天国に響く思いの音
うちは音やねん。
今は低く響いとる。
夜中やき騒音扱いな。
せやから、ベランダに面した部屋で、初老の塾講師はんが寝つかれんでおった。
うちは正体不明や
何の音かわかれへん
車が走る音でも工事の音でもない……この人、耳を澄ませわかりおった。うちは、隣の部屋でエアコンの室外機から出とるんや。
深夜は周囲も静寂でな。音の大きさやない。小さい音も響くんや。地味に堪えるわ。
おお~こまっとる困っとる──
☆☆☆
こんにちは!
フジミドリです♡
今日の私物語は音を主人公に据えました。
音といっても、心地よい楽曲から苛立ちを誘う騒音まで、様々でございます。
この世は、音が溢れ返っているのです。
好みの楽曲に癒され、喧しい音で悩まされて参りました。ここらで振り返ります。
では、早速──
☆☆☆
すまんな……
塾講師はん、苛立って頭に布団かぶったり、耳栓詰め込んだり、悪戦苦闘やった。
せやけど、効果あれへん。
そらそうや。うちはスルッと潜り込むきに。耳は無防備やからなぁ……
☆☆☆
『やれやれ、こういう不快な音に悩み続ける人生だったよ。まったく。思い出すぜ』
(そうやねえ。バイクの吐く爆音やら、団地の廊下を走る中学生の足音やら。スーパーの室外機は唸って……他にもいろいろや)
『たーしかに確かに。やり切れねえ』
(うちとしても気の毒や思うんよ)
『ま~音には罪がないからさ』
(あれま。うちの声、聞こえるん)
☆☆☆
はあ。面白いもんやな。
騒音に悩まされる人やもん。きっと繊細なんや。ほいで、うちの声も聞こえるんか。
うんうん、そうや。
騒音や言うて、誰もが悩むとは限らへん。
☆☆☆
『え。スキなやつとかいる?』
(そらおるで。考えてもみいな)
『あ……たーしかに確かに』
(キラいやったらバイク乗れへん)
『だよね~ああ。生徒でクルマ好きな高校生がいて、爆音を聞いたら、うっとりするとか言ってたもん。ありえねえ』
(なんでかいうたらな、補っとるんよ。体の芯から発する音の響きが足らんの)
『どういうこと?』
(振動数が低いねん)
『……補ってるのか』
(あんたはん、高いから)
☆☆☆
この宇宙は生命の波動が響いとる。仙骨いうアンテナで受信するから生きとるんや。
せやけど、仙骨の変位で波動が足らんことなれば、補うしかあれへんね。
子供が走り回る。若者は音楽やら爆音やら。大人もハラハラドキドキが必要んなる。
周波数が足らんねん。
☆☆☆
『騒音のない世界に行きたいよ』
(ほな、耳が遠なってまうで)
『それは困る……まぁいずれはね』
(肉体捨てたら、音あれへんよ)
『だよな~耳がないんだからさ』
(離れる時、最後まで残る感覚や)
『どんな言葉で看取れるかだね』
(死んだん、わからん人多いんや)
『その点は自分を褒めてやりたい』
(心配いらんで。安心して逝ってええよ)
『ゲッ。マジ……なんで知ってんの』
(そらもう有名や。こっちでな)
☆☆☆
人間さまの評判では名が通っとる言うても、霊的次元なら無名やったりするもんや。
逆もある。
誰にも知られんような小さな囁きが、宇宙の隅々まで響き渡っておったり──
夏の朝、塾講師はんが伴侶を看取った時の言葉も、音はうっとり震えたもんや。
☆☆☆
─何にも心配いらないよ
安心して逝っていいからね─
☆☆☆
『ありがとう。報われたよ』
(どういたしましてや)
『現実界は無名でいいか』
(耳に届かん音がおるから)
『なるほど。聞こえない音か。うーん……そうだよ。犬笛とかあるもんね』
(耳へ届かん心の叫びも、うちが響かせとるんやから、霊魂には伝わっとるで)
『ウへェ。死後の世界は、思いの騒音が溢れ返っているのかよ。マジくそ怖えな』
(心配いらんで。あんたはんなら大丈夫や。周波数できっちり分かれとるからな)
☆☆☆
現実界は不思議──
周波数が高うても低うても、同じ場所におるんやから。混合やで。
低く粗い波動が罷り通って、高く精妙な波動は追いやられてまう。不思議やなぁ。
霊界みたいに棲み分けしとったらええねん。お互い心地よ~く自由自在なんやけど。
☆☆☆
『死後の世界は周波数で分かれる?』
(低い方から高い方へは行けへんで)
『高い方からだったらオッケー?』
(まぁ、行きたがらんけどな)
『うーん。そんなら、今から周波数を上げるしかねえよ。どうしたらいいんだろ』
(そんなん簡単や。中真の仙骨を意識すればええねん。他は何もいらんよ。小さい声やけどな、いっつも囁いとるで)
☆☆☆
そうや
うちはいつでも
囁いとる
☆☆☆
お読み頂き、ありがとうございます!
シーズン3残り4回となりました♡
次回の私物語は5月21日午後3時、西遊記の創作談話が18日木曜お昼です。
是非、いらして下さい♡