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Stretch Yourself a Little Bit

ウェディングフローリストとしての新しい仕事が始まった。
カジノホテルを彩る花を作る仕事について1年経ったと思ったら、会社の都合で毎週末ウェディングの花を作るフラワーデザインスタジオに身を置くことになったのだ。

初めての出勤日。ドキドキしながらフロントドアを開けると、大小様々なフラワーアレンジが所狭しと並び、デザイナー達が目まぐるしく働いている。今週末は6件のウェディングがあるらしく、自己紹介とトイレの在処、花をしまう冷蔵庫の場所だけ教えられ、「これ作っといて!」といきなり10この花瓶を手渡された。圧倒される暇もないまま、手を動かして8時間。昼は立ったままタイヌードルを啜り(オーナーはタイ系アメリカ人で、彼女の70代のお母さんがタイ料理を作って持ってきてくれた。美味い。)、チップスをつまみながら無事にタスクを完了し、家路についた。怒涛の1日だった。

帰り道、車の助手席に沈み込むようにして座りながら、ネバダ特有のピンクの夕焼けをぼーっと眺める。今度はウェディングフローリストか。どこをどう歩いたらここまで辿り着くのか、よくわからん人生だな、と思う。東京でライターをして、NPO法人に転職して、主婦になって、営業事務のパートをして、次にラスベガスでフラワーデザイナー。中高生へ向けたキャリア講習をするとしたら、一貫性のない悪例として紹介したいところである。

ただ、私には心の拠り所にしている言葉があって、それはどんな場所であっても自分の背筋を直してくれるような力を持っている。"Stretch Yourself a Little Bit"(少しだけ背伸びをしてごらん)ー英米文学の教授であり、カトリックのシスターでもある恩師T先生が、退官前の最後の授業で黒板に大きく書いた一文だ。

背伸びのしすぎは前につんのめってこけるだけ。でも、背伸びしなければいつまでたっても変化は訪れないし、見える景色も変わらない。だからこそ、毎日、「これくらいならできるかも」くらいちょっと背伸びをし続ける。はじめは少し辛かった背伸びも、足に筋肉がつき、体のバランスが取れるにしたがって、いつの間にか当たり前のポジションになる。そうしたらまた、少し背伸びをしたらいい…そうやって、あなた自身を鍛えていきなさい。そういうお話を、先生にとって最後の生徒となる私たちに投げかけてくださった。先生ご自身も、数十年前、日本人が一人もいないアメリカの田舎町で留学された時に、恩師からこの言葉をもらった…そんなお話をされていた。

とかく、他者との比較がまとわりつくような時代だ。SNSを開けば、同世代でキラキラと暮らしている(ように見える)人が山ほどいて、「彼らに比べて…」と自分を卑下するような気持ちにならないこともない。でも結局のところ、T教授の言葉通り、望ましい変化というのは自分の足元からしか訪れないのである。そしてそれは日々の連続性の中にあるものだからこそ、毎日を大切にしないといけない。毎日を生きる、自分を大切にしないといけないのだと思う。

相対的に見れば、脈略のないキャリアを持っている私だ。ラスベガスのはずれで、セコセコ花を作っている。失敗の多さ以外で誇れることなど、さらさらない。それでも今日0.001mmでも背伸びができていたら、私は私でよし、と信じたい。というわけで、明日も頑張って今日よりは少し形のいいウェディングブーケを作ろうと思っています。うふふ。

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