ねえ、聞いてる?って聞きながら話すのやめようと誓った8月の夜。

「聞いてるってことは聞いてないんだね」といきなり娘が言った。

「は?」

「だからね、ママ、聞いてるって聞くのは聞いてないんだよ」

3歳が寝る前の絵本タイムにいきなり言うものだから、面食らってしまった。頓知だろうか。まあ、眠すぎて寝言でも言いはじめたのかと思い、絵本『王さまと九人のきょうだい』の読み聞かせを再開した。20秒ぐらいして、はたと気づく。

「ねえ、もしかして ”聞いてる?” って聞かれた人は話を”聞いてない”ってことをママに言いたかったの?」

娘が「よくわかったじゃん」的な笑顔で私を見る。ほほう、なんとまあ。3歳にして、人間の性を見抜いているのだろうか。とすれば、大したものだ。

確かに、話し手が「ねえ、聞いてるの?私の話」と相手に尋ねる場合、百発百中、相手はその話を聞いていないのである。なのに、とっさに「聞いてる、聞いてる」と身を乗り出して答えてしまう、あの反射である。「全くもって真剣に聞いてないのに、ちゃんと聞いてる」と発言してしまうシチュエーションを、なぜ弱冠3歳の娘が見つけ出したのか。その答えは、私が、ただ私が読みたいだけの『王さまと九人のきょうだい』を朗読しはじめたことにあった。

『王さまと九人のきょうだい』というのは、『スーホの白い馬』で有名な赤羽末吉さんが絵を描いた岩波書店のベストセラー絵本で、私の小さな頃からのお気に入りなのである。中国の昔話をベースにしたお話で、不思議な力を持つ9つ子の兄弟が、それぞれの力を使って悪い王様をやっつける痛快物語なのだが、いかんせん、幼児には話が長い。なので、娘に読み聞かせる時、私は何度も「ねえ、聞いてる?」と催促してしまっていたのである。しかし、目下「アナと雪の女王」にはまっている我が娘。悲しいことに、9人の兄弟がどれほど異様なパワーを発揮しようが、王様が水に流されて村が平和になろうが、全く興味を持ってくれなかった。

そこで、娘のあの発言である。

要するに、彼女は「私はお話を聞いていませんよ」ってことを遠回しに宣言していたのだ。いつの間に、そんな高度な言語能力を身につけたのだろう。ついこの前まで、バブバブ言っていたはずなのに。人間の成長に驚きつつ、31歳の私よりも、3歳の娘の方が何枚も上手であることにガックリきてしまった。

今日の教訓:「ねえ聞いてる?」と尋ねたくなる時点で、相手はその話に興味がないので、さっさと話の内容を変えるか、話し相手を変えましょう。

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