洞田

山間に住んでいます

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最近の記事

草食ったさん著「境内の樹木」への感想

境内の樹木/草食った 草さん、ご参加ありがとうございました。とてつもなく返事が遅くなってしまいすみません。何かの機会に読んでいただけたら嬉しいです。 最近、植物の時間感覚に「一日」という単位を持ち込むのはいかん気がする、と思って、それからこちらの作品を読み直しました。すると、やっぱり一度たりとも一日単位の会話はなく、会話は擬人法を使って馴染みやすく調整してあるのだけれど、時間的に見ればしっかりと植物そのものの時間を捉えて書かれた作品なのだ、とはっきり認識することができまし

    • 武州人也さん著「郭公落つる(改訂版)」への感想

      武州人也/郭公落つる(改訂版) 大変お待たせして申し訳ありません。武州人也さん、ご参加いただきありがとうございました。 いきなり本題に入りますと、とてもエッチでした。言葉のみで紡ぐ文芸作品の大きな利点は、映像作品のように現したいものを実際に出現させる必要のないことですから、うら若い美少年を登場させるのにわざわざそれに合う人を連れてくる必要もありませんし、彼が実際に行為に及ぶ状況も描写できる。そこで武州人也さんの的確な言葉選びが、起きていることの要点を示してくれ、読む人をそ

      • あきかんさん著「俳句・短歌共同作品集」への感想

        俳句・短歌共同作品集/あきかん あきかんさん、ご参加ありがとうございます。 俳句を彼女が、短歌を彼が書き、彼の短歌はどれも彼女の存在を入れたものですが、彼女は「新入生・夏の風・小鳥・街路樹・苔・夏の風・木枯らしに押される人」と自然の移り変わりに目を向けていて、行動を制限され、外の世界を見るのに一つの窓しか与えられない入院患者のようにも思えます。 彼女の置かれた状況と彼の目的について理解しようと思ったのですが、私の知識不足のせいでなかなかうまくいきませんでした。 初夏の時点

        • ジュージさん著「井戸」への感想

          井戸/尾八原ジュージ ジュージさんご参加ありがとうございます! 美しくて怖いお話!いやぁ、いいですねぇ。 全体の構成もそうなんですが、「レースの足袋」「千枚通し」「ランタン」など、ジュージさんの選ぶモチーフも美しいです。 いろんな素敵な要素があって、どこにフォーカスしようか迷いました。美しい情景の描写も巧みで、四季の花々が鮮やかな色彩を水面に浮かばせた後、水の中の白い肌をスッと登場させて読者に思い出させて、頭の中で幾重にも映像を重ねさせる場面なんかもう本当に素晴らしいで

          偽教授さん著「一度も会ったことのない恋人」への感想

          一度も会ったことない恋人/偽教授 偽教授さん、ご参加ありがとうございます。 まず、この文章から感じたのは秘められた痛切さで、実際に近似した経験があり、そこから産み出された文章だと思いました。偽教授さんは本当に文章がうまいので事実そのものが書かれているようにも見えます。しかしながら、どちらに取っても苦悩の深さについては作り物ではないと感じます。 あえて言うなら手紙に近いとありましたので、全文をボールペンで紙に写してみました。書く中で最もグッと来た部分を抜き出します。 「

          偽教授さん著「一度も会ったことのない恋人」への感想

          崇期さん著「正常な人がただそこにいる」への感想

          正常な人がただそこにいる/崇期 崇期さん、ご参加ありがとうございます。 文章に無駄がなく、文章力の高さが一見して分かります。「正常な人がただそこにいる」という題は私も一度挑戦していたのですが、どうやって書けばいいのかわからんとなって投げ出したものでした。正常な人がいるだけだと全然物語にならない、その正常な人の正常さを異質に描くことでやっと人の興味を引くことができるのにうまくそれができず…ということで諦めたのですが、それを画家の作品の題名と小説そのものの題として使うというの

          崇期さん著「正常な人がただそこにいる」への感想

          灰崎千尋さん著「匣飼い」への感想

          匣飼い/灰崎千尋 灰崎さん、文章を送ってくださってありがとうございます。少女の語りがとても自然で、物語の世界に滑らかに入っていくことができます。文章が上手い! 物語が緻密に組み立てられて隙なく表現されており、場面から受ける印象のひとつひとつがこの物語全体の空気を醸し出しています。要素を取り出して何かを言おうとすると物語全体の雰囲気が崩れてしまうのがもったいなくて、感想を書こうとして読んだのに満足して閉じてしまうというのを何度も繰り返しました…ちゃんとやってくれワタシ…!

