決まってるから粘れる
私は運命よ。
生まれてから死ぬまでの全てが決まってる。変えられない。だから、このままでよい。
初老の塾講師は、私をそう理解したの。途端に、心の底で仄めく不安がスッと消えたわ。
『思い込みだったな』
決まってない。変えられる。努力しろ。頑張れ。努力が足りないからできないんだ──
☆☆☆
こんにちは!
フジミドリです♡
私物語シーズン2
今シーズンの試みは、丸山健二さんが書かれた【千日の瑠璃】をオマージュした、無生物主語による一人称多視点です。
さて・・
運命は変えられるのでしょうか。
それとも決まっていて変えられない?
今日の私物語
運命に成り切ってみます──
☆☆☆
人生は決まってる。
変えられない。
そう聞いて、絶望する人が多いの。
『なんでだろうな』
初老の塾講師にとって謎だわ。
やあね。今となっては、昔っから運命論者だったみたいに思い込んでる。脳が記憶を書き換えちゃうの。改竄ってやつよ。
彼が普段、話す相手は生徒たち。中学入試を控えた小学生から、大学受験の浪人生まで。
♡♡♡
『オギャーと息を吐いて生まれ、最期は吸って亡くなる。それが私たちの運命さ』
「決まってるんですか」
『キミは決まってない派?』
「うーん。よくわかりません」
『もしもの想像、したらいいよ』
「決まってるとしたら──合格するかどうか悩むだけムダですね。なるようになる。それなら、楽しく学んだ方がいいですよ」
『動画みたいなものさ。ラストまで決まってるから安心して楽しめる。映像は流しつつ、他のことを考えたっていいよ』
「スナックぼりぼりとか?」
『あはは~いいねいいね』
「気楽に生きられそうです」
☆☆☆
そう。そうなのよ。
動画と同じ。創造までが肝要。仕上がれば、後はただ観てるだけ。ラクちんね。
もしも決まってなかったら──
おお~大変よ。冗談じゃねえですわ。次の瞬間、誰が何するか予測できない。この星だけで80憶の私があわあわしちゃう。
考えただけでゾッとする。
☆☆☆
─人生は決まってない
いくらでも変えられる─
よく言うわ。本気で信じているなら、私の代わりをやってほしい。80憶の人生だけじゃないのよ。宇宙のすべて。
動植物やウイルスの振る舞いもわからない。刻一刻と変わってしまう。まさに混乱。
何か一つ変われば、すべてが影響を受ける。
予想は覆る、ていうかそもそも予想がムダ。予想はよそうなんて洒落にもならないわ。
☆☆☆
信頼が裏切られ、ていうか信頼という言葉そのものは、もう存在できない。だって、いつどんな風に心変わりするかわからないもの。
決まってないってそういうこと。
きっとこうしてくれるだろう。あんな風に言うのがおかしい。なーんて常識はぶっ飛んでしまうのよ。決まってないんだから。
☆☆☆
『寝てる間に、呼吸が止まるかもしれない。何の理由もなくね。決まってないんだもの。血液は黄色になって心臓も躍り出すのさ』
「わお。マジくそヤバいな。あ。地球が止まって逆回転したり。天体の運行って決まってるんですよね。考えたこともなかったな」
『運命は決まってないって言う人が、飛行機の欠航や電車の遅れでイラっとするんだぜ。未来予測も経営計画も全て無意味だよ』
「決まってないなら、怖くて外へ出なくなりそうです。空から突然、鉢植えが飛んできたり、車は歩道に突っ込んで来たり」
☆☆☆
あら。イイ線きてる。こういう会話スキよ。もう一歩ね。うん。いいかも。
心地よい──
そう。そうなの。鉢植えは飛んで、車が歩道に乗り上げるのも決まってる。回避できるかどうかも決まってるわ。
ぜーんぶ、運命の采配よ。
☆☆☆
けっこう堪えるの。私に逆らったり、私を恨んだり、私が悪いみたいな言い方って。
自分で決めたって真理を、理解できないんだもの。あいつが悪い。こいつはダメだ。ついてない。なんでオレだけ。あたしばっか。
決まってる、ていうか決めてきたって思い出せたら、もう理解するだけ。これがいいな。あれはいらない。理解で次を創るの。
自由自在に──
☆☆☆
決まってる通りに進めていくって、なかなか大変なことよ。何一つ誰一人として見過ごせないわ。きちんと纏めなくちゃだもん。
秩序と調和。絶対の法則。完璧な運行。
偶然みたいに見えたり、確率で支配されると思えても、何もかも全てが決まってる。
変えられない。
そのままでよい。
☆☆☆
「でもやっぱり、不安になるんですよ。モヤモヤする。先生と話してる時は元気なんですけど、一人になれば──」
『大丈夫だよ。自分に話しかけるのさ。ハラを意識して。細胞は間違えない。完全完璧に機能する。そんな自分が答えを出すよ』
「ああ確かに。少しずつですけど、直感というのかな。働くようになってきました。ハラを意識すると感じられます」
『息を吐いて、宇宙いっぱいに広がるのさ。意識は自由自在。自分が宇宙そのもの。今度は吸いつつ、ハラの一点へ絞り込む』
「なんでもやれそうです」
『スキにやったらいいぜ』
「決まってるんですよね」
『そう。だから粘るのさ』
☆☆☆
うふふ。そう。粘るの。
諦めが悪いのとは違うわ。
もしも決まってないとしたら。ちょっとした一言や何気ない仕草でも、あらゆる私に影響する。そう考えて責任感じちゃう。
だけど、決まってるなら──
責任なんて感じなくていいの。だって、生まれただけでもう、全うしてるのだから。
そのままでいいわ。
☆☆☆
何かを成し遂げても、何もできなくたって、笑おうと泣こうと大丈夫よ。
ただ中真を意識して。
どんなツラい時も、どんな苦しい状態でも、粘り強く永遠の生命と繋がるの。
あなたが
生命である限り
私はあなたに
微笑むわ
☆☆☆
お読み頂きありがとうございます!
西遊記で創作談話♡
ではまた💚
ありがとうございます🎊