【小説】恋の幻想
良平が結婚を口に出してから、二人の感覚が変わってきた、何が変わったか解らないけど、距離が変わってきた。
お互いに言葉を掛けて近づいてゆく、距離を縮め無いと、直ぐに壊れてしまいそうな気がしていたからかも知れない。
「何でも話そうよ、昔話さないで壊れてしまった事が有ったから、お互いに内緒にはしないで。」良平がそう言うと、私も頷いた。
言わないでいるのは、考えたくない過去に為る、本当はそれも言った方が良いんだろうし、聞かないのは優しさでしか無いと解っていて、そこに甘えていたかった。
「こんにちわ~、久しぶりー。」二人の部屋に声が入ってくる、ああ裕子さんが来たのね。
「如何だった、元気だった。」私も解るようになっている、こんな風に元気な声を出すのは、彼女が落ち込んでいる時期なのだ。
「また振られたのか?」良平はそっけない、ここで良い顔をすると、ずっと話をするからだろう。
「振られた事なんて無い、いつも私の方が振ってるんだヨ。」悲しげな顔を隠すように大声に為る。
「それで、今日は何の用が有ったんだ。」冷たいな、私だったら耐えられないと思う言葉。
「久しぶりに来たのに、それは無いでしょ、現状を話し合ったりして。」きっと聞いて欲しいことが有るんだ。
「俺も言いたい話が有ったから、ここで言っとくわ、忍と結婚しようと思う。」今言わなくても良いのに、そう思ったけど何時言っても同じなのに気付く。
裕子さんは目を見開いて驚いた顔、それから私と良平さんを交互に見る。
「冗談じゃ無く、本当に結婚するの?」震えた声で裕子さんが答える、驚いてハッキリ言葉が出ない、そんな感じの声になっている。
「俺も忍も本気だよ、だから新婚時代はちょっと遠慮してくれよ。」と続けて言う。
「やだー、だって良平は私のもんなんだよ、忍ちゃんに覚悟なんて無いでしょ、昔の嫌な話なんてしてないでしょ、私はね婚約は解消したけど、良平を一番知ってるし、私も解って貰ってる、絆が有るのよ。」裕子さんが子供になった。
それまでは何が有っても理性的で優しかったのに、私と良平が結婚と言った途端、理屈が無くなった。
本人も感情でしか考えられないのだろう。
「ごめんなさい。」謝る理由も意味も無いのに、思わず謝ってしまっていた。
最初に会った時に優しくて頼りになったのは裕子さんだったからだろう。
「謝らないで。」「謝るな。」裕子さんと良平が一緒に声を出す、こんな所も一緒なんだな、そう考えると途方に暮れてしまった。