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シングルマザーのクッキー屋の話【仕事とわたしのこと⑩】

わたしは専門学校を卒業してから、お菓子の業界でばかり働いていて、友人や知人の職業もお菓子屋さんや飲食店のひとばかりだったので、いざ独立して自分で何かをやろうと思った時に、さてどうしたらいいのか、一個もわからない状態だった。
会社で働く以外のやり方があることは知っていたけれど、近くにそんなひともいないし、何もわからなかった。
会社を辞めることが決まってから、退社まで2年間の猶予があるとはいえ、途方に暮れていた。

そんなとき、わたしがよく通っていたカフエマメヒコで店員さんとおしゃべりしていたら、たまたまスタッフを募集中で、社長の井川さんが毎日面接をしているという話が出た。
井川さんと会ったことはなかったけれど、お店のブログを読むかぎりとてもおもしろくとてもヘンな人だということは知っていた。
「うちの社長の面接で、泣いちゃう女の子が多いんだよ。興味ないと10分で終わったり、2時間話したりするし、大変なの」と店員さんが言うので、なんだかものすごく興味をもって、その場で店員さんに「井川さんに、わたしはマメヒコで働かないけど、面接だけしてくださいって伝えてほしい」と言った。

数日後、「いいよ、おいでよ」という言葉に甘えて、面接を受けにいった。
その日は3〜4時間は話をしたのだけど、いま思い出しても本当に楽しかった。
井川さんのような自分の考えがある人と、この規模で一緒に働くには、わたしはいかに使いづらいかわかるので、お互いに良くないから、わたしはここでは働かない、と宣言したうえで、仕事の話をたくさんした。
自分のそれまでの仕事を客観視して話したり、それについて「なにそれすごいじゃん」とか「そんなのダメじゃん」と言ってくれる人は誰もいなかったので、どれだけ狭い世界のちいさな価値観の中で働いていたのか思い知らされたし、井川さんの、何の見本にもならない、けれど何やってもいいんだなと教えてくれるその行動力に、自分の未来への楽しみをもらった。

わからないことは誰かに聞きにいけばいい、けれど何がわからないかもわからないときは、行動するには時期尚早なので、とにかくおもしろいと思う人の近くにいることが最短距離だと思った。
憧れの目線ではなく、その人のそれまでをなぞって巻き戻して過去に戻って、そこからじぶんの足りなさや欲しいものを知る。

今でこそわたしも、時々だれかに独立の相談をされたりするけれど、わたしの例を話しても「そんなのサクちゃんだからできるんだよー」と言われたりする。
当たり前だよ。わたしだからできることしかしてないんだから。あなたにもあなたにしかできないことあるはずでしょう、と思う。

そして同時に、それよりももっと前の段階(年齢や経験が)で「自分にしかできないことをやる」というのもまた難しいことだと思う。
誰にでもできることを全力でやって、やりたくないこともやって、その中でもなんとなく自分の好きなやり方を知って、はじめて得意なことは浮かび上がってくるのだと思う。

みんながやっていないこと(敵が少ない)を選ぶことが「自分にしかできないこと」ではないし、ほんとうに自分にしかできないことを探すのも一生かかっても足りない(そんなものないかもしれない)から、時間を忘れて夢中になれることや、自分がやることがすんなり想像できること、他人からするとつらくても自分にはつらくないこと、を自分の内側から見ることが大事なんだなと思う。

仕事へのいちばんの褒め言葉は「それ、向いてるねー!」だ。
自分にそれが言えるかとどうか、いつも考えている。


長くなってきたので・・・初回はこちらです。

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