【小説】不器用な私はいつも嘘を見抜くー2日目
「あのね、人間にはそれぞれ神様からギフトを授かってるのよ葵、あなたにもねちゃんとあるのよ。」そう言って母は出て行った。
何時もけらけらと笑っていた母が何処に居るのか、祖母が何も言わないから、何か理由が有るのだと思う。
母が居なくなってから、一人っ子で寂しがりな私は、寂しいのを加速させた。
家に居てもおばあちゃんと話すだけ、それも殆どが小言では、家に帰りたくない。
毎日神社にお参りに行くと、度々捨て犬や捨て猫を見つけた、飼うのは駄目だと小言を聞かされるが、見つけた動物は全て連れて帰る。
自分が連れ帰ってやらないと、その子たちは死んでしまうんじゃ無いかと考えたからだ。
何度止めなさいと言われても、言う事いは聞かずに可哀そうな子たちを抱いて帰った。
「また、何を持って帰ってきたの?駄目だよ世話も出来ないんだから。」祖母の言うのは尤もで、自分が世話をするからなんて言えなかった。
それは犬だったり、猫だったり、時には鳥だったりした、嫌いな動物は連れ帰ったりしなかったけれど。
祖母は連れてきた動物が生きて行けるように、近所を回って引き取り手を探すのが常だった。
私も自分で世話が出来ないかも知れないから、拾ってきた子が貰われていくのを見送っていた。
育ててくれる人はいい人ばかりで、ちょっと体を触っても動物好きなのしか感じない、だから安心して居られた。
こんな時には、自分が途轍もない良い人になった気がしていた、結局は祖母に頼むのに。
学校帰りの神社は何時しか習慣になっていて、美樹と私はいつも神社の石段で遊んでいた。
『忘れないうちに、お参りしておかなきゃ。』考えると石段を上がる、石段の一番上がお参りするところだ。
「葵ちゃん待って。」いきなり石段を上がった私に息を切らせながら美樹が付いてくる。
「五円玉2つ持ってる?」珍しく美樹が聞いてきた、何時もは私がお参りをするのを見ているだけなのに。
「持ってるけど、お参りするの?」聞いてみた。
「うん、神様にお願いしたいの。」美樹も一緒に手を合わせて、目を瞑っている。
2人でその日は帰ろうとなった、この日は動物は居ない、祖母には悪いが動物がいた方が良かったのにと思う。
あの暖かい物を抱いて帰るのは、楽しみになっていて、動物がいないのにガッカリしていた。
石段を下りていくと、一番下に細い子供が座っていた、この辺では見かけない。
「どうしたの、何で座ってんの、暗くなるよ。」美樹が話しかけても、何も答えない。
そろそろ暗くなってくる、この子は何処に帰るんだろう、ほんの少しだけ背中を触る。
『怖い、怖い、帰りたくない。』気持ちが流れてくる、どこにも行く所が無いんだ。
「家においで、おばあちゃんがご飯作ってくれてるから。」何も話さないその子に声を掛ける。
「うん、葵ちゃん所だったら、きっとおばあちゃんが良くしてくれるよ。」美樹も言いつつ、手を繋いでいる。
「一緒に行こう。」そう言うと、少しだけ頭を下げたように見えた。
「ただいまー。」玄関のドアを開けると、台所から手を拭きながら祖母が出て来る。
「その子何処の子?」見たことが無い顔に、その子を見つめている、何処かで会ったことが有るのか考え込んでいるみたいだ。
「この子は全然話さないから分かんない、でも悪い子じゃないよ。」私の能力を知っている祖母は、困った顔で言った。
「犬や猫でも困るけど、人間お子を連れて来るんじゃないよ、誘拐だと思われたらどうするの?」そんな事迄考えてなかった。
「お腹空いてるの?」その子に話しかける。
その子は全然答えない。
「この子ね、家に帰りたくないみたい、帰ると殴られるんだよ。」代わりに言った。
「困ったね。」そう一言呟くと、それまでの言葉を忘れて、祖母がこう言ってきた。
「ご飯用意してあるから、食べてから警察に連絡しようかね、まずはご飯だ。」
「3人分あるの?無かったら私のを減らして。」動物を連れ帰って来た時の何時ものセリフだ。
「大丈夫だよ、多めに作ってあるから。」五月蝿いけど、こんな所が好きなんだよな。
「お腹空いてるでしょ、私の分も食べていいからね。」そう言って背中を叩く。
『良かった、ご飯が食べれる。』この子の考えが流れ込んでくる、お腹空いて居たのな。
「葵、嫌いな物残そうと思って、そんなこと言って、駄目だよちゃんと食べないと、2人とも子供だから、子供は食べるのも仕事なんだよ。」言ってるそばから食べ物の匂いが漂ってくる。
美味しそう、醤油の匂いがしている。
置いてある物を覗きこむと、卵どんぶりの具が出来ていた、おばあちゃんお得意のちょっと卵に火が入る過ぎている奴だ。
「これならお替り一杯しても良いよね、良かった卵どんぶりで。」思わず話しかけると、拾ってきた子がごくりと唾を飲んだ。
「手を洗ってご飯食べようね、その後で警察に連絡するからね、親御さん心配なさってるんじゃない。」おばあちゃんは何処まで云っても五月蝿い。
「心配してない。」その子が初めて言葉を発した。
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