【小説】不器用な私はいつも嘘を見抜くー3日目
「あのね、人間にはそれぞれ神様からギフトを授かってるのよ葵、あなたにもねちゃんとあるのよ。」言葉の断片たちが人を作っているのなら、これが母だったのだと思う。
人間は人の顔を忘れたり、声を忘れたりする、忘却は人が生きて行くための脳の知恵らしい。
悲しい辛いを忘れられないと生きずらい、だから忘れてしまうのだそうだ、忘れたくない記憶も忘れてしまうんだけどね。
私は生きて行く為だとしても、何もかも忘れたくはない、それでも母の顔が記憶から薄れていくのは止めようが無いけど。
でも人にはさっき言った言葉をすぐ忘れてしまう人も居るみたい、この人居たいにね、話しかけてきたおばあさんを見て考えていた。
この人は聞きたくない言葉は無視しているのかも知れない、よくおばあちゃんが言っていた、『言葉は聞いとくもんだよ、嫌な言葉を言う人ほどあんたのことを思ってるんだから。』を思い出した。
「お家教えて、ご両親にお礼言わなきゃ。」このおばあさんは勝手に決めてくる。
「嫌、付いてこないで。」茜が言う、茜の体が震えていて、何か悪い事が有ったんだろうなと思った、それとも幽霊だったりして。
幽霊にしてはハッキリし過ぎているから、幽霊では無いのかな、人間に見えるからね。
おばあさんはしかめっ面でこちらを見ている、『うちのおばあさんは五月蠅いけど怖くは無い、でもこの人は何だか怖いな。』
無視して家に帰りたいけど、人を無視してはいけませんって言われているから、そんな訳にも行かない。
「知らない人を家に連れて帰ったらイケマセンって言われてるんだよね。」美樹が代わりに言ってくれる。
「3人とも同じところに居るの?」美樹の方を向いて聞いてきた、施設と思ったのじゃ無いかな。
「違うよ、葵ちゃんと茜ちゃんは同じとこに居るけど、あたしは違う。」美樹は放り出すみたいに言葉を使う。
「じゃあ、あんたは関係ないでしょ、私は茜を探していたんだから、一緒に帰ろうと思ってね。」にたりと笑ってこっちに向いてくる。
「おばあさん、茜ちゃんは帰らないって言ってるから付いて来ないで。」きつい言い方だ。
「子供はね、大人が居ないと生きていけないんだよ、今の茜には私が必要なんだよね。」ニタニタ笑いながら言うのが嫌な感じになっている。
どうしよう、家に来てほしくない、連れて行ったら、おばあちゃんなんて言うのかな。
「おばあさんが何処の誰かも分かんないから、家を教えられない。」美樹が答える。
「だから、あんたには関係ないでしょ、一緒に暮らしてるんでも無い癖に。」この人の言葉はキツイ。
「関係あるもん、友達だもん。」美樹はそう言って頬を膨らます、目はこの人を睨んだままで。
「茜は私のことを知ってるんだから、聞いたら良いんだよ。」吐き捨てる様に言葉が出た。
皆が茜を見ていると、嫌そうに首を振る、知ってるけど言いたくないって話なんだな。
「あの、茜ちゃん、誰か言ってくれないから、警察に行って話をしたら良いんじゃ無いかな。」私が提案すると、困った顔になる。
「警察なんて大げさじゃない、お礼に行きたいだけなんだから。」行きたくないのかそう言っている。
「でもね、茜ちゃんのこと警察の人のに言ってあるから、警察には行かなきゃだよね。」もう一度言った。
「面倒な子だね、良いじゃ無いか、家に連れて行ってくれたら、直ぐに連れて帰ろうと言う訳じゃ無いんだから。」私は知っている、人間って自分のすることと反対の言葉を言ったりするんだよね。
「警察行っちゃいけないの?」美樹が不思議な顔をしている、警察に行って困るのは、犯罪者だけだと考えているからだ。
「じゃあ、また来るよ、遅くなってからじゃ問題だし。」ぶつぶつ言いながら神社から出て行った。
「あの人だれ、知ってる人?」茜に声を掛けてみる、茜はこちらを向いてこくんと頷いた。
「おばあちゃん。」一言言った。
「おばあちゃんなら付いて言っても良かったんじゃない?」不思議になって聞いてみる。
「おばあちゃんだけど、付いて言っちゃ駄目な方のおばあちゃん、葵ちゃんは良いな、良いおばあちゃんだから。」と答える。
空は暗くなりかけていて、ただでさえ暗い神社が闇に飲まれようとしている。
「今日は帰ろうか、遅くなっちゃったね。」3人で話しながら家に帰ることにした。
警察に行くんなら、おばあちゃんに話してからで良い、茜とはそう話していた。
「ただいまー。」帰ると、おばあちゃんがエプロンで手を拭きつつキッチンから出てくる。
「おかえり、もうご飯できているからね、今日は遅かったね、手を洗って来てね。」言いたい事を一遍に言える祖母は凄い、大人に成ると皆こんな風になるのかな。
茜を先に玄関に上げて、私も玄関を閉めて入っていこうとした、ドアを閉めようとすると、いきなりガバッとドアが開く。
「見つけた、素直に教えたらいいのに、付いてこなきゃいけなかったじゃ無いの、茜家に帰るよ。」さっきのおばあさんだ。