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告知 // キセキ3
この記事は、こちらのマガジンの記事です。
2018年8月、38歳のときです。地元の病院で乳がんの精密検査を受け、ついに検査結果を聞きに行く日がやってきました。
検査結果を聞きに行く
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これまで体が丈夫で、親からも「健康だけが取り柄」と言われてきた私は、まだこう思っていました。
「どうせ、大したことはないだろう」
大した余裕です。その日、夫は仕事でしたので、結果は一人で聞きに行きました。
告知
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診察室では、初対面の先生が迎えてくれました。とても物腰が柔らかく、雰囲気の良い方です。8月に出逢ったので、仮に葉月先生とします。
「はじめまして。乳腺外科の葉月と申します」
この瞬間、私は胸騒ぎを感じました。なぜなら、普段風邪や腹痛などで病院にかかる際、ここまで丁寧に自己紹介いただくことは、あまりないからです。嫌な予感がする……。
「検査の結果ですが、がん細胞が検出されました。ステージは、0か1だと思います」
……私は頭の中が真っ白になり、自分が「がん患者」だったという事実を、その場では受け止めることができませんでした。
乳がんの状態
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葉月先生は、想定される私のがんの「ステージ」について丁寧に説明してくれました。
・ステージ0「非浸潤性乳がん」
がん細胞が、乳管内にとどまっているもの。
・ステージ1「浸潤性乳がん」
がん細胞が、乳管の外へ浸潤しているもの。直径は、2cm以下。
そして後日、病変の広がりや転移の有無を調べるため、MRIとCT検査を受けることになります。その結果、がん直径は約1.5cm、現時点ではリンパ節転移なしであることがわかりました。しかしここから先は、実際に手術してみないとわかりません。
MRIの画像を見せてもらうと、しこりは2箇所ありました。乳頭付近には小さなしこりが、そして奥のほうには大きな丸いしこりが、ハッキリと写し出されていました。
私が触っていた乳頭のしこりは、がんではない可能性が高いとのことです。1.5cmの乳がんの正体は、外からでは触れない、大きなしこりのほうでした。
告知の結果を家族に伝える
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告知があった日の話に戻ります。夫は仕事中だったためLINEで「乳がんだった」と送り、母には電話で伝えました。
夫は昼休みに告知の結果を読んだ時、その場にへたり込んでしまったと言います。
私の母は電話口で「かわいそうに……」と、涙声になっていました。
私はといえば……あまりにも告知の衝撃が大きすぎ、まだどこか他人事のようでした。信じられないことに、つまらない人生の終わりが見えたことに対し、わずかな安堵感すら覚えていたのです。母と違い、涙は出ませんでした。
予定していたライブには行くことに
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告知があったちょうどその日は、偶然、大好きな矢野顕子さんのライブを予約していた日でした。
告知を受けた後、私はどうすればよいのかわからず、一人家にこもっているのも嫌でした。そのため、予定を変えずにライブへ行くことにしました。
仕事が終わった夫と落ち合い、ライブ会場である、青山のブルーノート東京へ。ここでの矢野顕子さんのライブは、10年以上前から行っており、通い慣れています。こんな時だからこそ、安心して行ける場所だったのかもしれません。
When I Die
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ライブはいつものように素晴らしく、私たちもそれに引き込まれていきました。
すると突然、「When I Die」という曲が演奏されました。それを聴いた時ようやく……昼に聞いた告知が一気に現実味を帯びてきたのです。
「私が死ぬとき、君は泣くだろう(筆者訳)」という歌詞に、私はぼうぜんとしながら、横に座っている夫の顔を見ました。夫は例えようのない、とても複雑な表情で、目を潤ませていました。
いくら早期がんとはいえ、放っておくと命に関わります。誰にでもいつかはやってくる「死」を、この時はっきりと自覚しました。それは、普段は意識しない深い領域……生物の本能として感じる恐怖感でした。
「長生きはしたくない」という考えは、こうしてやすやすと打ち壊されたのです。
※この記事の内容は、2022年時点の個人の経験や感想に基づくもので、特定の組織や団体などの意見を代表するものではありません。また、挿絵の画像はすべてイメージであり、実在する組織や人物とは関係ありません。
※この記事を治療方針などの参考にされる場合は、必要に応じて専門家に相談するなど、ご自身の責任と判断によって適切なご対応をお願い致します。
今日の音楽
矢野 顕子 - When I Die
私の死後にも、大切なひとのために何か残せないだろうか?