          灰崎千尋さん著「匣飼い」への感想

          杜松の実さん著「猫の矜持」への感想

          猫の矜持/杜松の実 杜松の実さん、ご参加ありがとうございます。ある飼い猫の目線から見た世界の話。「吾輩は猫である」のオマージュですね。 人は、相手からどう呼ばれているかで相手が自分をどう思っているかは推し量れるものですが、その呼ばれ方をチロは強く気にしています。 飼われている動物の中には、服を着せて飾りつけられたり、子孫を残す機能を強制的に奪われたりして、自立した大人になる機会を与えられないまま永遠の子供としての扱いを受ける個体が多くいます。彼らに大人の時代はなく、自分より

          杜松の実さん著「猫の矜持」への感想

          鈴野まこさん著「五兵衛の桜」への感想

          鈴野まこ/五兵衛の桜 鈴野さん、ご参加ありがとうございます。とても素晴らしいです。桜が見る夢を人が覗く…いいモチーフですね。最初読んだ時は桜にまつわる話に気を取られてわからなかったのですが、何度も読むうちに五兵衛が独特の存在感を放っていることに気付きました。この存在感はどこから来るのか、ちょっと考えてみます。 夢を見に来る人達は、周りより頭一つ抜け出ようという願望を持って、他の人には見えないものを垣間見るために桜の下に来ていますね。それは彼らが新しい作品を作ろうとする意欲

          鈴野まこさん著「五兵衛の桜」への感想

          星太さん著「苔」への感想

          苔/星太 星太さん、一番のご参加ありがとうございます。落ち着きとリズムの同居した素敵な文章ですね。画面上で美しく文章が見えるよう配置されていることがさっぱりとしたリズム感を与えるのに効果を発揮しています。 題名にあるように「苔」について、そして「人のいない世界」、最後の終わり方からして「植物の見る夢」についても仄めかされているように思いました。人の欲望を排除した作品です。人のいない世界では物事がシンプルな形で立ち現れてきて、それを周りの存在がひたすらに見ている、その延々と

          星太さん著「苔」への感想

          自主企画「洞田が読む広場」を開催します

          みなさんこんにちは。洞田です。 こちらは、私の好きなお題に沿って書いていただいたものを私一人がじっくり読み、みなさんに感想をお返しする、という企画です。 開催にあたって、お願いと注意が11項目あります。(多いな…) 1. 応募作品はお一人につき一作でお願いします。 2.文字数は17〜8000字程度です。厳密ではありませんので、数百字程度の誤差は構いません。 3.テーマを以下の候補から単数もしくは複数選んで書いてください。一つの作品内に複数のテーマを織り込んでいただいて

          自主企画「洞田が読む広場」を開催します

          夕焼け

          竹林の手入れをする。見える部分だけで中学校の教室の二倍はあり、その奥は鬱蒼としていて先が見えない。植栽のために植えてある落葉樹を残しつつ見える範囲の竹を根本から切って集め、穂を捌いて麻紐で縛り軽トラックに積む。竿は1m程にして竹林の奥に作ったスペースに積み上げておく。 教室一つ分ほどの明るい空間が確保できたところで次の植栽に使う木を四本ほど引き抜く。根の部分を半球状に残して掘り、麻布を巻いて保護する。更に何本か必要なので明日はせりに行くことになった。社長がせりには二台の軽トラ

          縁側の前に庭がある。少し狭いが、工夫次第で面白くなる庭だ。庭の向こうの一段下がったところに壇が、そこからもう一段下がったところに車道が走っている。道路の向こうは竹林。庭には先代の家主が植えたであろう木々が茂っている。道路から見上げると名前のわからない腰丈ほどの木が数種類、壇の部分に生えていて、その上に縁側が見える。縁側から見て左手に大きな落葉樹、その下に紫陽花。真ん中はよく見ないとわからないほど小さな人参の葉っぱがちょこちょこ出ている。右側は常緑樹があり、そのすぐ横に門扉と、

          不意に現れた光

          リビングの上が手当たり次第に買った本と頭の中を描き散らかした紙によって埋め尽くされている。それらの隙間にリモコンやイヤホン、チョコ、カップケーキが覗いていて、いつも座る席の前だけがお盆のサイズくらい空けてある。 文章で食べていくとはどんなことかを考える。まっさらな紙をお盆サイズの空き地に引き出してボールペンを手に取った。紙のすぐ左ではIGTVが流れている。若い女の子の声から低いトーンの男の声に切り替わり、紙からふと目を移すとKing Gnuが4人で話している。ギターボーカルの

          不意に現れた光

          あまりにぼんやりしている

          2020.2.26 意識がぼんやりと戻ったような戻っていないような微睡の状態で、頭の横から人の喋り声が聞こえる。聞いたことのある二人組の声に少し集中すると、昨日かけていたラジオが繰り返し再生されていたのだと思い至る。15分ほどの番組が終われば止まるはずだったが、かけ方を間違えたせいで夜中ずっと鳴り続けていたらしい。スマホを見ると仕事の日に起きる時間と同じなので、身体はちゃんと感覚を覚えている。今日仕事はないのでラジオを止めてもう一度寝る。 9時に起きたあといつも通りの朝を過ご

          あまりにぼんやりしている

          午後3時まで

          2020.2.25 何時に起きたかよく覚えていない。だいたい9時ごろだった気がする。 起きてから朝食を取り歯を磨くまでは毎日同じパターンを繰り返しているためか、今日の朝だけを切り出して思い出すことができない。一連の流れの中に少しずつ差異があることは思い出せるが、それが今朝だったのか昨日だったのか一週間前だったのか、根拠を持って思い出すことができない。 歯磨きを終えて、外出時の格好に着替える。黒い細めのズボンに、シャツとニット。長めの靴下。出かける予定はないが、外にいる時と同じ

          午後3時まで