【小説】SNSの悪夢
「証拠が有れば良いけどね、ぜひとも出して欲しいもんだね。」厭味ったらしく答えた。
「だって、週刊誌が調べたのだから、証拠は在る筈よ、それを出したらいいんでしょ。」彼女の声も大きくなる。
彼女は週刊誌が自分に情報を提供してくれると、それを本当に考えているのか?
考えていたとしたら、楽天的と言っていい、何も考えていないのだろうな、呆れて言葉を返す。
「まあ頑張って、加工しない限りそれは無いけどね。」自分には自信が有るから、言ってのけた。
彼女は一瞬声を失っている、それでも直ぐに立ち直ったのか、こう言い捨てた。
「慰謝料が無くても、財産分与が有るんだから。」何だか金に拘って居るな。
それにしても、本当は俺が不倫して居るとは思っていなかったのかも知れない、週刊誌に乗って言い放っただけなのか。
「財産分与ってさ、知ってるか?一緒に居た時期に築いた財産に対して分けるんだよ、家を買ったのは結婚する前だし、結婚して直ぐに不倫騒動で君は出て行ったんだから、殆ど無いんだよ。」子供に言い含める様に話した。
「でも。」まだ何か言いたそうだ。
「でも、私と居た時期に仕事をしていたでしょ、それは今日宇雄の財産でしょ。」そんな物は殆ど無いと知っている筈だ。
きっと彼女の中では不倫で離婚したら慰謝料が貰える、じゃあ自分と居る価値は無いと考えたのだろう。
それは自分にとっては考えたくない最悪の想像になる、でもSNSでの言葉を読むと、そう考える事しかできやしない。
彼女を思って復讐しようとしていた自分は何て愚かだったんだ、怒りという名の込み上げる感情は抑えられない。
「そうだ、言っておくけど、俺はSNSで批判してきた奴を訴えようと思っている、勿論週刊誌もだ、自分は不倫とは関係無いからな、名誉棄損って奴だな。」何だか話して楽しくなってきた、彼女も慌てているだろう。
「名誉棄損って。」彼女がポツリと言って、言葉は切れたが電話は切られなかった。
彼女の頭の中は知る由もないが、自分の書いた物が大事になるとは考えていなかったんだろう。
自分もこんな事態に陥るとは思っていなかった、仕事も家庭も順調だと信じていた。
それは神様を信じる様に、予想できない未来は理想通りだと確信する様に。
「君と他2人の一般人と週刊誌を訴えたい、俺の仕事が出来なくなったのはあのSNSの批判の所為だからな。」もう一度彼女に強調する。
「私は関係ない、だってあの週刊誌の記事を見て、家を出ただけなんだから。」彼女の言い訳は聞かずに電話を切った。