sabuji_tanaka
覚えている。いや、覚えていると思い込んでいた。今となっては真実が何なのか知る術はなく、数分前まで記憶と呼ばれていたものは、ただの妄想になりかけていた。 別に悪意はなかった。そもそもその頃の私の中には、善意も悪意もなかった。手の届く場所、目で見える景色だけが「今」だった私は、影の中に行ってしまった彼を確かめるために、投げた。投げると、飛んでくる。だからまた投げる。さっきよりも少し大きいのを投げる。もう少し大きいのが飛んでくる。きっとそれが嬉しかったのだ。だからとびきりのやつを
緩やかな上り坂を、まるで登山をするように強く一歩一歩踏みしめながら私は歩いていた。厚底のスニーカーを、そこまで強くアスファルトにめり込ませなければならないのには、明確な理由があった。 「ごめんね、」 いつもそれだけが聴こえてくる。わかっている。その前にも、きっと後ろにも、言葉にならない思考が永遠と続いていて、本当はそれを伝えたいこと。そのごめんねは、半分は私に、半分は自分のためな事も。 私は何も言葉にできないから、ただ言葉を心に流している。そうすると心は、何も話していないの