不思議なアパート
子どもの頃には気づかなかったことを、後から思い返して、あれは一体なんだったんだろうと、ゾクっとすることがある。
友だちのH君の家は新しい一戸建てだった。
それほど大きくはなかったが、1970年頃の最新の設備と作りで、とても快適だった。家の中でボードゲームなどをすることもあれば、外で遊ぶこともあった。
家の中で遊んでいる時にはいつも外から工事の音が聞こえていた。職人さんたちが行ったり来たりしながら何かの修理をしているような音だった。
それはH君の家の隣りにある、新しいアパートからだった。
そのアパートは当時としてはモダンな造りで、気味が悪いなんてことはなかった。この時、築三年といったところだったと思う。
いったい何の修理をしていたのだろう。
H君の家には何度も遊びに行っていたが、いつも工事の音が聞こえていた。たぶん少なくとも一年以上、そんな感じだった。工事中だったので住んでいる人を見かけたことはなかった。
新しいアパートなのに、そんなに時間をかけて、いったい何の修理をしていたのだろう。
後から思い返してみれば、もう一つ腑に落ちないことがあった。
H君の家は角地だったが、その区画には他に新しい七、八軒の一戸建てがあって、アパートはそれらに囲まれて建っていた。つまり外から人が出入りできない造りなのだ。
古い家が新しく建った家々に囲まれて出入りできなくなったのならまだ分かるが、アパート自体が周りの家と同じくらい新しいのに、これは不自然だ。
何年か後にそのことに気がついて、H君の家の付近を歩き回って調べてみた。その時には工事はしていなかったと思うが、やはりアパートへ出入りする道は見つからなかった。
周りの家に住んでいる誰かが所有していたのかも知れないが、人の気配のまったくない新しいアパート。
建ててから何か問題が起きたのか、建てている途中に何か起きたのか。
そう考えていると、また嫌なことを思いついてしまった。
あの工事の音と職人さんたちの気配は、自分だけが感じていたのだろうか。本当は誰も工事などしていなかったのではないか。
今ではH君の家をはじめ、その区画の家はすべて建て替わっていて、あのアパートは跡形もない。