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#8 初恋

いじめによって記憶がなかった中学二年生に比べて

三年生の頃の記憶はすごく色鮮やかに残っている。

イジメや裏切りを経験して親友と呼べるような友達はいなかったけど

それなりに仲良く過ごせる友達ができて、クラスにも溶け込んで過ごせた。


中学も三年生にもなればみんなの話題は誰が誰を好き、だのキスはしたかしてないかだの

恋愛の話題が多くなって行った。

かくいう私もそれなりに男の子とは縁があった。


中学二年の春に1つ学年下の新入生の男の子が、

落し物をしたのを一緒に探してあげて見つけたことがあり、それ以来何故か懐かれて仲良くなり

廊下ですれ違えばからかわれたり、お互いの部活終わりに校門の前で話したりしていた。

私も背が低かった訳ではないが、後輩の男の子はぐんぐん身長が伸びて、あっという間に追い越され 

年下のくせに正反対の私の家まで送って帰ると言い出したりしていた。


他にも、将来は東大合格を目指すと豪語していた生徒会長と同じクラスになり

HRの時間にクラスで討論会のようなことをした時、私の発言が面白かったらしく

その日からやたらとクラスでも話しかけられたり、クラスの輪の中で私を話題に出して盛り上げてくれたり、帰り道を家まで送ると言って断っても勝手に着いて来たりした。

帰り道は決まって何かの議題や進路、将来の日本についてなど、お互いの意見で討論しながら帰っていた。

その度に生徒会長は「君は面白い」と、楽しそうだった。

テストで学年1位2位を争う生徒会長が、やたらと褒めてくれたので少し嬉しかった。

生徒会長はクラスの中でも声も大きく彼のおかげで私はクラスに馴染めたと言っても過言ではない。

今でも感謝している。


彼らとは特に付き合うような事には発展しなかった。

私は当時、同じクラスだった男の子のことが好きだった。

でもそれは最初から叶わない恋だった。

彼は同じ部活に入っている別のクラスの女の子のことか好きだった。

周囲にもバレバレ、女の子の方も満更ではなさそうに仲が良かったので、

周りからは公認の両思い、でもまだ付き合ってはいないカップルのような感じで、私は告白しようとも思わなかった。


修学旅行の班決めで一緒の班になり、その班にはクラスの中でもトップレベルの陽キャの男女と一緒になったこともあって

修学旅行も楽しい思い出になったし、余程気があったのか、修学旅行が終わってもよく同じ班のメンバーで

一緒に帰ったり、帰り道に寄り道してお菓子を食べたり恋バナする等、中学生らしい放課後を送った。

そんな仲のいいグループの中で、両思いのカップルが出来たり、くっつけようとして2人っきりにさせたりなんかしてる内に

私も好きな男の子と2人になることがちょくちょくあった。

好きな本を教えあって、お互い読んだ感想を話し合ったり

彼の高校生のお兄さんがバンドをやっているということもあり、色んなバンドを教えてもらった。

余談だけどこの時に知ったeastern youthは今も私の脳裏に焼き付いている。

かき鳴らされる轟音のギター

地響きのような音で血管と同調するドラム

つんざく様な、どこまでも真っ直ぐ伸びるような、全力で絞り出すようなボーカル


私が音楽に、バンドにハマったきっかけだった。


私とその男の子は帰り道に、イヤフォンを片方ずつにして音楽を聞いたりしていた。

家に着きそうになっても、立ち止まって話し込んで

どこかに寄り道して話し込んで

なかなか帰ろうとしなかった。


ある日、一緒に音楽を聞いていた時

ふと目が合った。

彼の目を、表情をまだ覚えている。

初めてキスをした。

微かに震えてた唇が熱かった。


でもそれからも何も変わらなかった。

キスはそれ1度きり。

告白や付き合うこともなく、何だか暗黙の了解で、今まで通りただの友達だった。



それに対して、特に何も思うことはなかった。

泣いて喚いて彼に「何でキスしたの?」なんて言うこともなかったし

付き合ってと迫ることや告白することもなかった。

そんなことしても彼は困るだけだろうと思っていた。


我慢することや、自分の気持ちを言わないこと

「大人しく良い子にすること」には慣れていたし

それが私の当たり前だった。

相手の気持ちを察して

自分の欲しいものは欲しいと言えない。

そもそも手に入るとも思っていない。

好きなことを好きと言えない。

わがままを言ってはいけない。

自分のエゴで他人に迷惑をかけてはいけない。

きっと一つ下の後輩の子も、生徒会長も私のことが好きだったんだと思う。

でも私は告白してもらう隙も与えなかったし

あくまで友達の境界線を越えないように、気を持たせることがないように徹底していた。


誰かに好意を持たれても、それをどう受け取ったらいいかわからない。

そもそも受け取っていいのかもわからない。

私は誰かに好意を持ってもらえるような存在だと思わなかった。


こうやって書き出して初めてわかる。

なんて不完全なんだろう。



私は今でもこうだ。

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