過去を留めおく秘密
あたしは人呼んで写真──
初老の塾講師が眺める度に、懐かしいなと、あれやこれや思い出す写真なのさ。
毎朝毎晩見るのは、机に置いた四つの額縁へ収まる三つの笑顔プラス1。
眺めながら、この人は思い出す。
ああ。
そんな時もあったなぁ──
☆☆☆
こんにちは!
フジミドリです♡
今日の私物語は写真が主人公……前回、映画の視点から半生を振り返れました。
全て決まっている
このままでよい
理解が深まったのです。そしてなぜか、意識は過去の出来事へ向かいます。
うーん
振り返ると罪悪感ばかり……いえいえ。そんな悪者ではないです私……でも、些細なことが心残りというか。
あんな風に言ったり……こんなことをやらかしたり……老人力がついたと申しますか。
この物語を書くことで、過去の出来事すべてに対して「これでよし」と手放せたら。
では早速──
☆☆☆
初老の塾講師は、いつものように着替えが済んで、小さな額縁へ収まるあたしを見る。
そこであたしは呼び起こす
この人が記憶する幾つかの場面を
場面は意識の空間に顕われて、次々と入れ替わり、そして消えていく。
『写真て、過去を創るな』
☆☆☆
(面白いこと言うねぇ!)
思わず声が大きくなった。
『おやまぁ。そうかい』
(……あたしの声が聞こえる?)
『そうみたいだよ』
(へえ~へぇ~そうなんだ)
『あれ、オレって変かな』
(い、いや。おかしくないさ)
こんな風に、あたしらのお喋りは始まった。
☆☆☆
マジ楽しいねぇ。
だってさぁ、あたしの声が聞こえるなんて、ホントいなかったもん。
いつだって話し掛けてきたんだよ。だけど、届かない。寂しかったな。
諦めかけてたよ。
☆☆☆
『そうでもないって』
(は。何がよ)
『聞こえているんだ』
(え~そうかなぁ)
『ただ、写真の声なんて』
(あたしが喋ると変かい?)
『現代人の既成概念さ』
(なんだそりゃ)
『科学って名前の信仰だよ』
☆☆☆
あたしが過去を創る……ふーん。そうなんだ。過去をねぇ。
言われてみれば、そうかもしんない。
この世で起こることって、なんでもかんでも次々と消えていっちまうものさ。
放といたら、うっすらぼんやり
本当にあったのか──
けど、あたしになれば、それはもうクッキリと鮮明。いつまでだって残ってる。
☆☆☆
『動画は流れていく』
(そりゃそうさ)
『映像に引き摺られる』
(ま、まあそうだね)
『でも、写真は止まってる』
(当り前じゃないか)
『世界が止まる。奇跡だよ』
(そ、そうかなぁ)
『現実のフリする非現実』
「な、なんだって?」
『イヌに成り切るネコだな』
「……うーん……」
☆☆☆
この人、時々よくわからない。
ぶっ飛んでるかもね。
だけど、こうしてお喋りができるんだから、それでいいのさ。もう満足だよ。
あたしは、いくつも幾つも浮かんで消える、笑顔や景色を形に留めるだけ。
カシャッ
小気味良い音が響けば、あたしは生まれる。世界が動きを止め、時間は消えるんだ。
☆☆☆
『そういうことか!』
(やだね。大声出して)
『写真ってポジとネガだ』
(フィルムのことだね)
『ネガは複素数平面』
(は。スープ冷麺?)
『形になる前の可能的未来』
(何それ、美味しいの?)
『オレは自由自在だ!』
(ちょいと、大丈夫かい)
『やっとわかった』
(聞いちゃいないよ)
☆☆☆
あはは。マジ楽しいね。
この人が話すの、時々ヘンだけど、いいよ。お喋りできるってことが大切さ。
なぜ、写真が存在できるのか?
そんな秘密も教えてくれた……
現実の世界は、動画のように滑らかな流れじゃないってことらしい。
一瞬一瞬に、あたしがいる。
少しずつ違うあたしは、光の速さで差し変わっていくから、動くように見えるんだって。
☆☆☆
『映画と同じ。1コマごとが違う』
(パラパラマンガってやつだね)
『へぇ。そんなの知ってんの』
(あんたが言ったんじゃないか!)
『スビバセン。忘れっぽくって』
(あはは~老人力ってやつだ)
『わお。それもオレが言ったのか』
(そうさ。あんたのセリフだよ)
『現実のフリする非現実』
「ス、スープ冷麵だね」
『過去よ止まれ、君は美しい』
「は。なんだそりゃ」
☆☆☆
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なぜ写真が撮れるのか。流れる現実を一瞬に留める不思議──西遊記で創作談話致します。是非、いらして下さい😊