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1.泣き虫甘えん坊くんと”にぃに”

子どもたちの言動にキュンとさせられることが本当にたくさんあるのですが、その中でも私にとってキュン致死量エピソードをいくつか紹介させていただきます。(シリーズ予定)

【1.泣き虫甘えん坊くんと”にぃに”】

注射が大嫌いな男の子の幼稚園児(末っ子)が泣きながらやってきた。

しくしく、という形容詞がピッタリな泣き方。
私「どうしたの?」
母「どうせ泣いて逃げるの分かってたから、さっき家を出る時に注射(予防接種)に行くって初めて言ったんです。」
兄たち「注射、怖いんじゃん?」と弟を小馬鹿にしたように。
お兄ちゃんたちは余裕で問診を終える。

そのころの末っ子くんはというと、
「…うっ、……っ」
次第に嗚咽混じりになっている。

「イヤで仕方がない、本当は絶対注射なんかしたくない!
でもどれだけ自分がイヤって言っても『じゃあやめようか』とはならない。
これはそういう空気だってことは、悔しいけど分かる。
でも、だからって、すんなり『はいそうですか』なんて言えるわけないじゃないか!
イヤだ。怖い。注射したくない。
本当は泣きたくないのに泣いてしまう。悔しい。
でもイヤだ!
お兄ちゃんたちみたいに『全然平気』って言いたい…。でも無理…」
そんないろんな感情がごちゃ混ぜになってるんだろうなっていう感じ。

「にぃに……」
お母さんに言ってもどうせ「はい、打つよ。」と言われることが分かっているからか、末っ子くんの口からは、お兄ちゃんを求めて縋るような声が出た。

「大丈夫って」と長男くんは弟の顔を覗き込み、背中を軽く押して、診察室へ一緒に入ろうとする。
すると
「…ぼくイヤだっ…ぼく最後がいいっ…!」
末っ子くんは泣きながらお兄ちゃんの腕をすり抜け、逃げ出してしまった。

長男→次男→、と注射を済ませる中、注射を終えた長男くんが隣の部屋の隅にうずくまって「イヤだ…イヤぁ…うっ…うぅ…」と滝のように涙を流している末っ子くんを発見したようだ。
お兄ちゃんは目線を合わせるように自分もしゃがみ込んで、弟の両手を優しくすくいあげる。
「イヤだよね。怖いよね。でも大丈夫って。ね?ほら、いこ?○○ならできるよ。大丈夫。」
なだめるように、諭すように。
「うっ…でも…にぃに、イヤだぁぁ…」
変わらず濁流のような涙と鼻水を流しながら、それでも真っ直ぐ”にぃに”の目を見つめる末っ子くん。その瞳に縋るように、訴えるように。

偶然通りかかってこの二人の姿を目にした私は胸が苦しくなった。

お兄ちゃんの説得は15分ほど続いただろうか。

その間兄は弟の頬を両手で包み、優しく涙を拭ってあげたり、時にちょっと乱暴に弟の服を引っ張って鼻水と涙をグイっと拭いたり、ハグしたり、よしよししたり…。
「だって、でも…イヤだぁぁ……」
といい続ける弟に、決して強制せず、決して声を荒げず。


もう何度目かも分からない、お兄ちゃんの「大丈夫。いこ?」の声に、ついに弟が首を縦に振った!


でもやっぱり、いざ打つ時になると、

「イヤぁぁぁぁぁあああああ!」

泣き叫んではいたけれど、無事注射完了。

すぐ隣にお母さんがいたのに、
「あぁぁぁぁぁああ!」と泣きながら
末っ子くんは“にぃに”に抱きついた。
弟の大絶叫にも眉一つ動かさず、診察室の端でスマホを見ていた“にぃに”に。

「なんで俺?」

と言いながら、弟を抱き留め、頭を撫でてあげる長男くん。

私はこの“にぃに”のファンになった。



後日、またこのきょうだいが注射に来た。
今回の末っ子くんは泣いてない!しっかり八の字眉ではあったけど。

八の字眉で「大丈夫。怖くないもん。」と見え見えの強がりを言うところが微笑ましい。
でも、ここで笑っては彼のプライドを傷つけてしまうので、しっかりおだてる私。
すると、すかさず横から「どーせ泣くでしょ」とお兄ちゃんたち。

「あぁあぁ、ほら!見る見るうちに弟くんの目に涙が溜まってきたじゃん!頼むよお兄ちゃんたち!今日はこの前みたいに優しくないの!?」と私はヒヤヒヤ。


ただ、今回の末っ子くんはひと味違った。
“にぃに”の説得劇は必要なく、泣きベソかきながらもスムーズに注射完了!
成長した!!!!

と思いきや、、、


「うっ…っ……」
注射を終えた末っ子くんの目からは耐えきれずポロポロと涙が溢れた。
そして、彼は静かに診察室を出て行く。
「怖かったけど、がんばったね」と声をかけようと彼を追いかけて行った私が目にしたのは、
待合室のソファで、無表情にスマホを見ていた“にぃに”の隣に、ゼロ距離でそっと座る末っ子くんの姿。

“にぃに”は動かない。
目線も画面に向いたまま。
言葉もかけない。

弟くんはそんなお兄ちゃんの邪魔をしちゃいけない、と思っているのか、少し伺うように、でもきっと耐えられなくなって、“にぃに”の右肩にそっと頭を預ける。

「うっ…っ……」
しゃくりあげる末っ子くんの嗚咽だけが響く。(母と他のきょうだいは診察室で先生とお話し中)

すると、お兄ちゃんの右手がちょっと面倒くさそうにスマホから離れ、弟くんの前を通って、右側から小さな頭をぽんぽん。
そのままその頭を自分の右肩に抱き寄せた。
目線はひと時も画面から離すことなく。
眉ひとつ動かさず。
口角ひとつ緩ませず。
弟くんは目を閉じ、その小さな両肩からは力が抜け、次第に呼吸は落ち着いていった。



これが“愛”ですか?

「この人だけは自分を見捨てないでいてくれる」そんな思いが、人間の根本的な“強さ”につながるような気がします。
挫折した時や「もうダメだ。終わった…詰んだ」そういう状況になった時に、しなって踏ん張るか、ポキっと折れるか、その違い、とでも言いますか。

「想われている強さ」
「あの人は自分のことを大切に想ってくれている、という実感が与えてくれる強さ」
というのか。。

「この子は自分が見てあげなきゃ、守ってあげなきゃ」「この子は自分を必要としている」そう思うことで、自分一人のとき以上の力を発揮できることもあると思います。末っ子くんにとって長男くんがありがたい存在であると同時に、長男くんにとっても、末っ子くんの存在がいい方に働いている場面も少なくないと思います。

一般的に、男兄弟の中で育った男の子より、女きょうだいの中で育った男の子の方がモテがちですが、この長男くんはモテるだろうな、、と個人的な感想も挟んでおきます。笑

本当に、いいものを見せていただきました。ありがとう。



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