ニガテなあなたへ「ありがとう」【ポレポレな日常/第7回】
「掃除のおばちゃんと仲良くしたって、なんの役にも立たないだろ?無駄じゃん」上司から優しい笑顔でそう声をかけられた。毎朝会う清掃スタッフの方と挨拶を交わし、軽く雑談している姿をみていたらしい。キョトンとしたわたしの顔をみて、上司はさっきよりも優しい口調で「ちゃんと先を見て動かないと」と続けた。
当時の私はテレビ局で働いていて、そこで出会う人との繋がりはその後
仕事に大きな影響を与えることはわかっていた。そんな自分の立場を有効に活用できていな私を心配して、助言してくれたのだろう。
このエピソードを読んだ人は今、一体なにを感じるのだろうか。
「損得勘定で人付き合いを考えるなんてヒドイ!」
「そりゃそうさ。仕事なんだからシビアにいかないと」
「無駄かどうかは自分で決めたいよねぇ」
「無駄ってよくない?余裕ある感じ!」
「あぁ、いるいる。そんな大人にはなりたくないな」
「あぁ、いるいる。卒業したての若いやつに多いよね。考え方がまだ甘いんだよ」
「人が人に優劣をつけるだなんて悲しいな」
「掃除の人と雑談って人懐っこいね。なにを喋るんだろう」
「なにを感じるって、ありがちなエピソードじゃないの?」
永遠に出てきそうなので、このへんで。
どの意見も正しいし、偏っているし、心地よいし、嫌な感じだし、普通だし、個性的だし、納得できる部分がある。
ついでに、その言葉が出た背景を想像してみる。当然のことながら、同じ言葉だって理由は千差万別だ。理由はどこまでも枝分かれして、その先にはそれぞれの人生が数限りなく広がっている。
「仲良くするのは無駄」
わたしの思考回路からは絶対に出てこなかっただろう上司の言葉から、想像の世界が広がってゆく。
わたしはただ、毎朝会う清掃スタッフの方と笑顔で挨拶したかっただけで、お互いがニコニコとした1日を過ごせたらいいなと思っていた。いや、そんなことまでは考えてないな。ただ気持ち良い時間を共有したかっただけな気がする。
一方、上司はわたしのために言ってくれたのだろう。チャンスが無数に転がっているような場所で、それを掴める立場にいることに無自覚な私のために。優しく、自分のもっているノウハウを惜しみなく伝えたいと考えてくれたのだ。
若い頃は「なにもかも優しくとらえたい」と思っていた。当時のわたしが上司にこんなことを言われたら、カチンときたり傷ついたりしていただろう。それがどれほど横暴で優しさから程遠いことか、ようやく少しづつわかってきた。
人との会話は相手と話しているようで、そのほとんどは自分の内面との会話だと思う。相手の言葉を自分の中にあるどの引き出しへ入れるのか、無意識とはいえ自分で選んでいるんだなぁ。
だからこそ、引き出しをたくさんもちたいと思う。自分に余裕がない時は、引き出しを間違ってしまいがちだけど、あとで入れなおせばいいんだしね。
このエピソードを思い出すきっかけとなったムカシブログはこちら。