【小説】恋の幻想
「ひっさしぶりー。」ある程度二人でいる時間が増えた時期だった、裕子さんが家に入ってきた。
『裕子はいつも勝手に入って来るからな。』良平さんが言っていた、だからきっとここで会うんだろうなとは思っていた、何時まで経ってもここに来るんだとも言っていたから。
「また来たのか、何が有ったんだ?」良平さんが当たり前に聞いている、これがいつもみたいだ。
「それがね、付き合って居た男が浮気者だったんだよ、女の方が少ない時代に何で浮気出来ちゃうのかな。」と答える。
はあと云う声が聞こえそうな顔で、良平さんが裕子さんを見ている、何度もこんな会話をしてきたのかも知れない。
「それで来たのか、ここに来ても何も変わらないぞ。」と珍しく声を荒げている。
「だってここは実家みたいなものでしょ。」と平気な顔で言い返しているから、元婚約者って言葉は気にしていないらしい。
「こんにちは、お久しぶりです、お元気でしたか。」と私も声を掛ける、裕子さんは知ってると言いたげな顔を向ける。
「忍ちゃんもここに来ているんだね、仕事はどう、頑張ってる。」裕子さんはいつもの優しい裕子さんだった。
「私、今良平さんと付き合って居るんです、賛成してくれますか。」裕子さんにも知ってもらいたくて宣言する。
裕子さんは不思議な顔をして、二人を見比べている、何だろうと考えていると、答えてくれた。
「カップルになるには年が離れすぎているんじゃ無いの、良平って随分年上だよ。」この状態が嫌だったのかも知れない、ヤッパリ元婚約者って気持ちじゃ無いのかも。
私は二人が好きだから、裕子さんに認めてもらいたい、何処でも認めて貰えなかった自分を認めてくれた人だから。
「別に結婚するとか言ってるわけじゃ無いんだ、彼女が話が出来るのは俺しか居ないからね。」と良平さんが言っている、何だか言い訳じみている言葉だ。
「そう言って自分の意志じゃない方に流されるのが、良平の悪い所なんだよね。」裕子さんは解ってると言いたげな雰囲気だ。
「自分の意志が無いわけじゃ無いよ、嫌いだったら絶対に付き合わないから。」と言い返している。
「私が強引に付き合って貰っているから、問題なんですよね。」と恐る恐る声を掛ける。
「違うよ、覚悟が有るかって話だよ、若い女の子と一緒に居て、変な噂が流れてもちゃんと守れるかって話。」裕子さんは良平さんの方を見ている。
「それに忍ちゃんも覚悟ある?この人と一緒に年を取る覚悟あるの?」ちょっと厳しい言葉だ。