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あーちんと仕事のこと

わたしの娘あーちんは中学2年生で、1週間の職場体験という取り組みで、10代続く庭師のもとに師事して働いている。早朝から、苗木を運ぶ手伝いや職場の掃除、焼却炉の掃除、近隣の住宅周りの掃除などをしているそうで、とてもいい経験だなと思って見ている。

こういう取り組みを、文科省は「キャリア教育の推進」として、学校と社会のつなぎめをなくそうとしているのだけれど、大勢への教育に対して、社会にでることは「個」なので、解決はなかなかむずかしいのだろうなとも思う。


あーちんがまだちいさい頃、ひとりっ子の彼女がすきなあそびは「図鑑をよむ」と「絵をかく」ことだった。ただ、それよりもよろこんだのは「わたしにしごとをたのまれること」だった。どんなにちいさなことでも、彼女を頼りにして「おねがい、これやってほしいんだけど、できる?」と頼むと、キラキラした目でやってくれて、しごとを終えると誇らしげに報告してくれた。わたしはそれを見て盛大に褒め、とてもたすかったと感謝し、よろこんだ。

仕事の内容は歳を重ねるごとにレベルが上がり、同時に好き嫌いもでてくる。あーちんの場合はよろこんでやるのは、料理と、買いものと、だれかのために絵を描くことで、そんなに好きじゃなさそうなのは掃除や食器洗いだった。


たぶん、しごとの原点はそれなんだと思う。

誰かがよろこぶこと、自分ができること、そのあとで好き嫌いがあるのだろう。

「すきなことを仕事に」とよく言うけれど、仕事の入り口をそこにしてしまうと、入り口をまちがえてはいけないと思って、入り口に立つことすらこわくなる。だから「だれかがよろこぶこと」を入り口にしたらどうだろうか。

あーちんの例を思い出すと、これが得意なんだな、とか、好きそうだな、とわかるのは、本人ではなくてわたしだった。本人は向き不向きなど意識していない。とくに「向いていること」は、できないひとのことがわからないからピンと来ない。常にまわりの人が先に気がつくのだと思う。


わたしも、こどものころに「自分が何が得意か」を自覚していなかった。なんとなくできるような気がしていても、だれかに褒められたり認められたりしなければ、自分で認めることはできなかった。逆に、なにかイヤなことを言われたり反対されたりしたことは、それがたったひとりの意見であっても、自分が得意なこととしてあげることはできなかった。

お菓子作りの専門学校にすすむときも、自分が向いているとはすこしも思っていなかったので、先生も自分自身も小首をかしげながらの進学だった。別に特別な何かできることがあるわけでもないし、向いていなくてもイヤなことでもやるのが仕事で、専門学校でひとより早くはじめたらそれでいいんじゃないか、くらいの感覚だったと思う。だれかによろこばれる感覚もなく、じぶんも心から楽しいと思えないことを選んでいた。どこかで仕事を「罰」のような「イヤなことをガマンしてすること」というものだと思っていたのだと思う。

それは、今思うと、両親が仕事のことを話すときに「いやなもの」「ガマンしてしている」こととしていたからだとわかる。本音はわからないけれど、こどもに見せる面はそうだった。「仕事で疲れているんだから」「仕事しないとこどもにお金がかかる」などのよくある些細なグチだったけれど、親の仕事への態度から、こどもの仕事観への影響は大きいと思う。


わたしは親として自分ができることとして、「仕事をいやなものに見せない」というのを決めていた。「いやなものにこどもの自分よりも時間をつかう」と思われたくなかった。

もうひとつは「いいと思ったことをとにかく褒める」というのも決めていた。アホみたいに褒めたおした。


自分が得意なことを自覚をするには、身近なひとに教えてもらうのがいちばんいいと思う。それを親ができるのがいいけれど、そうじゃなくても、おとなになってからも、その人の得意なことやいいところは周りの人の方がよく見えるから、わたしはどんどん伝えたいし、もっと褒めたい。

「すきなこと」は、自分でわかっている人はいいけれど、気づかせようにもそれは本人にしかわからない。「得意なこと」「たすかったこと」をまわりの人が本人に教えてあげるような仕組みがあったらいいのにと思う。評価ではなくて他己紹介のように、いいところだけ教えてあげたい。それを見て、「えーわたしってそうなの?」と照れながらもその気になって、仕事を決めたらいいと思う(あくまでも入り口として)。それをそのまま面接で提出したらいい。


あーちんは、こどものころに得意だったことがそのまま、食べものや動物の絵を描いて、すでに仕事になっている。仕事の自覚はあまりないかもしれないけれど、とにかく誰かがよろこんでいることはわかっていて、それだけが原動力になっている。

彼女に、今回の職場体験で学んだことはなにか聞いてみたら「すきなところは静かに仕事に集中できるところと、ありがとうと言われることで、つらいのは人に気をつかうところ。どんな仕事でもきっとそうだね」と言っていた。何をやるかはそんなに関係ないと。

わたしよりおとなかもしれない。


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