ベッドが濡れている【掌編小説】
朝起きるとベッドが濡れている。
私の体の形に沿って、ぐっしょりと。
一週間ほど前からこうなった。
パジャマは乾いている。
つまりこれは汗や寝小便ではない。
じゃあ、何だ。
私はベッドから起き上がる。
洗面所で顔を洗い、寝室に戻る。
その間にベッドはもう乾いている。触ってもサラリとしている。
痕跡は、何もない。
気味が悪いが、別段、生活に支障があるわけではない。
もう出勤の準備をしないといけない。
ワイシャツを身につけ、スラックスを履く。
では、いってきます。
通勤電車の中で、濡れたベッドの感触を思い出す。
それは水気をたっぷりと含んでいる。しかし冷たさは感じない。
むしろ生暖かい。私の体温が伝わっているのかもしれない。
体の輪郭にペンを当ててぐるっとトレースしたような、人の形。
15分ほどで蒸発してしまう、あれは何だろうと考える。
だが答えが見つかるはずもない。
気にしなければそれで済む話。ただベッドが濡れているだけなのだ。
しかし……
乾く前のあの液体は、少し粘ついている気がする。ほのかに酸っぱい匂いもする。何だか背中が痒いかもしれない。分からん。私の体から出ているのか。それともベッドから染み出しているのか。ウォーターベッドでもないのに。
いっそウォーターベッドを買ってしまおうか……
ウォーターベッドのせいにしてしまおう。