名前のない風景がこの脳にだけ
疲れきった頭で
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日が照らぬ喫煙所は昼間と違う顔をしている。
平生話かけようなどとは思わぬのに話したくなる
「いつもこの時間まで居るんですか」
裁断機が沢山の書類を咥えて動かない
沢山の書類を喰わせたのはわたしだが。
「壊しちゃったんですか」
「いやまだ生きてるはずっす」
その人と裁断機から書類を引き抜く
昼間だったら皆知らぬふりとわたしは決めつけた
夜はやはりみな違う顔をしている
この風景に名前はないだろう
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ここに来てからはじめての居残り
毎日少し残るようにと雇主は遺憾そうに
私用を優先していいからと言ってくれている
開発計画単位での遅れを追って皆残っているから
わたしたちはそれを共有していて
ここにあるものはなんであろう
わたしの心の動きと彼らの顔から見るに
それは慈悲と呼んで差し支えないだろうか
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沢山の名前のない風景がこの脳にだけ
わたしの事など誰も覚えていなくてよいと思う
ただこの心が映したものだけ残れば
はたしてそれはなんだったであろうか
唄か詩か書か、わたしにはわからぬ
言葉!
言葉!言葉!言葉!
どこに行っても言葉がいる
少しは静かにしてくれないか
わたしは疲れているのだ
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世界は美しいなどとは決して言うまい
旧時の己が聴きつけては殴りに来る
それでもこの目に映るは美であったと
そう言う事ぐらいは許されるだろうか
誰かに尋ねられた時
まあ悪くはなかった
そう言えれば
万歳
多分に満ち足りている
知らんけど