心象風景の様な
仕上がりにしました。
数トラックを混ぜた隙間風の音の魅力をより前面に出し、洗濯機の音も
その音量バランスに合わせたので、現実よりも少し騒がしい浴室風景に
なりました。


5.「氷水」

氷水の音で作りました。
実際は、サラダボウルとグラスに入った氷水、竹ささら、陶器のかけらの
装飾品、木製の鍋敷き、チャイポッド(フタの開閉)、アイストレーに
入った氷、ミニすり鉢などの音を使いました。
全て生活道具の音で作られています。
生活道具は、定量化・標準化された楽器とは違い、音が整理されて
いません。ですが、その音の不安定さから来る良さ、豊かさというのも
あります。それらを活かすには、音を整理(制御)し過ぎず、補正を加える様な適度な加減が必要です。それによって、演奏なのか生活音の寄せ集め
なのか、その中間にある様な効果が得られます。
「音楽と生活音の中間」、そういった錯覚があると思います。
後半のカチッ、コチッ、キューッっと鳴る氷の音が推しの音です。
バサバサ鳴っているのは竹ささらをすり鉢やコンクリートの地面に当てて
適当に鳴らした音です。
RADIO SAKAMOTO入選作。

氷水を手でかき回したので指先がキンキンに
サラダボウル、グラス、チャイポッド、ミニすり鉢、木製の鍋敷き、、竹ささら

6.「印刷機」

コピー機の音を録音して作られた曲です。
一聴した感じ、ただコピー機を録音しただけの感じもしますが、数パターン録音したものを編集し、装飾的な音も加えられています。
加えた音は、掃除機の音、電動モップの音、陶器をミニブラシで擦った音、自転車に付けるラッパホーン(音は出さずにエアーをハフハフさせた音)、蹄鉄の音などです。
コピー機の音とは主にモーターの音と歯車による機械本体の動作音で、
それらはコンピューターによって正確に制御された音なので、発する音
自体は面白いのですがパターンは単調だったりもします。
そこでイレギュラーな音を加える事によって、ユーモラスな情景と躍動感を加えました。

石型の陶器、ミニブラシ、蹄鉄、ラッパホーン

7.「園庭」

日用品や雑貨を集めて録音したトラックを組み合わせて、更に公園で
フィールドレコーディングした音を合わせて作りました。
日用品や雑貨の音は、適当に鳴らして録音したトラックを並べて、細かく
切り刻んで、相互のトラックの関係性を見ながら配置して行きました。
キーキー鳴っているのは、コーヒーミルの音です。
その他、高域はリズム的な役割で箸、カピスシェル、フルーツポンチの果物くり抜き器、中高域はカットオフフィルターの様な役割でガラスボール、
植木鉢など。
屋外の開放感と、室内の音(日用品と雑貨の音)の心地良い響きを合わせてみたといった感じの曲です。

壁に打ち付けるタイプのコーヒーミル

8.「遊び詩」

白亜紀ヴィジョンさんによるポエトリーリーディングとのコラボ曲です。
明るい声の感じ、暗い声の感じ、ひそひそ声などで詩の朗読を録音した
後に、拡声器を使ってみたり、ボール紙の筒越しに録音してみたり、
アコースティックギターの穴に口を近付けて録音してみたりと、
バリエーションを考えたバージョンの録音も試みました。
詩に関して僕が出した注文は、「1行目を短く、2行目を長く」の2行の
詩の連続で「1行目をゆっくり、2行目を速く読む」というもの。
基本のリズム感をそこで作って「単調にならない様に時々1、2文字の言葉を挟んで下さい」とも注文。
編集で更に、基本リズムからこぼれる様に変調さを調整しました。
詩の内容については、「響きが面白いものを」と注文。
構成は、ワックスペーパーのパートから始まり、アンティークハンド
ミキサーのパートと、風船の空気の抜ける音のパート、ガラスとレンガの
パート、ブリキケースのパート、最後はワックスペーパーと膨らませた風船のパートです。
空想的な詩の内容と実体感のある「モノの音」を組み合わせたみたいな
試みの曲です。

朗読録音に使用した道具

9.「気圧」

部材や工具を使用して作りました。
そこに、山梨の渓谷や最寄り駅の自転車置き場などでフィールド
レコーディングした音を合わせました。
部材や工具には音の出し方に決まりが無いので、「擦りつける」とか
「引きずる」など、楽器ではあまり無さそうな音の出し方を考えて
みました。
楽器に無い部材や工具の鳴らし方、キツい金属音と澄んだ川の水が流れる音の対比など響きの面白さを念頭に組み立てました。


10.「冷蔵庫」

長年使っていた冷蔵庫を新しい物と買い換えたのを機に、せっかくなので、新しくなった冷蔵庫を使って曲を作りました。
冷蔵庫から出る機械ノイズ、扉の開閉の音、前面扉に付けている
マグネットの音、冷蔵庫の隣にあるシンクの音など、また、それらと相性が良かったので、キュルキュルと鳴るペッパーミルやコーヒーミル型の置物の音なども付け足したりしました。
そしてアクセントにシンプルなシンセの音も足しました。
「冷蔵庫」という曲名が無くても、冷蔵庫を連想する作品になったと
思います。
編集には特に手間を掛け、録音したオーディオデータをかなり細かく
細切れにし、それを時間を掛けて配置したり、ヴェロシティもかなり
調節しています。
そこがリアルタイムの即興演奏とは少し違うところかなと思います。
いずれにせよ、普段何気なく聞いている音も、改めて意識を向けてみると
実は面白いと気付いて貰えたら幸いです。


