見出し画像

回復に向けて

今ではめっきりなくなったが、私は衝動的なセックスを繰り返していた。
寂しいから、必要とされたいから、自分に価値があると確かめたかったから。その衝動は突然顔を出し、自分で自分のコントロールができなくなってしまう。そこからは早い。見ず知らずの男性とその日に会う約束をし、セックスをする。それが終われば用済みだから、さっさと帰る。それの繰り返しだった。

当時を振り返ると、よくまあそのような体力があったなと思う。体力とは無関係に体が動くので体力が有り余っていたからそのような行動をとっていたわけではないことくらい自分が一番に理解してはいるが、当時の嵐のような心の動きをはっきり思い出せないでいるため当時の自分の行動を不思議に感じてしまう。
なぜなら、今はそのような衝動的な感情が湧き上がってこなくなったからだ。自分自身を強烈に突き動かすような強い孤独感や不安感は今のところもう沸き起こってこなくなった。

理由ははっきりしないが、いくつか思い当たることがある。1つ目は資格試験の勉強がかなりハードだったこと。2つ目は友人の結婚報告、3つ目は一人旅を楽しめたことだ。

難易度が高かったものの、どうしても一発合格したかった資格試験。相当な危機感を持ち勉強したため、空き時間のほとんどを勉強に費やした。暇な時間を作らないことで孤独や不安から自らを強制的に隔離し、性的逸脱行為の源となる強い孤独感を感じさせない仕組みを作った。セックスに依存する人がセックスを断ち切るためにまず最初に試みるべきことは、次のセックスまでの期間を意識してのばすことだ。毎週末セックスをしていたのなら、毎週末ではなく我慢して1ヶ月期間をあける、それができれば次は2ヶ月期間をあけるといったものだ。資格勉強に集中し、孤独を感じない環境を作ることでネガティブになりやすい心の動きを変え、次のセックスまでの間隔を意図的に長くしようと試みたのだ。これがかなり上手くいった。試験勉強に集中したため、セックスの頻度を下げることができたのだ。

2つ目の友人の結婚報告。大学からの友人で、彼女は同じ支店の同期の男性と社会人になって人生で初めてお付き合いをした。1年半ほど付き合ったタイミングで彼からプロポーズがあったらしい。当時、それを耳にした時私は愕然とした。当時の私は、愛されること、必要とされることが人生最大の幸せと考えており、結婚がその最たるものだと考えていた。また、誰かから愛されるためには、見た目は美しくないといけないと考えていた。その美しさとは、髪型や髪質の美しさ、顔の造形の美しさ、メイクの美しさや服装の華美さ、華奢な体や白い肌、女性的な魅力、そういったものだった。私が報告を聞いたときに愕然としたのはこの思い込みにあった。彼女は私よりそれらの観点で全て劣っていると無意識に考えていたからだ。友人と表現しつつ、心のすみっこで彼女を見下し自分の方が魅力的だと思い込んでいた自分に嫌気がさした。それと同時に、重要なのは見た目の魅力ではなく人間性の美しさなのだと実感した。確かに彼女は人間的にかなり魅力的なのだ。
美しい見た目を維持するために努力しお金をかけているのだから私には愛される価値がある、それが大きな勘違いだと初めて気づくことができたのだ。

最後に、一人で3日間の沖縄旅行に出かけたことも自分を大きく変えるきっかけになったと考えている。7月下旬に10連休を取得できたこともあり、夏らしいことをしたいと考えた私は沖縄旅行を計画した。もともと友人が少ない私は沖縄旅行に気軽に誘える友人はいなかった。しかし、どうしても美しい海辺で夏を満喫したかった私は一人で沖縄旅行に行くことを決意した。単独行動が好きな一方で、しばしば一人でいることに強い不安や孤独を感じていた。一人でいることは漠然と怖い、そう考えていた。その考え方を沖縄旅行を通して少し変えることができた。最後まで一人で心から旅行を楽しめたこと、単独行動のため自由度が高く気ままに旅行を楽しめた、この経験が自分の自信につながった。
また、沖縄旅行最終日に見た美しい海辺からの朝日は今も私の心の支えになっている。ただの景色と言われればそれまでだが、暗かった空に温かい光が姿を見せた瞬間、あたりが徐々に薄ら明るくなっていった。あの温かい光と明るくなっていく空は私の心をあらわしているように思った。自然と涙が出た。誰かに依存し、自分の辛さから救われようとするのではなく、しっかり自分の足で踏ん張って、辛いことも正面から向き合って頑張って生きようと小さく決心した瞬間だった。その時初めて自分の足で真っ直ぐ立つことができたような気がした。

これらの経験から私は今比較的精神的に穏やかに過ごすことができている。人に依存して生きる方が責任や選択から逃れることができるから楽だけれど、自分の足で踏ん張って歩く楽しさに気づき始めた。失敗することや自分でコントロールしないといけないことがたくさん増えるけど、今の生活をもっともっと充実させたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?