②不機嫌禁止ルール《シングルマザーのサクちゃん家の子育て》
あーちんが小学校に行くようになったとき、それまでとはちがい、学校やともだちとの関係ができて複雑になるので、どんな影響があるのか見ていた。
これはもちろん学校やメンバーによるのだけれど、わたしがみていて感じたのは、こどもたちがなんだかイライラしているように見えた。
教室ではイヤなことばが飛び交い、まちがえたことを言うと、すぐに一斉に(ことばで)叩かれる。
こどもたちにはそれぞれの背景があり、原因はわからないけれど、とにかくなんだかよくないな と感じていた。あーちんもつらそうだった。
「イヤなことばが教室に飛んでいると、自分に向けたものじゃなくても、落ちているトゲを踏んでしまうといたいし、トゲが刺さらないようにみんながどんどんかたくなっていくのがいやなの。かたいとトゲがはねかえってまた誰かに刺さるから」
「あーちんは、ゼリーみたいにポヨポヨになりたい」
当時、よく彼女はそう話してくれた。
学校でそうやってすこしずつガマンをしていたのか、ある日、「イヤなことがたまってイライラして、家の中では忘れて笑っていたいのに、やつあたりしそうになるのがいやなの」とポロポロと涙を流して言った。
こどもがなにかしらの理由で落ち込んでいるときに、わたしができることは、直接解決しようとすることではなくて、家のなかを安心できて笑えるような場所にしてあげることだ。だけど、そのことが彼女にガマンをさせては元も子もないと思って、話し合った。
わが家の唯一のルールは「不機嫌禁止」なので、イヤなことがあったときに、イヤな気分をひとにぶつけてはいけない。ただ、ガマンするのではなくて、何のどの部分がイヤなのかをよく考えて、わたしに話したらいい。と、いつも伝えていた。
やつあたりではなくて、わたしに伝えるように話をするには、いちどよく考えないといけない。
どうしてじぶんはイヤな気持ちになったのか、あの子はどうしてあんなことを言ったのか、想像してみる。だいたいのことは考えてもわからないし、正解などないけれど、想像することはできる。
それから、「じぶんのしたことは、いいこともわるいことも必ずじぶんに返ってくるよ」ということも、伝え続けている。
イヤな態度をしたら相手もイヤな気分になってしまう。それをまたイヤな態度で返すと、そこに負の連鎖がおこる。
それを避けたいなら、イヤなことをされたときに、その人に罰を与えようとしなくていい。あーちんが指摘したり罰を与えたりしなくても、必ずその態度はいつか本人に返ってくるから と言った。
それではどうしたらいいのか、いっしょに考えて出した答えは「自分はしない」という方法だった。
ただ飲み込むガマンや無関心になるのではなく、負の連鎖を止めるための挑戦だ。
それは、まさにあーちんの考える「まるく柔らかいポヨポヨのゼリー」だった。
そうしてまるく柔らかくいたら、すこしずつともだちができた。きっとその子たちも同じようにイヤな気持ちだったから、安心して寄ってきてくれたのだと思う。
わたしはこどもに、全員と仲良くするよりも、どんな相手でもひとりひとりのことを思いやれる人になってほしい。
なぜなら、それはおとなになってもまったく変わらなくて、ひとはだいたいにおいてわかりあえないからだ。
わかりあえない前提で、それでも相手のことを思うことはできる。無関心や思い込みで判断するのではなくて、どんな人もまず受け入れられるようになってほしいし、わたしもそうありたい。