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そこに置いてある首
少し気味の悪い話ですが大したことはないので不思議な経験として書き遺しておきます。
小学校の低学年だった頃のことです。
家から学校に行く道の途中に四棟くらいの古い団地があった。
そこは高さ2メートル弱くらいのコンクリートブロックで囲まれていて、一階部分でも通行人から見えないようになっていた。
そのコンクリートブロックの上にである。
首が載っていたのだ。
もちろん本物の人間の首ではない。ビニール製のキャラクター人形から首だけ外して置いたような感じである。笑っているような表情ではあったが、人間の首と全く同じくらいの大きさだったため、笑顔がかえって気味悪かった。
首が置いてあるコンクリートブロックと狭い道をはさんだ反対側には昔ながらの市場があって、学校の友だちと駄菓子屋さんやらおもちゃ屋さんやらをよく覗きに行っていた。
従って自分だけではなく友だちもみんなその首を目撃していたはずなのだが、不思議なことに全く話題に上ることはなかった。友だちの中にはかなり活発な子というか悪ガキに近い者もいたから、背は届かなくても石を投げつけて、首をブロックの向こうに落とすようなゲームをやってもおかしくはなかった。
母に首の話をしたこともあったが、要領を得ない返事が返ってきただけだったと記憶している。首は少なくとも一年はその場所に置いてあったと思うし、母はその団地の向かいの市場に買い物に行くことがあったから、確実に首を見ているはずだった。
最近であれば近所からクレームが出て、首は外から見えない場所に移動されているだろう。そう考えていると嫌なことを思いついてしまった。
あの首は自分にしか見えていなかったのではないか。
今ではその場所にはオシャレなマンションが建っていて、コンクリートブロックがあった部分は綺麗ないけ垣になっている。