この世界まるごとねぇ愛してください
わたくしね、
なにもないんです
空っぽなんですよ
造形的には
不可分ないようですよ
世間的にはねいいようなんです
いつかお付き合いしてたガールフレンドもね
よくわたしの顔を好きだと言ってくれましたよ
でもわたくし
それがとても恐ろしいのです
わたくしに向けられてるやさしさが
このわたくしの外側に対してだけ
向けられてるかもしれないことが
やはり外見が不可分とされる方に
世間は風あたりが強いように見えるのです
それがわたくしとても恐ろしいのです
わたくしを生んだ人は
わたくしを溺愛しました
それはもう恐ろしいほどに
わたくしにはそれが不可解で
どうしてかと訊ねると言うのです
わたしの子だから
わたくしそれがとても恐ろしいのです
もしわたくしがその人の子でなければ
愛してもらえないのかと考えると
とても恐ろしいのです
わたくしを生んだ人がよその子に
違う態度で接しているのを見ると
とても恐ろしいのです
はたしてそれは本当の愛なのでしょうか
わたくしのおばあさまはニュースにうつる
罪を犯かしてしまった者を見て言いました
こんなやつは殺してしまえ
わたくしそれがとても恐ろしいのです
わたくしだっておばあさま自身だって
生まれた場所が違えばそうなり得たのですよ
いつだっていまだってそうなりえるのですよ
自分と切り離してしまって断罪するその姿が
とても恐ろしいのですよ
まるでわたくしが死ねと言われているように感じるのですよ
みなさまねわたくしの名前を
よく呼んでくれますよ
それは大変ありがたいことですの
しかしわたくしは恐ろしいのですよ
みなさまがねこのたんぱく質のわたくしを
わたしと認識してわたくしと呼んでくれることが
もしもわたくしの意識が他の誰かに成り代わっても
変わらずわたくしわたくしと呼んでくれるのではと
考えてしまったときわたしはもう恐ろしくて
たまらないのです
わたくしの心なんて誰も必要としてないんじゃないかって
ねぇ
外側ですとか見た目ですとか
どうでもいいですから
この世界まるごと
わたくしを、ねぇ
愛してください