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人間は誰も自分の思い通りにはならない

三女が帰ってきた時に、「推し」って存在を知った。

推しって云う人物が居るんじゃ無いって言うのは解っても、アイドルのファンみたいな物??と認識していた。

「東京に居る時にランちゃんと推しに助けられた。」と話している三女は、Kpopアイドルが好きで助けられているらしい。

私の子供の時代は、アイドル全盛だったりして、アイドル好きって気持ちも解らなくはない。

私自身はアイドルが好きで好きでって事は無かったが、周りには好きって人は随分居たように思う。

皆に好きになって貰うから、アイドルって事も有るから、スキって人が居ないアイドルはおかしいと言えばおかしいのだ。

母親が噂をしていた日が有って、その時には会社の同僚のお嬢さんの話しだった。

「○○さんの娘さんが、勉強せんから怒ったんやって。」その頃は皆いい学校(競争率の高い学校)に行かせたいと思っていた時代になる。

「勉強せんと良い会社に就職も出来んし、ちゃんと勉強せなあかん、って強く言ったみたい。」子供にとっては私の勝手でしょって所だが。

「そしたら、喧嘩になって、娘さんが『もういい、そんなん言うんなら五郎の所に行くから』って言ったんやって。

「五郎って誰なんや?」興味無さそうにしていた父親が言う。

「そうなんよ、○○さんもいつの間に男の子と付き合っていたんやと思って、『五郎って誰や』って聞いたんやって。」

「そしたら、娘さんが、「五郎って言ったら野口五郎に決まってるやろ』って言ったらしいわ、笑っていいのか泣いて良いのか解らんって言うとったわ。」なんか落ちのある話になる。

今の時代にはアイドルって言っても、会える事さえ無いと思っているけど(昔もそうだったんだけどね)、昔は時々こんな人が居たんだよね。

ちょっと無茶やけど、夢がある事は良い事なのかも知れない。

三女は最初はブラック企業に勤めていたので、1人で東京に居て、寂しいわ給料は少ないわ、時間は無いわで、ネットで見るアイドルに癒されていたのだろう。

こちらに帰ってきてからは、次女も含めてアイドルを押していて、次女も推しが居る生活って、こんなに張りが在るんやと言っていた。

「推し」って物が、現実世界に居る人物か、そうで無くて2次元の物かは人に依って違うが、「推し」が居ると、世界が明るくなるらしい。

その意味では我が家のツナ君はまごう事無く「推し」であるし、勿論、娘の好きなアイドルも「推し」ではある。

今では押しって言葉も一般的になったが、昔はそんな言葉は無かった気がする。

1981年ごろから2000年くらいまでは子育てに忙しくて、推しどころかテレビも見ていない。

唯一見ていたのはビジネスサテライトだったので、昔から押しって言葉が有ったんだよと聞いて驚いている。

この押しって行為は、いわゆる「パラソーシャル関係」と言われているらしい。

これは個人的には会ったことが無い人に、親しみや友情を感じる心理状況なんだそうだ。

私たち人間の脳は、生存と繁殖を目的としていて、あるキャラクターや有名人が、その人を慰め、安らぎを与え、落ち着かせてくれるなら、脳は自動的に永続的な愛着を形成してゆくのだそうだ。

基本的に、相手が現実世界の知り合いであるかどうかは、脳には関係ない話になる。

これは悪い事ばかりではなく、その関係が健全でさえ有れば、その人を強くし、励まし、インスピレーションの源となるようだ。

SNSの時代のパラソーシャル関係は、少し違ったものに為っていると考えられている。

SNSで活躍するクリエーターは双方向の認識があると、その視聴者に思い込ませる方向に仕組んでいる。

これはあくまで商業的な目的で、成り立っている関係のパラソーシャル関係だが、実際よりも相手と親密な関係にあると思い込んでしまう人が多い。

SNSは他のメディアとは違って、有名人が返信してくれる可能性もある、兎に角推しと近いのだ。

実は脳は、現実世界で出合った風景と同じように、SNS上の画像を処理してしまう。

人間の脳はその親密さをリアリティをもって感じていく、返信した有名人と自分が繋がっているみたいにね。

私の周りに居る「推し」が居る人間は大人が多いので、そんな状態を見聞きしたことは無いが、人に依っては『五郎ちゃんの所に行く』なんて人も現れるのかも知れないな。

スマホだけで、有名人を見て、そのファンコミュニティに居ると、健全なパラソーシャル関係が難しくなる場合がある。

誰もが自分と同じ意見を持っている。だから自分たちのやり方はすべて正しいと思いこんで、攻撃したり、嫌がらせをしたりしてしまう場合だ。

ファンの中で群集心理が増幅されて、ある一定の人間に対して嫌悪してしまったりするのだ。

これは難しい問題だ、だけど推しとファンの関係だけで無く、政治家とかとその支持者もこんな感じなのかも知れない。

昨今ではSNSで投稿した物を、返信すると言うハードルは低い、だからこそ、言いたい放題が構築される。

私にとっては解らない世界だが、健全なパラソーシャル関係であって欲しいし、人間は誰も自分の思いどうりにならないと、頭に刻むべきだと思う。


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内山祥子
文を書くのを芸にしたいと思っています。 頑張って文筆家になります。 もし良かったらサポートお願いします。 サポートしていただいたら本を買うのに使います。 ありがとうございます。