見出し画像

思い出の味


朝、雨戸を開けたら、ピースと目が合った。
小屋から出てきて、さんぽに行く気満々だ。

「ちょっと待っててね。」

声をかけて、一旦窓を閉める。

目が合う。
そのままそぉっと障子を閉める。

『ワン!』

やっぱり呼ばれた。
今日は、わたしがさんぽに行くと知っている。


ピースの賢さは格別だ。


今日どうして、わたしがさんぽだとわかるのか。

それは、家の車が無いから。
車が無い時は、父がいないとわかっている。


今日、朝からいないのは釣りに行ったから。
朝3時に起きて、釣りに出かける。

狙うのは、カツオとブリ。
アジやサバなんかが釣れる時もある。


さて。今日は何か釣れるのかなぁ。




用事を済ませて帰ってきたら
息子がお昼を食べていた。


『塾行く前に、さばく時間あるかな。』


食べ終わったら、そのままキッチンに立つ。
クーラーボックスから魚を出してきた。


画像1


「45いってるんじゃね?」

『あとちょっとかな。』

二人で話している。


イナダだ。


ブリは

ワカシ→イナダ→ワラサ→ブリ

と名前を変える。

日本全国名前が違うから面白い。
(地元での言い方をぜひコメント欄にどうぞ!)

上の呼び方は、関東の呼び方だそうだ。


『ウロコとワタだけ取ったらいいよね。
食べる時、さばくわ。』

あっという間に下処理をして
またクーラーボックスに戻した。


クーラーボックスには海水が入っている。

海水に保冷剤や氷を入れておけば
冷蔵庫並(時には冷蔵庫以上)に冷える。


そのことを、息子は経験で知っている。


塾に送りながら、息子に頼まれる。

『塾の帰りに、足りない食材買って帰るわ。

夜、俺さばくから鍋の用意してくんない?
さばき終わったら風呂入りたいんだよね。』

「いいよー。」



夕方、リハビリに行って帰ってくると
魚がさばいてあった。


『魚が新鮮すぎて、皮がひけんかった。』

多分、途中で頭に来てしまったんだろう。
今は、落ち着いた様子の息子が話しかけてくる。

「鍋の用意、するね。
これ、入れたらいいの?」

残してある頭と背骨を指差す。

『頭、割るわ。ちょっと待って。』

半分に割ってくれた。


『もう一回、皮ひいてみるわ。』

気を取り直した息子が、残った皮をひく。


わたしは、鍋用の野菜を切る。

白菜を薄く切りたくて、斜めに切っていたら
息子の使っていた包丁がめっちゃ切れた。

いつもなら指に当たっても切れないくらい
刃が切れないのに。

魚をさばくのに、研いだんだろう。

左手の親指がすーっと切れた。

白菜が赤く染まる。
傷口をおさえても血が止まらない。

あーあ。やっちゃった。



割った頭と背骨、昆布を入れて水を張る。
昆布が開いたら、火にかけた。

だんだん火が入り、あくが出てくる。

あくを取り
みんなが来るのを待つ。


そろそろかな。

野菜を入れて、煮る。
卓上コンロを用意してもらう。

冷蔵庫から、さばいた魚を出す。


食卓に並んだ。ぶりしゃぶだ。


画像2


息子が色んな厚みに切ってくれているので
まずは厚い身を刺身で食べる。


画像3


美味い!!


『新鮮すぎて、魚の味がしないね。
俺はこれの方が好きだけど。』

「血合いすら魚臭くない。」

『こんな新鮮なの、お店に売ってないからね。』

「今日釣れたの。あの浜で二人だけだからね。」

『貴重な一匹ってわけだ。』

「明日まで置いた方がよかったんじゃない?」

『いや。俺はこの方が好き。』


薄い身をしゃぶしゃぶして食べる。


画像4


そして、また厚いのをそのまま刺身で食べ…


3人でいくら食べても無くならない。


『俺、もう食えない。腹いっぱい。』

「わたしもお腹いっぱい。」

『残り、食うよ。』


娘だけ食べない。生魚は嫌いだから。笑


「こんなに新鮮で美味しいのに。
ちょっと食べてみたら?」

と父が言う。


首を横にふる娘。




去年の冬、息子が食べたいと言い出した
ぶりしゃぶ鍋。

こんなに美味しい食べ物は
なかなか無いと思う。



父が釣り、息子がさばき
母が鍋の用意をする。


こんな連携プレイで出来上がる
最高に美味しい料理は

きっといつの日か思い出される
思い出の味になるんだろう。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?