【小説】SNSの悪夢
あっけらかんとした言葉に作った笑顔が引っ込んでゆく。
「私が襲わないと考えているんですか?」えりに聞いてみる、役者だと知っていて、尚且つ話題になった人間だと知っているのだ。
「ウーン、難しいな、勘みたいなものかな、護身術も習っているしね。」そう言って、ファミレスを指さす。
「行きましょうか?」ここで話をしていても仕方が無い、入ってから話そう、首を縦に振って同意した。
同意したら直ぐにドアを開けて、彼女を促す。
「わ~、紳士なんですね、有難うございます、ドアを開けて貰うの初めてです。」こんな行動は習慣になっている、感謝されて悪い気はしないが、ここではしない方が良かったかもしれない。
嬉しそうに言っている物の、考えたら、何だか女ったらしの条件に当てはまって、余計に敬遠されそうだ。
この店は外からも店内が見える開けた作りで、壁紙も明るい色調にしてある。
思わず唾を飲み込むほど、バターの匂いが広がっていて、グラタンを食べている人が見えた。
「難しい顔してますね、行きましょうよ。」入り口近くで案内している係りの人間についてゆく。
「いらっしゃいませ、こちらにどうぞ。」キッチン横の少し奥まった場所が案内された席だ。
自分が俳優だって知っていて、外から見えないが所を選んでくれたのか、それとも考えなしだったのか、自分としては外から見えない方が良い。
2人で席に座ると、えりが自分を見てくる、見られるのは慣れているが、机を挟んで顔を見るのは、妻とデートしている時以来だと気付いた。
「何か恥ずかしいですね、でも役者さんって、テレビで見るよりずっと素敵なんですね。」彼女のお世辞に、警戒した方が良いのか、喜んでいいのか解らない、それでも褒めてくれているのだから、「ありがとう。」と答えた。
2人で夕食を注文する、彼女も連絡を入れている風でも無いから、家族が居ないのかも知れない。
自分はグラタンだ、グラタンとビールにしたかったが、ここで飲むのは不味いだろう。
「朝は有難うございました、痴漢って敵ですからね、調べてくださいね。」屈託なくしゃべる。
「あの電車は痴漢が多いんですか?」それとなく聞いてみる、個人を特定したいとは言えないからな。
「そうですね、決まった人が痴漢して居るって、乗っている女性は知っているんですけど、何時も捕まえられないんです、この時代、下手に痴漢て言って冤罪と言われる恐れもあるし、難しいですね。」机を見つめて言葉を出す。