希望は私たちがつくるもの
2023年1月31日、兵庫県明石市長を務める泉房穂さんの著書『社会の変え方』が出版されました。
今回、構成を担当させてもらいましたが、私個人の視点から、この本が生まれた背景を語りたいと思います。
日本に数ある市区町村のなかで、こんなに目立っている市長はなかなかいらっしゃらないでしょう。おそらく多くの方は「あー、あのTwitterの」「子ども施策の」とか、あるいは「なんか暴言とかパワハラとかやばそう」みたいなイメージを持っていると思います(ですよね……)。
私自身はというと、泉さんがTwitterをはじめた頃から「なんてTwitter民に支持されそうな絶妙なツイートを繰り出すんだ! セルフプロデュース力すごい」「暴言はあったけど、全文読んだら真っ当なことを言ってるし、思い余って口が滑ったのかな……」なんて思っていました。
そんなとき、お世話になっているライツ社の大塚さんから「泉房穂さんの本をつくることになりました」と連絡が来ました。ライツ社はまさにその明石市を拠点にする出版社。「泉さんの本を出すなら、もうここしかないやん!」と、スケジュールはかなりタイトだったのですが、一つ返事でお受けすることにしました。
泉さんとは最初に直接ご挨拶させてもらい、その後はオンラインで取材を重ね、これまでの歩みと明石市での実績、そしてこれからの政治について、たっぷり語っていただきました。
取材を通じて受けた印象は……「こんなに社会の理不尽さに、心の底から憤っている人を見たことがなかった」というもの。幼い頃に直面した、障害のある弟に対する社会の仕打ち。苦労したご両親の話……50数年前のできごとを、まるで昨日のことにありありと、涙を流しながら語ってくれる。
ましてや今、市長として社会的地位があっても、自分以外の人が直面する社会の理不尽さを、我がことのように受けとめ、本気で変えようとしている。その真剣さが、ときに「仕事なんて、社会なんて、こんなもんやろ」と思っている人に対して、つい強い言葉となって出てしまうんだろうな、と感じました(それと、泉さんが生まれ育ったのがいわゆる漁師町で、他の地域よりもかなり強い播州弁なのもたぶん影響している)(いや、それでも暴言はアカンのですけどね……)。
少なくとも私がお話させてもらっているあいだ、本当に真摯に、答えにくいことにも誠実に答えていただき、とても充実した時間を過ごさせてもらいました(すごくユーモアのある方なので楽しかった)。
それからはその熱量と思いを、泉さんの口調や気迫も伝わるように書いて書いて書いて、なんと約18万字(過去最高記録)。そこからは泉さんとライツ社大塚さんのラリーの応酬で、よりわかりやすく、よりソリッドに伝えるべきことが伝わるよう、第6稿まで加筆修正を重ねて、ギリギリまで粘って原稿が完成しました。
そうやってできあがったゲラを読んだときの私の感想はこちら。
それでもふと、考えます。「社会を変える」という言葉に、どれだけの人が心を動かされるのだろう、と。きっと社会には、別になんの不満もなく、今の暮らしに満足していて、社会を変える必要性を感じていない人もいる。そういう人が少なくとも人口の1、2割程度いれば、政治はいつも同じような顔ぶれが当選するし、なにも滞りなく、世の中は回っていく。
でもコロナ禍を経て、多くの人が実感したのは、市区町村レベルでは想像以上に、自治体によってその施策や方針に大きく差が出る、ということだったと思います。そして想像以上に、「政治」と「暮らし」は地続きなんだな、と。
『拝啓人事部長殿』でも「何も変えられないという無力感」とあったけど、やっぱり国レベルで社会を変えていこうと思えば思うほど、何も変わらない、変えられないという無力感に襲われて、いつになったら選択的夫婦別姓や同性婚が実現するんだろう。別に、今困っていない人は何も変わらないのに……と思ってしまうのも確かで。
でも、その無力感を多くの人が抱えることが、誰を、何を利することになるのか、ということは常に考えていたい。
ちょうどこないだ、私の暮らす杉並区でも(もうすぐ引っ越すけど)、市民団体の擁立した新人候補が区長選に立候補し、まさかの当選を果たすということが起こりました。
とかく政治がタブー視されがちな日本で、政治について考えて、政治について語るということは、私たちのもとに、主体性を取り戻すことでもあると思います。
いつまで経っても「ニューリーダー」や「スーパースター」は現れないし、社会は変わらない。それなら、まずは自分の暮らすまちに目を向けてみるところから、私たちの希望は生まれるんじゃないかなと感じています。
読んでくださってありがとうございます。何か心に留まれば幸いです。