【小説】不器用な私はいつも嘘を見抜くー3日目
「あのね、人間にはそれぞれ神様からギフトを授かってるのよ葵、あなたにもねちゃんとあるのよ。」母の顔も忘れそうになっているのに、言葉だけが残っている。
言葉には言霊が宿ると言うから、母よりも言葉が勝って居るのかも知れない。
生きるのは言霊を重ねて、自分の中に貯めて置いて、何かの時にはそれを出しつつ、未来に歩むことなのかも知れない。
茜は家で暮らすようになった、取り敢えずだけど、祖母は何にも言わないけど、茜の為に動いているのだろう。
茜はお母さんとは違ってお行儀が良かった、祖母は挨拶をして我儘も言わない茜に気を使っていた。
茜はこれまでもここで育ったみたいだった、当たり前に手伝いをしたり、本を読んだりしている。
私が我儘を言って居ると、子供なんだからの眼で見てくる、茜だって子供なのに。
「おばあちゃん、茜ちゃんはずっと一緒に居るの?」祖母と2人だけで住んで居るから、嬉しくなって聞いてみた。
本を読んでいる茜は身体を硬直させて話を聞いている、動かないけどそれは良く分かった。
「それは解らないのよ、だってお父さんもお母さんも居るでしょ、ここに居て欲しいのは解るけど、勝手には出来ないのよ。」いつもの祖母の言い聞かせる言葉が出てくる。
茜は大きく頷いて、そのまま本を読んでいる。
「ねえ、茜ちゃんはここに居たいでしょ。」そう言って同意して貰おうとする。
実際には茜が同意したって、大人の事情で住む所は変わる、子供がどうにかできる訳じゃ無いのだ。
それでも茜の気持が聞いて於きたかった、姉妹って分からないけど、こんな感じなのかも知れない。
「ここは好きだし、お母さんの所には帰りたくないけど、ご迷惑だからお父さんが来なさいって言うかも。」大人びた口調で言ってくる。
この子は子供の言葉を置いてきてしまったのかも知れない。
「でもさ、茜ちゃんはここに居るのが好きでしょ、それ言ったらここに居ていいかも知れないよ。」茜と祖母に笑って言ってみた。
お休みに入って美樹と遊ぶのにも、茜と一緒に遊ぶようになった、沢山で遊ぶ方が楽しいから、3人でどこにでも言った。
それでも、先ずは神社に行く、それは習慣の様になって居て、もう母が返ってくると云う目的は忘れ去られていた。
何時もの神社は木が生い茂っていて、他の子たちが怖いと言ってこない程暗い。
だからこそ、ここで静かにお参りがしたいと思った、誰かに囃し立てられるのはご免だ。
暗いからこそ涼しいというのもある、夏に涼むのは良い場所で、ここが人で一杯になるのはお祭りの日位になる。
今日も何時もの神社に行くと、私よりも一生懸命お参りをしている人がいる。
「今日は誰かが居るね、後にする。」美樹が聞いてきた、あまり人が来ない神社だから、お参りをする時は誰も居ない時にしている。
お参りをする人をちらりと見て、近づいたらいけない様な気がしていた、それ位真剣だったのだ。
「そうだね、あっちで遊ぼうか。」私が言うと、3人で石段の下まで行って遊ぶことにした。
子供は石段が好きだ、そこで2段飛びをしたり、階段の上り下りで誰が早いか競争したりする。
祖母には危ないから止めなさいと言われていても、危ないからこそ面白いのだから、それは仕方が無い。
美樹はいつも誰よりも早かった、よーいドンのよーいで走り出したりする、茜は反対にドンと言ってから、一瞬の間を置いてから走る。
何時も順番は美樹、私、茜に為っていた。
遊んでいると、上からお参りを終えた人が降りてきた。
ゆっくり、何かに引っ張られているかのように、ソーと石段を下りてくる、気になるなら、まだ上に居ればいいのに、そう考えた時、声を上げた。
「茜ちゃん、茜ちゃんでしょ、おばあちゃんだよ、憶えて居る?」茜に話しかけた。
茜は私の背中の後ろに隠れる、何時もの行動だ、知ってる人でも知らない人でも、茜は兎に角後ろに隠れてみる。
まるで狐に見つかったウサギのようだ。
「茜ちゃん、知っている人?」祖母位の年代の人に戸惑いながら、茜に聞いてみる。
肩に頭が当って、ウンって体が答えている、茜には解っているみたいだから、前に出たらいいのに。
「知ってる人ならお話する?」又聞くと、首を振っているのが解る、お話はしたくないのだ。
「おばあちゃん誰、茜を知っているの?」誰にでも平気で話しかける美樹が聞いている。
「私ね、茜のおばあちゃんなのよ、探していたんだけど、何処にも居ないから、神社でお参りしてお願いしていたの、神様が会わせて下さったのね。」1人で嬉しそうに喋っている。
茜は嬉しそうでは無いから、好きでは無いんだろうな、このまま此処で話していたら、夜になっちゃう。
そう考えて、茜の代わりに話すことにした。
「今ね、茜ちゃんは家に居るの、だからお婆さんとは行かないよ。」
おばあさんが嫌な顔を見せる、そして直ぐに笑顔になって、又話し出した。
「茜ちゃんがお世話になったのね、お礼がしたいわ、お家何処?」そう言って付いてきた。