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透明な言葉と不安定な物語『九月と七月の姉妹』デイジー・ジョンソン

セプテンバーとジュライ

一軒の家。
野原のむこう、
生垣ごしにその断片。
薄汚れた白、
煉瓦の壁に埋もれた窓。
後部座席で手をつないで、
サンルーフからの光の矢。
わたしたち二人、
肩を寄せ合い、
同じ空気を吸っている。

『九月か七月の姉妹』第一部 冒頭

もう物語の中にいる。
世界が創られた。

この冒頭部。それだけで、涙が薄っすら溜まる。
久しぶりに感じた、物語に溶け込む。

本を手に取った時から、やばい感じがした。
この本は、一人きりで時間のある時に読もう。
そう思って、取っておいた。
外で雷が鳴ってる。雨も降りはじめた。
よし、読もう。そう思い、本を開く。

私は雨の音が好きだ。
雨の音を聞きながら本を読むのが好きだ。

端的な言葉が続く。
詩を連想させる文章。
詩のことは、あまり分からない。

透明でみずみずしい言葉と
歪んだ不安定な物語。
調和している。

手に取って欲しい本。
この本の、どんな推薦文も感想文もいらない。
何も考えず、本を開いて欲しい。
その後は、心配ない。


九月と七月の姉妹
著者 デイジー・ジョンソン
訳者 市田泉

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