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ここのところの広報とファンドレイジング雑感[2020前半](つぶやきに近いです)

不思議と、遠隔でのファンドレイジングがやりやすくなったなあと思う。訪問しないと失礼にあたっていた企業の方や個人の方が、このごろオンラインでの面会を積極的に申し出てくださる。大阪のいちNPOとしては、すごくありがたい。東京に行かなければまわらなかった案件や、降ってくることすらなかった案件に出会うことが増えたような気がする。一方で、話をもってきていただくだけの発信力や専門性、信頼がこちらにないと(先方の頭のなかに、想起してもらうようにならないと)、やはり「案件が降ってくることすらない」に逆戻りしてしまう。

13年前のことを考える。当時、広告にかけられる予算が1銭もなく影響力もなにもないNPOにとって、プレゼンスを上げるための戦術は「取材されること」と「講演に呼ばれること(など、会合も含め対面で会える機会を持つこと)」の2つだった。大きな予算がなくてもリリースを出して新聞に掲載されることで目についたし、講演に呼ばれたりなんらかの会合に呼ばれることでコミュニケーションをとることができた。日本の中心地は東京だ。マスメディア各社も経済力や政治力のある担い手も東京に集結している。だから、東京近郊にあるNPOはおのずとプレゼンスが高かった。

7年前、2013年に小さな小さな大阪の事務所のNPOにやってきたとき「こりゃたいへんだな」と思った。以前はちょっと電車に乗って数十分いけば厚生労働省の記者クラブにプレスリリースを撒けたのに。省庁にも全国紙にもアクセスできない。たまたま代表がイラク人質事件の当事者で、全国紙に載れるエピソードを抱えた人物だったから、全国紙に載ることは多かった。でも当時の彼はその過去の出来事からふっきれていなかったから、記者さんから質問を受けて、声をふるわせたあと言葉を失って黙りこくっていたとき「これはネタにしちゃいけないな」と感じた。(ちなみにいまは吹っ切れている)まだ小さいNPOだ。現場のプログラムも試行錯誤中なのだから、発信をしようとするのはやめよう。等身大の発信をしていこう。そうして、プレスリリースを書く手をとめて、予算0円の発信をしようとSNSをやりだしたのは2013年12月だった。2016年よりSNSでの発信が本格化した。

でも、ここ3〜4年を振り返ると「テレビや全国紙にのったあとにたくさん電話がかかる」という現象が一気に減ったと感じていた。「明日は◯◯テレビに出るから、電話受け取れるようにしとこうね」とスタッフに声をかけるタスクをわたしはまったくしていない。これは、うちの団体だけなのかもしれない(コンテンツとして弱いから影響力ないのかもしれない)と思って広報担当者コミュニティで他社のPR担当の人と話してみると「たしかにそのタスクしてない!」「テレビはまだ強いけど、製品によるね。CMとばしで録画されてコンテンツだけ見られるから」と返ってきた。

年齢層たかめの製品をあつかっている企業さんの広報担当者はこう話した。「テレビ広告がとにかく収入源。新聞はね、文字が小さいとか読んでいられないとかで、記事は読まれないんだけど"家族から新聞読んでいるふうに見せたいひと"はいるから、絵つきで文字がおおきいわかりやすい広告はけっこう見られるんだよ。それも、いつまでそうあるのかはわからない。」と。おもしろすぎる。対象者が違うのだ。テレビという媒体が対象とする人は、あまねく老若男女ではない。明確に対象者が研ぎ澄まされているのだ。TwitterとかInstagramとかとおなじように。

冒頭でわたしは「東京に行かなければまわらなかった案件や、降ってくることすらなかった案件に出会うことが増えたような気がする」と書いた。でも、広告予算が一銭もないNPOにとって、「東京近郊にいるかどうか」・「新聞・テレビ上での発言力があるかどうか」が左右していたのに、それがくずれてきている。10数年前と比べて、一気に違う軸が立ち上がったように見える。

だからこれからはウェブメディアなんだよとかソーシャルメディアなんだよとか、そういう結論に達したいわけじゃない。(5年前くらいは「これからはオールドメディアじゃなくてソーシャルメディアだな」って思っていたけど、そういうことじゃないと気づいた。)もちろん、ウェブがもたらしたフラットさは必ずある。テレビがあまねく老若男女の媒体でなくなり、個々人が多大な予算なく発信できるようになったのはウェブと端末の力だ。でも、ソーシャルメディアが市場だ!とおもってしまった瞬間に、日本全国の多種多様なマーケットを見誤ってしまう。

大事なのは、そのひとりの人にとっておおきな影響力を放つ媒体はどれなのか?を考えて、それごとにその企業の価値観や製品と相性のよい媒体とマッチさせて、プレゼンスを放つことだ。ここで言う媒体は「媒体(メディア)」というよりも、「コミュニティ」という言葉が近い。コミュニティって言っちゃうとなんかのサロンみたいだけど…なんかこう、人が集まるところみたいなかんじだ。媒体ごとにそれぞれのかたちに切り出して、コミュニティの文脈にあわせる。どのコミュニティからどんな好意や批判を向けられそうかを把握して、リスクマネジメント広報も攻めの広報も両刀づかいしていく。リスクマネジメント広報においては、「自分たちの主戦場ではない他のコミュニティの論調」も把握して一手をおいておく必要があるから、Twitterがメイン媒体であってもInstagramの研究もTiktokの研究もテレビの研究も忘れないほうがいい。

"広報担当者"に求められる能力が大きく変わったような気がする。そんなつぶやきです。



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入谷佐知さっちん
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