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メルカリの恵み
台所は女の城とか言うけれど、私自身は自分で選んだキッチンを使った事は無い。
家なんて建てる人も少ないし、賃貸だとすれば、選ぶなんて烏滸がましい、あるものを受け入れるしか無いのだ。
結婚していた時には夫の持ち家だったが、結婚前に夫が買っていて(ローンはずっとあったけど)私が選んで何かすると言うのはなかなか出来なかった。
お金を貯めて綺麗にしたかったけれど、その家から引っ越ししたから、賃貸のキッチンを使うしかない。
そうは言っても、私はキッチンは収納などを考えて、定期的に片付けているので、不満が溜まっているわけでは無い。
自分としては物をもっと大事に使おうとか考えて、今有るものを使いながら、使いやすい収納を考えている。
結婚した時に、夫の家で料理をするのに、お玉やターナーなどの小物は買った覚えが無い。
「これ持って行かんと、生活できへんで。」母親がそう言って、入れてくれた箱の中に有ったからだ。
結婚する時に、自分としてはちょっとだけ貯金はあるし、自分の気に入ったキッチン小物を買おうと考えていた。
大概の人はそうだと思うが、新生活ってワクワクして、新品の用具を使いたくなる。
私の場合は夫が住んでいた家で、自分では変えようが無かったので、余計にキッチン小物位は買いたかった。
それでもね、母が持たせてくれた小物は、勿体ないから使った方が良いんだよね。
そうなのだ、昔の人間だからか、それとも自分の性質なのか、物をしてる時に、チョット勿体なく感じる。
そして、随分と捨ててしまう事には躊躇いがある。
我が娘などは、1年使わんだ物は要らんもんやとの考えで、ポンポンと物を捨ててしまう。
そんな時には、私の収納能力なら置いとけるで、心の片隅の勿体ないお化けが小さい声で呟いたりするんだけどね。
そうそれで親が持たせてくれたお玉は、つい先日取っ手のプラスチックが劣化でボロボロになって捨てる羽目になった。
「勿体無いなー。」もう既に30年以上使っているのだから、実はちっとも勿体なくは無いが、口に出る。
「勿体無くは無いやろ、何時からそれ使ってんの?」娘が早速突っ込みを入れる。
「これは結婚する時に親が持たせてくれたんよ。」別に親が持たせてくれたからと言って、思い入れが有る訳でも無いのに、答えてみる。
「それやったら20歳から50幾つ迄使っとったんやろ、充分使ったよ、それにしても、何で農協ってついとんの?」うん、それは世界の謎やわ、我が実家は農協とはこれっぽちも交流は無い。
「知らんけど、親が何処かで貰ったんを勿体無くて残しといて、それを持たせたんちゃうか。」知らんけどやね。
「じゃあさ、いらんかったから、持たせたんやろ、体のいいゴミ箱やん。」そんな悪いもんじゃ無いよね、実際に30年以上使ったんやから。
「でも使っとたでね。」納得はしていないけど、使ったんなら必要な物だったんだよ。
「確かにね。」娘が納得はして無い声で答えていた。
昔の家は、これが何でここに在るのって物が出てきたりしていた、農協のお玉とか、行ったことの無い場所の置物とかね。
PTAのバザーとか、近所で物々交換でもしていたんじゃ無いかと思う位には変な物が在った。
その頃の世代はそれを受け入れて、何かに使えるかもと言って家に残していた。
実は私も物が捨てられない質なので、その気持ちは良く分かる、持っていたいわけでは無いけど、捨てられない。
先だって家の収納を見直していたら、ステンレスのツールスタンドが2つも余ってきた。
それまで立てていたツールを、横にした方が使いやすいだろうと見直したら、必要が無くなったのだ。
これ捨てるの勿体ないけど、もう要らんのよね、一度要らないと思ったものは、きっともう使わない。
一度止めた仕事を2度としないのと同じ事だ。(2度同じ仕事に就く人も居るだろうけど)
悩んでいる私に娘の声が響いた。
「メルカリに出せばええんとちゃう。」そうか、送料にしかならなくても、捨てることは回避できる。
「セカンドストリートとかではあかんの?」持って行くだけの方が簡単なので聞く。
「セカストは使ったキッチン用品は買い取らんよ。」そうなんやね、ええもんやのに、ラバーゼのステンレスのツールスタンドって、高いのにな。
「まあ、出してみるわ。」そう言って娘がメルカリに出品した。
出品すると、こっちはドキドキするよね、ある意味、商店主って感じななるからね。
「ちょっとしかお金にならんでもええ???」娘が聞いてきたので、ええよと言った。
捨てられるのを回避する為が大きな理由だから、ちょっとでええんよ、ちょっとでね。
出したら直ぐに買う人が現れて、今は2人で倹しい生活をしている私達に、天の恵みのお金が入ってきた。
「良かったね、でもメルカリで買うんやね、皆。」と娘にホクホク話す。
「今時は欲しいもんは直ぐにメルカリよ、だってさ新品は高いよー。」そうか耐乏時代の救世主何やね、メルカリは。
そう考えて、もっと出品するものが無いか、家の中を目を皿の様にして探している私である。
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