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【小説】恋の幻想

「お前、何言ってんだよ、俺はあいつの兄貴だぞ、誘拐ってのは親兄弟がするもんじゃねえだろ。」大声で怒鳴っている。

頭が痛い、あの声を聴くと頭が痛くなるんだ、もう聞かなくて良いと思っていたのに。

「本人の承諾なく何処かに閉じ込めたら誘拐になりますよ。」良平は穏やか過ぎる。

「お前の部屋に居るのは解ってんだぞ、連れて帰るからな。」家を出てもう数か月は経っていて、もうあの家とは離れたと思っていたのに。

「だから何なんです、結婚したいと思っているから、ここに居るんです、知っていますか、18歳になれば親の許可なく結婚出来るんですよ。」冷静に説明してる。

「良平じゃ中々帰っていかないみたいね、ちょっと待っててね。」裕子さんが私の手を握る。

「私たちが何とかするから、出てこないでね。」次はカッターを手に持って玄関に行こうとしている。

「危ない事は止めて。」つい大声になった、裕子さんが怪我をするのも、怪我を負わせて捕まるのも嫌だ。

「おい、声がしてんじゃないか、あれは忍の声だろ、中に入るぞ。」大声を聞いて叫んでいる。

「大丈夫だから、任せて於いて。」裕子さんが立ち上がって、玄関に向かう、私を部屋に入れたまま。

玄関では兄の立場を持ってる獣と良平が言い合いをしている、二人ともそこそこ大きくて、喧嘩になるかとハラハラする。

「あんたね、忍ちゃんの兄貴だって云うポンコツは。」裕子さんの声が響く。

「お前誰だよ、家族の事に口を突っ込むな。」獣が大声で吠えている、私は何時もの様に頭を抱える。

あの声を聞くと動けなくなる、あの嫌な部屋を思い出して身体が竦む、自分の問題に対処できないのが腹立たしい。

「あんたでしょ、あの子に嫌なことしていたの、私は知ってるんだからね。」裕子さんは強気だ。

私があの獣にされていた事を知っているのに、言わないでくれたのは、感謝しかない、大声だから近所に解ってしまう。

「それがどうした、あいつは俺の妹になったんだからな、俺のもんなんだよ。」ニヤリとした歪んだ声で答えている。

「その所為であの子が精神的に追い詰められたんだよ、私は許さないからな。」この声は裕子さんだ。

そうだった、父親が結婚してから、私はあの家の子供ではなく、あいつの玩具に為っていた。

それが嫌で家を出ようと思って、ここに居るんだ、このままならまた同じになってしまう。

怖くて声も出ないが出て行かなければ、頭痛を振り払って玄関に行こうと立ち上がった。


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