【小説】SNSの悪夢
ぎゅうぎゅうに混んでいる電車から出て、一息ついていると、あの女性もベンチで座っている。
自分には解らないが、痴漢は女にとってはショックな出来事らしい、男でも好きでも無い奴に触られたらいい気はしない、女なら尚更なのだろう。
仕事に行くつもりだったんだろうが、座り込んで動かない、オイオイ、そこ迄ショックなのか?
「大丈夫ですか?」本当に心配になって聞いてみた、動かないのは拙いだろ。
「ありがとうございます、チョット触られちゃって、嫌になってしまって、早い目に出てきたので、会社に行くのにまだ時間が有るんです。」冷静な答えが来た。
思ったよりもショックは無かったのかも知れないな、そう思って彼女を見ると、冷静な語りとは違って、手が握りしめられている。
「大丈夫では、......…無いよね?」もう一度言ってみる。
「そうですね、ハッキリ言って大丈夫って訳では無いです、痴漢って軽犯罪って言うけど、自分の心まで侵されたみたい。」俯いて言葉を出す。
自分がした訳でなくても、解ってて止めなかったのには、罪悪感が出てくる。
「悪かったね、何もできなくて。」彼女に謝って、これからは何かしようと思った。
「あなたの所為じゃ無いですよ、私よく痴漢に会うんです、何か御しやすそうな気がするのかな、出来るだけ女性専用車両に乗りたいんだけど。」悔しそうに言葉を吐く。
「そうだ、今日の痴漢っていつもしているのかな、あんまり電車に乗らないから、知らないんだけど。」聞いてみた。
そうだ、仕事に行くのかな、聞いても大丈夫だったのかな、疑問が渦巻いて出てこない。
「あの車両は出るって噂の車両で、女性は出来たら乗りたくないんですよ、でも痴漢している本人の顔を見た事は無いんですよ、後ろに居るから。」続けて行った。
「引き止めちゃってごめんね、仕事に行くんだよね、聞きたかっただけだから。」言い訳がましく言ってみる。
「良いんですよ、痴漢について調べているんですか?」その女性が聞いてきた。
「そうですね、探偵しているんだけど、この電車に痴漢が多いって聞いて、犯人を捜して捕まえてって依頼で、誰か解らなかったから、困っていたんだよ。」嘘だけど、探偵みたいな行為って言うのは本当だ。
「私、協力しますよ、あんなの捕まえちゃってください、さっきの車両に居る男がしているって分かっているから、明日の朝も乗ってきてください、私も乗って痴漢してきた所を捕まえましょ。」明るい声で答えた。