【小説】恋の幻想
「ハハハ、忍ちゃんならそう言うと思った、嬉しいな一人じゃ無いって。」裕子さんが笑っている。
泣いている顔よりも笑った方が良い、人間の笑顔はホッとさせてくれる、怒りの表情を、見るのが多かった子供時代が有るからなおさらだ。
「良平さんがなんて言うか解らないけど、裕子さんが来て問題あるとは思えないな。」腕を組んで言って見る。
良いと言ってくれるかは賭けだけど、私は悪いとは思わない、きっと良平も裕子さんを気にしてると思う。
元婚約者だからではなく、気に掛けているんだろう、私より家族みたいに、兄妹みたいに、だから家に入り込んでいても、何も言わなかったんだ。
「忍ちゃんは解かるかな、どうしても恋とか愛とか解らない、分らなくても生きてはいけるけど、普通に恋愛して、結婚して、子供産んで、育てて、少しづつ親になっていく人生って、私には与えらないんだ、神様を恨んだよ、だって私だけが違ってるんだよ。」裕子さんの笑顔は歪んでいる。
「解らないけど、寂しいのは解るよ、でもね、人間本当に寂しいのは一人だからじゃないよ、誰かと一緒に居るのに、理解してもらえない、無視される方が寂しいんだよ。」これまでの自分に言い聞かせる。
「一緒に居るからこそ寂しいって、裕子さんは解らないかも。」解るのは理解し合えない親と一緒に居る私だ。
笑って欲しいけどそれが言えない、私は笑えているんだろうか、笑って生きていけるんだろうか。
「ごめんね、私よりずっと大変だったよね、忍ちゃんは良平が好きで結婚するんだよね。」いきなりの言葉に驚く。
だって結婚って好きだから、愛を感じているからするもんだよね、それ以外は無いじゃない、裕子さんは違ったから言いたいのかな。
「好きです、ドラマにある愛とか恋とかじゃ無いけど、心の中にずっと流れている川みたいです、川が見えなくても生活は出来るけど、川自体が無いと生きていけない、そんな感じの感情なの。」解って貰うには言葉が必要なのでしょうが、いい言葉が出てこない。
人生で人との繋がりを例えるのは難しい、親や兄は自分にとっては害悪だったとしても、必要だった。
それとは違って必要ではないけれど、手に入れたいものが良平との生活だ、思ったよりも愛していないじゃないかと、言われてもどういって良いのか。
「難しかった?これから結婚って人に言うべきじゃ無いのかな、知りたかったんだよ、結婚するってどの位好きで、どの位体を合わせていたいのか。」