こころはいつも、ちょっと離れている
夫が朝からずっと起きてこない。そんな日曜日だった。
最悪なことに私の生理が2日目。腹痛がひどく、心も体もクラクラクタクタ。
ベッドルームは1週間、畳もうと思い続けて積み上がった洗濯物の山。
洗いたいと思いながら溜め込んだ使用済みの食器が重なるシンクのことを思うとキッチンに行く足が重くなる。
窓の外からは散歩をしている人たちの笑い声。こんな秋晴れの清々しい日なんだから、娘を朝から公園にでも連れていってあげたいと思うのに。体は重くて思うように動かない。
平日のルーティン通り早く起きた娘にパウパトロールを見ながらバナナを食べて待っていてもらう。「親なんだからもっとしっかりしなさい!」と頭の中にいる私が自分を叩く。毛布じゃなくて、罪悪感を被っているようだ。
こういう時、頼れるのは夫だけなのに、夫は夜中ずっとスマホを見ていたようで、起きてくれと声をかけても起きてこない。もし夜更かしの理由が仕事だったら「疲れているから」と思いやりが生まれていたかもしれない。でもそうではなくて、Youtubeや、Smartnewsや、戦闘系のスマホゲームをしていての夜更かしと朝寝坊だ。体調不良もあって、私はどうにも彼の自分勝手さが許せなかった。
イライラして、「早く起きなさいよ」と強めに腕を叩く。
それでも起きないから「もう知らない!」とドアを閉めた。
そこに4歳になる娘が近づいてきて
「ママ、みんなね、心はちょっとだけ離れているから、パパを許してあげてね」
と一言。
なんてこった。4歳児の方が親の愚かさをよく見ているじゃないか。恥ずかしすぎて毛布にくるまってしまいたい衝動に襲われる。
その通りだ。家族だから、恋人だから、血が繋がっているから、心は一つ、なわけがないのだ。心はちょっと離れている。心がどんなに近くにあると感じる人とだって、少し、ほんの少し離れているのだ、私たちの心は。
想いがどうにも近づいて「心がちょっと触れたかな」と思う経験が少しはあるかもしれない。(少なくとも、私は夫とそう感じた日々があったから結婚したわけなのだ)でも、それは永久ではない。心は近くにあるけれど、同体ではない。分かり合えない。それが初期設定だ。
だからこそ、相手をわかろうと努力しないといけないし、相手を許さないとやっていけない。いつだって、心はちょっと離れてるのだから。そんな風に思って娘が言ったのかはわからない。でも、彼女の一言で私はハッと目が覚めた。
夫だって、明日は日曜日だからと思って羽目を外してスマホゲームをしてたのかもしれない。面白い動画に出会ったのかもしれない。そんなことわからないじゃないか。そもそも彼は寝ているから、私の体調不良を知らない。起きるまでちょっと待って見よう。そして私が家事や育児を助けてほしいこともちゃんと伝えよう。今日はいい天気だけれど、家族でゆっくり映画を見る日だっていいじゃないか。それでちょっと調子が良くなってきたら、夕方に公園にでもいこうか…そんな気分になってきた。
私は「そうだね、その通りだね」と娘のほっぺを手で包む。「ごめんね、ママがちょっとおこちゃまだったね」
「ママ、ドラえもんでも見てパパ待っていようよ」
最近好物のチョコレートミルクをあげすぎたかな、ちょっとプクプクしたほっぺたが満足そうに少し膨らむ。この子はいつだって、私の天使だ。