朝露
昨晩、私は学生時代にバイト先で一緒だった女の子と夢の中で再会した。小柄で長い黒髪が印象的だった。年齢もあの頃に戻っていて、彼女は座敷の居酒屋で私の左隣に座っていた。
彼女は私のシャンディー・ガフのグラスをそっと奪い取り、一口だけ飲むと不意に私の肩に頬を寄せて、やがて私が履いていたベージュのコーデュロイパンツの太腿に膝枕のようにして寝転がり、こちら側を向いて私を上目遣いで見つめた。しっとりとした黒髪の束が美しく波打っていた。その瞬間、私は夢の中で全てを悟った。これは完全に夢の中の出来事だと確信した。明晰夢である。
今、私が見ているこの夢は現在の私の身体を発端とした生理的欲求と、過去に私が無意識的に描いた精神的憧憬が混濁したヴィジョンなのだろう。
この夢は私の意のままに進行させることができた。このまま甘く美しい夢の中に没入するのか。あるいは自分の頬を叩いて目を覚ますのか。
しかし夢の中とは言え彼女は確かにそこにいて、その存在をありありと感じることができた。この場所から私がさっさと逃げ出した場合、残された彼女は何を思うだろうか。私は彼女を蔑ろにするわけにはいかなかった。例え彼女が私の描いた実体を持たない虚像であっても。
私は心を落ち着かせて彼女の黒髪を静かに撫でることに終始した。寝つきの悪い子供を寝かしつける時みたいに。彼女はそのまま私の夢の中で眠りに落ち、それと同時に私は夢から目覚めた。
私はまだ熱を帯びたベッドから這い出し、部屋のカーテンを開けた。外気を取り込むために少しだけ窓を開けると、窓に結露していた朝露が朝陽に照らされて輝いていた。
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