2023/12/16(土)のゾンビ論文 無気力はゾンビ?
ゾンビについて書かれた論文を収集すべく、Googleスカラーのアラート機能を使っている。アラート設定ごとに、得られた論文を以下にまとめる。
アラートの条件は次の通り。
「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -biolegend -gender -narrative -Netflix -network」
「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -biolegend -gender」
「zombie -firm -xylazine -biolegend -DDoS」(取りこぼし確認用)
検索条件は次の意図をもって設定してある。
「zombie」:ゾンビ論文を探す
「-firm」:ゾンビ企業を扱う経済学の論文を排除する
「-philosophical」:哲学的ゾンビを扱う哲学の論文を排除する
「-DDoS」:ゾンビPCを扱う情報科学の論文を排除する
「-xylazine」:ゾンビドラッグに関する論文を排除する
「-biolegend」:細胞の生死を確認するゾンビ試薬を使う医学の論文を排除する
「-gender」:ジェンダー学の論文を排除する
「-narrative」:ゾンビ映画・小説などを評論する論文を排除する
「-Netflix」:ネトフリ限定ゾンビドラマなどを引用する論文を排除する
「-network」:とにかく情報科学の論文を排除したい
検索条件2は、最後の三つの検索キーワードがないため、これらが排除した論文がねらい通りかどうか確かめる目的がある。また、検索条件3では「-philosophical」と「-gender」という一般性の高い検索キーワードで不必要にゾンビ論文を排除していないかを確かめる。
今回、それぞれのヒット数は以下の通り。
「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -biolegend -gender -narrative -Netflix -network」一件
「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -biolegend -gender」二件(差分一件)
「zombie -firm -xylazine -biolegend -DDoS」六件(検索条件2との差分は四件)
検索条件1は教育学が一件だった。
検索条件1「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -biolegend -gender -narrative -Netflix -network」
未完成の冒険: TOEIC 試験のための教育ゲーム
一件目。
原題:Incomplete Adventure: An Educational Game for the TOEIC Exam
掲載:2023 15th International Conference on Information Technology and Electrical Engineering
著者:Surawee Tedsakorn と Nattapong Aksaralikitsanti、Sirion Vittayakornの三名
ジャンル:教育学
TOEIC学習にゲームを勧める論文。TOEIC対策は巷に溢れているが悉くつまらないと宣言していて痛快。
いくら何でもディスりすぎでは…?
zombieの単語は"TOEIC Zombie"という文字列で出てくる。TOEICの学習用に作成されたスマホゲームらしい。経験則から言って、そういう学習ゲームも大して面白くないのだが…。
ジャンルは教育学。しかしなぜ教育系の論文がIEEEに?
検索条件2「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -biolegend -gender」(差分なし)
検索条件1との差分を調べ、「-narrative」「-Netflix」「-network」が排除した論文がねらい通りだったか確認する。
ChAos
原題:ChAos
掲載:Western Kentucky Universityに提出された論文
著者:Damon Stone
ジャンル:?
「-network」で排除。著者が中学生の時に書いた『ChAos』という小説の改訂とその解説…?もちろんゾンビが出てくる小説。
検索条件3「zombie -firm -xylazine -biolegend」
上記の条件で誤ってねらいのゾンビ論文を取りこぼしていないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。ただし、ゾンビ企業とゾンビドラッグ、ゾンビ試薬、ゾンビPCは排除されるように設定してある。
構想可能性、クリプキーンの同一性、そして s5: Jonathon VandenHombergh への返答
原題:Conceivability, Kripkean Identity, and S5: A Reply to Jonathon VandenHombergh
掲載:Erkenntnis
著者:Peter Marton
ジャンル:哲学
「-gender」で排除。しかしアブストラクトから想像するに、哲学的ゾンビを扱っているようだ。
永続的なピラミッド:マリー・コレッリのジシュカにおける宗教の箔としてのエジプトの創造を探る
原題:The Persistent Pyramid: Exploring the Creation of Egypt as Religious Foil in Marie Corelli's Ziska
掲載:How Pharaohs Became Media Star
著者:Sara Woodward
ジャンル:歴史学
「-gender」で排除。エジプトの歴史や文化を紹介する論文?
zombieは"zombie hypotheses"(ゾンビ仮説)か"zombie fact"(ゾンビ事実)という文字列で出てくる。ゾンビアイデアの亜種で、要するに「すでに議論されて棄却済なのに再び日の目を浴びた仮説・事実」をそう呼んでいるだけのこと。
死を意識し、ミイラを作って死者の蘇りまで実行する古代エジプト文化を説明するのに、ブードゥー教由来の「ゾンビ」という単語を使うのは非常に気持ち悪い。しかし「ミイラ仮説」だと蘇ることを前提としているように聞こえるので、ちょっと違う。古代エジプトに「ゾンビ」に相当する概念はないものか。
撤退:ジョゼ・サラマーゴの視覚とルース・オゼキの『あるときの物語』を通して未来への感覚を再考する
原題:Withdrawal: Re-figuring Sense for the Future Through José Saramago’s Seeing and Ruth Ozeki’s A Tale for the Time Being
掲載:Education and Democracy at The End
著者:Mario Di Paolantonio
ジャンル:評論(文化批評?)
「-gender」および「-narrative」で排除。ひきこもりを描いたRuth Ozeki作『ある時の物語』をベースに未来への向き合い方を探る。
zombieは次の文で出てくる。無感動・無気力な人間をゾンビに喩えているようだ。ゾンビ=被支配者=主体的ではない=主体的に動く気力がない、という連想か。
神の人格に関する異文化の視点
原題:A cross-cultural perspective on God's personhood
掲載:Religious Studies
著者:Akshay Gupta
ジャンル:哲学
「-philosophical」および「-narrative」で排除。ただし、哲学的ゾンビではなく"zombie option"(ゾンビ選択肢)という文字列でzombieは出てくる。意味はわからない。
まとめ
検索条件1は教育学が一件だった。
興味を持ったのは、エジプトの歴史を論じた論文と、『ある時の物語』を批評した論文の二件。
まず、エジプトの方では、エジプト文化の話をしている最中にzombieという単語を使った点が気にかかった。ブードゥー教は、エジプトもあるアフリカをルーツに持つものの、カリブ海のハイチで花開いた宗教であり、古代エジプト文化とは大きく異なる。にも関わらずエジプト文化の論文でzombieから作られるフレーズを使ったのは、無思慮ゆえか、はたまた非白人文化に対するオリエンタリズムの表れか。
次は、批評内で無気力という要素からゾンビを連想した点。非人間性がゾンビに喩えられるケースは多いものの、人情や倫理に反したり、意識が喪失したり(哲学的ゾンビ)と、いかにも人間らしさがない場合にしか見なかったように思う。つまり、無気力程度でゾンビを喩えに出すのはあまりに珍しいのだ。批評対象の本を読めばわかるのだろうか。『ある時の物語』は日本語で売られているようだが…。
今回はねらいの論文はなかった。