【小説】SNSの悪夢
「止めてください。」女性が大声を出す。
声を出す女性も居るんだ、痴漢はあの男だろう、自分が持っている携帯に力が籠る。
「この男が触っていました、次の駅で降ろしてください。」触っていたと思われる手を上に上げている。
次の駅に着くとドアが開いて人が流れ出す、さっきの声を上げた女性も手を上げたまま、ドアの外に行こうとする。
見ていると男は動こうとしない、自分が手伝うか。
「取り敢えず、外に出た方が良い。」そう言うと、男を押して女性と外に出た。
えりが後ろから付いてくる、電車は人を吐き出すと、ドアが閉まって動き出す。
「なんてことするんだ、会社に遅刻するじゃ無いか。」男が大声で怒鳴っている。
「静かにしてください、痴漢容疑者でしょ、して無いのを証明したら、直ぐ行ったらいいですよ。高圧的に言ってみる。
痴漢の証明は難しい、した事の証明はまだしも、していない事の証明は簡単ではない。
自分はそれを十分わかっていて、男の手を掴んで言い放つ、顔を見ると怒りで少し赤い。
「この人が痴漢してきたんです、信じてください。」女性は必死で大声を出している。
「私も見ていましたけど、痴漢していたと思います。」えりが同調して話している。
この騒ぎに駅員が走ってくる、ちょっと遅いな、どこでも人不足で騒いでいてもこれ無いのかもしれない。
「私は何もしていないのに、こうして無理やり降ろされたんですよ。」男が主張している。
「電車で痴漢してきたので、その手を取ったんです、間違いありません。」女が噛みつく。
「私も一緒の電車に乗っていたんですけど、痴漢していたと思います。」えりが女性を援護している。
「取り敢えず、駅長室で話をお聞きします。」どちらが正しいかは聞いてみてからと言う訳だ。
男が捕まれていた手を解いて走り出した、走って行く男を追いかける、いつも走っているのが役に立つ。
「逃げちゃ駄目ですよ。」男を捕まえると、顔を見ながらそう言った。
「逃げてなどいない、仕事に行かなけりゃならないんだ、お前は違うのかも知れないがな。」大声で怒鳴る。
怒鳴った所で状況は変わらないのに、はあと溜息を付いて、言い返してみる。
「俺の仕事があるかどうかは関係無いだろ、お前がした事に怒ってんだよ、会社に電話を掛けて、遅れると言えよ。」
こっちの声に驚いたのか、慌てて携帯を取り出して、電話を掛けている、少しだけ離れた所で、女性2人と駅員が立っている。
皆仕事があるんだよ、お前が何もしなければ問題なかったんだよ、心の中ではこっぴどく怒鳴っている。