【小説】恋の幻想
それからは何もかもが早く終わった、裕子が紹介した親戚は思った以上に考えてくれて、彼女の気持ちに添って手配したらしい。
それから俺たちは3人で会うようになった、こちらは心配だったためだが、忍も同年配が居ない職場で、話をする場所が必要だったのかも知れない。
「久しぶり、どうだった上手くやってる。」いつもの裕子の声が響く、喫茶店で話がしたいのだが、この声が大きすぎて家で集まっている。
「はい、皆さん言い方ばかりで。」当たり障りのない答えが帰ってきて、裕子も俺も、大丈夫かと考える。
「嫌な人も居る筈だから、困った事態になったら言って貰って良いんだよ。」何処の職場にも嫌な奴は居る筈で、その愚痴くらいは言わせてやりたい。
「あそこは良い人が多いけど、それでも年も意見も違う人達だから、愚痴で済むなら聞くし、堪えられないようだったら考えよう。」裕子が言う。
「大丈夫です、いい所を紹介して貰ったんで。」忍の癖なのか最後まで言葉が続かない。
人は愚痴を言う、どんな場所にも問題は少なからずあるからだ、それが無いのは我慢しているか、考える余裕が無いかだ。
心配しても仕方ないとはいえ、何だか子供を気遣っている気持ちになる、子供にしては大きすぎるのだが。
最初は言わずとも3人で会っていた時間が、いつの間にか裕子が抜けるようになる。
あの元婚約者は他の男と付き合い始めると、俺とは会わなくなるのだ、振られるとまた当たり前の様に姿を現す。
「この頃、裕子さんは来ないんですね?」忍が不思議そうに聞く、良いカップルだと思っていたからだろう。
「襲ったりしないから大丈夫だよ、これからは喫茶店で会う?」恋人では無く、親や兄弟の気持だったから、彼女が警戒してるかもと、初めて考えた。
「襲われるとは思っていませんよ、これまでそんな感じまるで無かったし、子供みたいに感じてるんじゃないのかな、親には若いけど。」そこで言葉を切って続ける。
「裕子さんみたいに大人じゃ無いけど、子供じゃなくて恋人として見て欲しい。」忍がしっかり顔を見て行った。
だからと言ってはいそうですねなんて言えるわけがない、どのくらい経てば女の子から女に生るんだろう。
「今の所は考えられないけど、会ってるうちに気持ちが変わったらね。」子供に諭すように答えてゆく。
「解ってます、こっちは諦めないですからね、忘れないでくださいね。」きっと他に好きな人が出来て忘れてしまうんだろうな、そんな風に考えていた。