【小説】SNSの悪夢
SNSで叩かれると、人間不信に陥る、知っている人間では無い、叩いている人間も自分を知っていて叩いているのだ。
ネットの世界ではそれが真実か、そうで無いかは問題にならない、そんな事よりも自分の中の正義に従って居たら良いと考えているのだ。
口の中に苦い物が広がる、これは自分の置かれた状況が苦さを感じさせている、何も口には入って居ないのに。
苦さは疑惑の味だ、だから名刺を渡した本人がそこに居ても、この人間は若しかしたら怪物なのでは無いかと考えてしまう。
そう言っても、自分の中で信じてみないと始まらない、SNSで叩かれたのは週刊誌が原因だ、それでも関わる人間全てが悪いわけでは無い。
女性をもう一度ゆっくり見た、それから名刺を見る。
普通にきれいな女性だ、紺のスカートのスーツで白のブラウスだ、薄化粧で嗅いだことのある甘い匂いを纏わせている。
名刺には○○ジャーナル 三井えりと書いてある、兎に角彼女と話して見る必要がある。
今の自分は陥れようたって、何もない筈だ、それでもなお週刊誌ならネタを探してくるだろう。
自分は1人でそれに対応しなければならない、彼女は組織に守られるだろう。
組織の中でまともか、まともじゃ無いかなんてどうでもいい、集団は方向づけをすると、そちらに向かう者達なのだ。
「記者じゃないって、どんな仕事をしているんですか?」聞くしかないが、彼女は仕事に行かないのか?
顔を緩めて話しかけると、彼女が笑顔を見せる、見た所、腹に何かがあるとは思えない。
「私は営業とかをしてるんですよ、私も仕事が有るので、後で話をしていいですか?」スポンサーを探しているんだろうな、営業って何か解らないが。
「解かりました、私の連絡先も教えましょうか。」そう言ってラインを交換した。
自分はあの痴漢を探す必要があるが、たぶん今頃慌てて駅を出ても、あの男を見つけるのは不可能だろう、彼女の方が仕事に送れるんじゃ無いか?
「仕事大丈夫なんですか?出勤時間に遅れませんか?」自分も時間に縛られていた時期がある、他人の事ながら、心配が口を衝く。
「私、いつも早い目に出て来るんですよ、出版社って出勤が遅いんですよ、その代わり帰りは遅いんですけどね、帰りに食事しながら話しませんか?」
「そうですね、連絡してください。」信じてはいないが、会う位は良いだろう、別に何をする気も無いしな。
「ありがとうございます。」そう言って彼女は仕事に行った。
さて、あの男はどこに行ったんだろう、考えながら彼女を見送った。