「タダより高いものはない」(番外編:10)
もう二年以上前になるかな、私がB型就労継続支援作業所に通ってた時のこと。その作業所はほぼ毎月のように、何らかのイベントを行ってくれる所でした。
そもそもそこには、私を含め40人近くの障がい者が利用(在籍)していたのですが、他の作業所より格段に給料が高くて、プログラミングの仕事があったので、私は本当にそこに通うのが楽しくてたまりませんでした。
とはいえ、そこでも私は平均年齢よりかなり上だったので、やはり馴染めない感じもありました。でも、黙々と一人でプログラムを組むことに、昼食も食べないほど、私は私なりに真剣に取り組んでいました。
そんなある日、今度のイベントは焼肉食べ放題に行くことになり、私は能天気にその日をとても楽しみにしていました。もちろん、イベントでは作業所のメンバーの金銭的負担はありません。
さて、当日、元々決められていたであろうテーブルに座って、私がわくわくしていた所に、スタッフさんの一人(女性)に話しかけられました。
「Yさんはこっちに座ってね」と、急に私は別のテーブルに座らされたのです。
私はそのテーブルのメンバーを見て、即座にスタッフさんに言いました。「え、私、無理です」と。
話を聞くに、スタッフさんが一人急に休んだため、その代わりに私にスタッフ役をして欲しいのだと。いやいや、私はあくまでメンバーであってスタッフさんではないのです。まして、そのテーブルに座っているメンバーはとても大変な障害を抱えている人で、3人が3人とも自分で注文ができない人だったのです。
そのテーブルに座っていたのは、3人のうち2人がしゃべれない人、もう1人は自閉症の人でした。私は急に、その3人の面倒を私は半ば押し付けられたのです。もちろん、私自身障がい者だし、他のメンバーさんに偏見を持つことはありません。しかし、とてもじゃないですが、スタッフさんの代わりをすることには納得できませんでした。
私はもう一度、違うスタッフさん(男性)に「私には無理です」と言ったのですが、「大丈夫だってば、気軽にやってください」と軽くいなされてしまいました。
私が仕方なく、トボトボと席に戻ると、まず、しゃべれないAさん(男性)がメニューを指さします。どうやらサラダを頼みたいらしいのですが、どのサラダを指してるのかわからないのです。続けて、同じくしゃべれないBさん(女性)も、何を言ってるのかわからないので、何を注文して欲しいのかわかりません。そして、さらに3DSを手放さない自閉症のCさん(男性)は、取り皿においてあげない限り、何も食べないのです。当然、Cさんが何を食べたいのか、全くわかりませんでした。
私は注文用のパッドを持って、混乱しながらも適当に頼むしかありません。その間も、二人は何かを頼んで欲しいみたいな感じなのですが、私には二人の意思がくみ取れません。だらだらと脂汗が流れ、私は叫びたくなりました。もちろん、自分が頼むものも考えられず、とても楽しみにしてたのに、全く楽しむどころではありませんでした。
そして、あっと言うまに時間は過ぎて、帰る時間になってしまい、結局、私は全く食べたかったものも何も食べられずに、そのイベントは終わりました。
その後、そのことを私は何人ものスタッフさんに愚痴りました。しかし、その中の一人のスタッフさん(女性)に、「年齢的にそういうこともできないとだめよ」と遠回しに言われてしまい、ショックを受けました。
「タダより高いものはない」とは本当のことだと思いました。