【小説】恋の幻想
式は無いから、次の日は家で住む用意をするだけ、裕子さんと私は話し終わると眠ることにした。
窓が仄かに明るくなって、カーテンの間から光が漏れてきている、もう6時は越えているかも、予定と言っても余り無いが、起きて朝ごはんを食べる用意をする。
冷蔵庫を開けてみると、余り入っていない、明日から良平と暮らすなら、買い物にも行かなければ、タスクがひとつ頭に浮かぶ。
ガチャガチャという音がして玄関の鍵が開く、開いた先を見て見ると良平が立っていた。
「おはよう。」手には袋を下げている、それと同時に匂いがする、お腹が空いていた私は、思わず唾を飲む。
「美味しそうな匂い。」忍が冷蔵庫の傍から振り向いて、こちらを見ている。
昨日は裕子と喋って、結婚について納得したんだろうか、気持ちは色で見えたりしないから不安になる。
「ふあああ。」裕子が布団から手を出して、起き上がっている様だ、玄関からは見えにくいが想像させる音だ。
「初めてここで泊まった次の日みたい、又ハンバーガーでしょ。」忍が嬉しそうだ。
「ハンバーガーなの、温かいうちに食べたい、ちょっと待ってて、コーヒーもあるんだよね。」いつもの図々しい裕子だ。
「俺たちのために買ってきたんだからな。」釘を刺しておく、当たり前だと思われると、結婚生活が思いやられる。
「でも、私の分もあるんだよね、良平は優しいもんね。」何だか楽しげだ、何が有ったのか、こっちには理解できない。
「裕子さんの分もありますよね、机に並べておきますね。」忍が机を拭いて、買ってきた物を並べている。
机を拭いて並べて食べる、そんなごくありきたりの感覚が嬉しくなる、裕子は雑だから、袋の上に置いて、食べようって感じだったから。
「二人で何話していたの?」心配になって聞いてみる、裕子の影響で結婚は嫌だなんてもう考えたくもない。
「良平さんの悪口じゃないですよ、裕子さんが婚約破棄した真相を聞いておきました。」いたずらな顔で答えた忍は、これが本来の姿なんだろう。
自分と一緒でも出てこなかった本来を出させた裕子に嫉妬が湧く、忍と恋愛しているわけじゃ無いのに。
「あー、美味しそう、良平って朝ごはんはハンバーガーって決めてるの?何時もだよね。」まだ寝むそうな裕子が入ってきた。
「コンビニじゃ無きゃ、ハンバーガー位しか選択肢無いだろ。」裕子に答えて、忍を見る。
「私はハンバーガー大好き、家のご飯よりも贅沢じゃないですか。」食べたいようで、先に椅子に座っている。