11.「入り江」

岩手の三陸で録音した海の音を使って作られた曲で、海の音だけを使って
海の音を作るという、ちょっと変わったコンセプトです。
以前から、マルチ感覚で海の音を編集したいと思っていたので。
場所は、釜石の港でボコボコと泡っぽい音と、ボコンボコンと海水が壁に
当たる音がしていた排水溝の2か所、そしてザザーッと浄土ヶ浜の磯と
浜辺の音が3か所。
トータル十数トラックを駆使して、曲としての流れの様なものを
作りました。
ちなみに録音したトラックを普通に重ねて行くと、訳が分からなくなって
行って酔います。なので、ある程度整理しながら組み立てて行く作業に
なります。
録音したトラックを一旦切ってバラバラにし、トラック同士が上手い具合に干渉し合う様に配慮しながら一つのタイムラインにまとめて行きます。
実際にはここまで複雑なシチュエーションはあり得ないので、環境音では
あるのですが自然世界には無い少し不思議な感覚があると思います。

浄土ヶ浜

 12.「ピアノ線」

木の板に釘を打ってピアノ線を2本張り、弾いたり、物を擦りつけたりして音を出したものを曲にしました。
ピアノ線の録音トラックを重ねて行くうちに音が混沌として来たので、
シンプルなシンセ音と合わせたり、エアーの音で間合いを取ったりして
その対比によって作品としてまとめました。
部材の一つとして着目したピアノ線ですが、録音して行くうちに、ピアノ線をいじる音は「手を近づけると危ない」とか「細くもゴワゴワ堅い感じ」
とか、ちょっと危険でゾクッとするイメージがありつつも、改めて
音そのものを聞くと、普通に心地良さも兼ね備えている素材だと思います。


13.「鉄塔」

溜まったホームセンターや中古工具屋で購入した部材で作りました。
メガネレンチをカラカラ鳴らした音と、鉄ブラシを鳴らした音に
エフェクトを掛けた音の組み合わせをメインに、鉄塔のをイメージして
うっすら風の音を足したり、工具の音を加えて行きました。
ピアノとベースアレンジをアクセントとして加え、曲としてまとめました。


14.「竹炭」

竹炭を購入し、それを元に作品にしました。
竹炭は木炭より形状が薄くて、硬度が高いのでシャリシャリした繊細な
音がします。
曲の高音は竹炭のシャリシャリを鳴らし、低音には庭石の音と水の入った
ボトルの音を使いました。
生活の中や自然では聞かない不思議な音の組み合わせではありますが
実在音を使っている事で、少し現実から浮いた感じがあります。
「竹炭」は「振鈴」と共に坂本龍一氏のコモンズの「私のスケッチ」企画に応募した1分程のサンプル音を元にして、そこから広げて作品化した
ものです。
「日常の中で少し気になった音」「音日記」「音のスケッチ」という
テーマがきっかけになっています。

竹炭
薄レンガ、庭石

15.「波音」

江ノ島に行った時の波の音で作りました。
岬と磯を歩いて、良かったポイント3か所で録音したものを編集した
曲です。
録音日はそれほど波は高くない日だったのですが、オンで録ったら迫力の
ある音だったので、そのアグレッシブな感じを前面に押し出し、そこに
信号音の様な電子音を混ぜて対比させました。
フィールドレコーディングした音に少し手を加えて、リスニングとしての
面白味を出せないかという試みです。
その際に、波の音を数秒間に区切って、それに合わせながら「そう来た
なら、こうする」と、受動と能動を繰り返しながら組み立てるという手法を取りました。
聴いていて規則性がある様な無い様な感じがするのは、そこだと思います。
本来、水の流れには規則性は無いのですが、「あるような気もする」というところで意識を引っ掛ける事で、リスニングとして成立を試みました。
いずれにせよプログラミング制御ではなく、アナログ的な手作業の編集が
主です。
RADIO SAKAMOTO入選作。


16.「振鈴」

インドのベルを作品化しました。
肉厚で低い音がする、日本ではあまり見ない感じの鈴です。
その音をメインに、家にある道具、部材などの音と合わせました。
気に入った道具や部材は普段からストックしているので、憶測で相性を
合わせて行くといった作り方です。
全体的にパーカッシブな感じがありますが、リズムと言うにはあまりに
雑然としているため「音の有様そのままに聴く」「五感入力として聴く」
という、鈴の音を音の波と捉えてフィールドレコーディング的な聴き方を
すると楽しめるかもしれません。

牛などに付けるインドのベル

17.「鉄道」

「入り江」と同じく、岩手県の録音旅で録った音を元に作った曲です。
録音した音そのものが情報量の多い音だったので、そこを活かそうと録音
した複数トラックを組み合わせたものだけで作られています。
環境音で構成はされていますが、編集でかなり加工されています。
一般的に電車の音って騒音と捉えられがちですが、車や飛行機、電車などの乗り物音は、ゴーッと音が大きく情報量が少ない、周りの些細な環境音をかき消してしまうなど、身の回りの環境音をのっぺりと情報量の少なくする
方に働きます。単純化してしまった音ばかり聞いていると、耳(感性)が
悪くなるみたいな。
でも改めて近くで聞いてみると、電車の音も実際はかなり複雑で面白い音で構成されています。
この作品は、その複雑なノイズが多く含まれたトラックで
構成されています。 

録音したローカル線の線路

2024.3.28. 3branches


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