他界は旅の始まりです
私は棺です。
お時間となりました。
生と死の橋渡しにございます。どなたさまも必ず、お迎えになる人生の終着駅です。
私はまた、本来のご自身である霊魂が、永遠の旅へ向かう始発駅でもございます。
今、初老の塾講師さまは、白き私に包まれる母として89年の生涯を全うされた亡骸へ、お別れなさっていらっしゃり
私の周囲、喪服姿の親族方も集われて、それぞれ別れを告げておいでになられ
思い出が漂い
時は歩みを止め──
☆☆☆
こんにちは!
フジミドリです♡
いよいよ私物語の最終話となりました。
3月19日スタート致しましたシーズン3、予告通り13回の完結です。
お読み下さった皆様
ありがとうございました<(_ _)>
コメントやDMでご感想も頂きまして、書き続ける力となっております。
さて、最後は棺が主人公です。
昨年11月、母の旅立ちを見送りました私ですが、心に訪れる思いは、悲しみでも切なさでもございません。
肉体の軛から解放された母
霊魂として、永遠不滅の道を歩み始める母へ向けた、穏やかな祝福だけなのです──
☆☆☆
『母さん、お疲れさま。大変だったね。けど生き抜いた。立派だった。オレは誇らしい。本当にありがとう』
初老の塾講師さまが目を閉じ、両手は額の前で合わせ、囁いていらっしゃる。
『可愛がってもらったね。心配かけちまったよ。でも楽しかったな……あなたの息子に生まれて、オレは幸せでした』
込み上げる涙を堪えていらっしゃる。はて、なぜでしょう。思い切り、お泣きになったらよろしいものを……
『大丈夫。残りの人生、しっかり生きていくよ。だから母さん、心配しないで』
なるほど。わかっていらっしゃる。悲しみで引き止めてはいけませんもの。
『母さん、もう自由だよ。安心してね。またいつかどこかでお逢いしましょう』
☆☆☆
死を恐れてよいのです。
厭うことで、生の営みが貴重に感じ取れる仕組みでございますれば。
とはいえ──
死ぬことは怖れるまでもございません。
死と死ぬの違い、ここが最も重要なご理解、見極めどころと申せましょう。
死を怖れてよし
されど
死ぬは怖るに足らず
☆☆☆
『え。なんだ、そりゃ』
(おや。私の声が……)
『聞こえるよ』
(ならば、おわかりでは)
『死と死ぬの違いねぇ……名詞と動詞?』
(ふふ。それも一理ございますわ)
『死を恐れていいけど、死ぬのは』
(ええ。怖るに足らずでございます)
『わっかんねぇ……おっといかん。声に出ちまった。周りがビビっちまうぜ』
(ご心配には及びませんわ。皆さまそれぞれに、お別れを惜しんでいらっしゃる)
☆☆☆
死とは形──
この世に生まれ、確かに存在した証拠です。死をもってすべてが終わる。
そして、次なる旅立ちへ向かわれますわ。
生から死への境界をすり抜ける行為こそが、死ぬという所作なのです。
死をもってこの世は終わり、死ぬことで次の世界へ向かう。
現代は、真の仕組みをお忘れの方が、なんと多くあるのでございましょう。
☆☆☆
『ああ、そうか。なんとなくわかる。言葉にしたら混乱しそうだけどね』
(この星は、生まれたばかりの霊魂へ伝える言霊が、失われておりますわ)
『耳の痛ぇ話だよ。教育業界にいる身としてはね。教師が知らねぇんだからさ』
(最期は、私に包まれて終わるのです。これ以上の広さなど不要と申せましょう)
『たーしかに確かに。競って戦って奪い合ってさ、何やってんだろね、地球人は』
☆☆☆
死がいつ訪れるのか。
生まれる前に決めた運命でございます。
そうでありながら、否そうであるからこそ、よりよく生きるため封じた記憶──
今この時にも、死は訪れ得るという生の煌めきを、味わい尽くせましょう。
☆☆☆
『死ぬ為に生きるってことか』
(ええ。もちろんでございますわ)
『生きる為に生きる奴が多いぜ』
(霧の中、霧を掴もうとなさる愚、かと)
『もっと早く知りたかったねぇ』
(遅すぎるなどございません)
『今から死ぬ為に生きるよ』
(手放す為に生きられましょう)
『けどやっぱ、死ぬって言葉がなぁ』
(他界とお呼びになっては)
『ああ、いいなそれ、他界か……』
(お会いできます日を楽しみに)
☆☆☆
一度得たご理解は、失われません。
いつでもお望みのまま、自由自在に引き出せるのでございます。
理解を形に変えて
意識が先で現象は後
望むがままに映し出す
過去世の生まれ変わりで、霊魂さまが蓄えたご理解を携えつつ、永遠の旅はいよいよ始まるのです。
さあ、何処へ向かわれますか──
☆☆☆
お読み頂き、ありがとうございます!
シーズン3完結です♡
今週の木曜お昼に西遊記で創作談話。次回の私物語が9月17日午後3時の予定です。
是非、再会致しましょう♡