短編映画を撮りたい。(初稿)
Scene1
彼女は煙草を咥えていた。
雪化粧となった駅のホーム。その先端の喫煙所で煙を吐いていた。
「さみぃなぁ…」
そう言ってやって来たのは煙草を咥えている男である。ベージュのコートに身を包まれた高身長な男は、気だるそうに火をつけた。大きな荷物を携え、深いため息とともに煙を吐いている。2人の口から吐かれたマルボロの煙は境目を無くしフワフワと空へ消えていく。
Scene2
2人は特段何かをしゃべるわけではなく、ただただ煙を吐いていた。そんな静寂を破ったのは男の携帯電話であった。
「あぁ、わかった。」
とだけ言って彼は電話を切った。そして彼女の方を振り返って言った。
「そろそろ時間だよ。」
「分かってる。」
彼女は小さく答えた。俯いたのはうるんだ眼を隠すためだった。それでも声がかすれていたのは隠せなかった。こんな弱い姿を見せたくはなかった。
「早く行きなよ。」
Scene3
「あ~!いたいた!!ごめんね遅くなって!」
静寂だったホームに響く1人の女性の声。その視線の先は例の男である。
「間に合ってるから大丈夫。」
男は優しく言うと小さくキスをした。ホームに放送が流れる。笑顔だった女性の顔が少し寂しそうになった。
Scene4
男を乗せた列車はカーブの向こうへ消えていった。さっきまで男を見送っていた女性は、吹っ切れたようにホームを先端へ歩きだした。女性は喫煙所に着くと、タバコに火をつけようとした。しかしそのライターはカチッと音を立てるのみであった。
「火、つけましょうか?」
「すみません。ありがとう。」
「代わりに1本もらえませんか?同じの吸ってるんですけど丁度切らしちゃって。」
「いいですよ。」
2人の口から吐かれたマルボロの煙は境目を無くしフワフワと空へ消えていく。
「ずっと赤マルなんですか?」
「そうですね、高校の時からずっと。それじゃあ失礼します。」
女性はそう言うと足早に立ち去って行った。
Scene5
ホームの喫煙所はまた彼女だけになった。赤マルの吸い殻が何本か押し込められてその役目を終えている。彼女は男が急に煙草を吸いだした時のことを思い出した。
「ストレスにやられててね。」
そういいながら彼はせき込んでいた。
彼の好きなものは、彼の好きな人が好きなものだった。彼女は、染められたものに染められただけだったのか。くだらないものを愛し続けていただけだったのだろうか。しょうもないや、煙草の火はもう消えったていうのに。彼女は箱ごと灰皿にねじこむと、お幸せにとつぶやいてその場を後にした。
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